第36話「金髪美女の恐怖の女」
俺の前で起こったのはいささか信じられないことだった。先程寄ってたかって言い寄られていた女の子がチンピラを殺したのだ。うなじの部分に鉄の棒が刺さっており、地面にヒビが入っていた。
「えっ?」
他のチンピラ達が驚いて逃げようと走り出した。ほんの少しチンピラを殺した女の子が怖かったため俺も一応疑いをかけられないように逃げたチンピラに向かって数発撃ち込む。3人逃げられ他はその場にパタリと倒れた。
別にこの女の子が怖かったわけではない。ただ、ほんのちょっぴり、ちょーちょっぴり保険をかけたまでだ。
べ、べつに怖いわけでは…
「あの〜?」
「ひっ!」
「????」
「あっ!いやなんでもないです。それよりどうかしましたか?」
思わず声を出してしまった。くどいようだけど別に怖いわけではないからね?
「助けてくれようとしてくれてありがとうございます」
「その必要はなかったけどね」
あっ!つい本音が…
俺は恐る恐る目の前にいる女の子の様子を見る。よく見ると俺と同い年くらいだった。背は俺より少し低く、髪はツインテールの金髪だった。
目の前の女の子はニッコリと笑いながら話し始めた。
「私女の子だから、女の子だから、か・よ・わ・い、んですよ?♡」
え?
もしかしたら俺の聞き間違いかもしれない。そう思えることを彼女は言った。
こいつヤベー奴だわ。うん、サイコパス。
俺は恐る恐る回れ右をし、走り出した。
「やばい、やばい、やばい」
「ちょっと〜待ってくださいよぉ〜」
女の子はニッコリと笑いながら俺を追いかけてきた。しかもかなりリードしたはずなのにもう追いついてないか?
女の子いやゴリラ女は俺の肩に手を置いた。
「お話ししましょ?♡」
俺は足を止めて仕方なく承諾した。下手したら殺されるかもしれないと思うほどだった。
俺はゴリラ女野郎に連れていかれて闘技場を後にした。
まっ、ノルマは達成できたからいいかな?
どこへ連れていかれるかも分からずに凄いスピードで引っ張られ、気がつくと喫茶店の前にいた。
「ここに入るのか?」
「うん!前から行ってみたかったの!」
彼女は嬉しそうに目をキラキラさせて言った。よっぽどここに興味があったのだろう。俺は仕方ないと思い付き合ってやることにした。
喫茶店に入ると俺はとりあえずアイスコーヒーを頼み彼女も俺と同じのを頼んだ。なんの会話もないまま向かい合っているのも気まずいので俺は適当に話しをすることにした。
「ゴリラ、じゃなくて君は喫茶店に行きたいと思っていたのにどうして行かなかったんだ?」
「だって…カップルしか入れないんでしょ?」
「はっ?」
俺は驚きのあまり声を出してしまった。こいつ喫茶店をなんなんだと思ってるんだよ!
「ちょっと待て。その理屈でいくと俺らは入れないだろ?」
「えっ?入れるけど?だって私たちもう…」
彼女は恥ずかしそうにもじもじしながら付き合っていると言った。いったいどういうことだぁ?俺はもうすでに理解できていなかった。
「俺らいつ付き合ったんだ?」
「えっ?忘れたの…」
「う、うん」
一応忘れたことにしておこう。なんせ色々と面倒だからな。
「私が襲われている時助けてくれたでしょ?その時もう付き合うフラグがたったのよ!」
「いやどんなフラグだよ!」
「だってこんな出会い付き合うor付き合うでしょ?」
いやいやいや!それもう付き合うの一択じゃねーかよ!てか助けてすらねーし!こいつ助けてもらわなくてよかっただろ!このゴリラ女!と少し状況整理をし俺は冷静にかつスマートに返答する。
「助けたからって付き合うとは限らないんだよ?あと俺にはもう心に決めた人がいるんだ」
もちろんこれは嘘ハッタリだ。心に決めた人なんているわけない。だがこんなアホのバカぢから女には分からずまい。
思わずニヤつきそうになる顔を引き締めて彼女の方を見る。もう絶望のような顔をしていた。そして俺の背筋がゾクゾクとした。
「騙したの?」
「えっ?」
「私を欺いて影で笑っていたのね!」
おかしいだろ!まだ会って数十分しかたっていないぞ。影で笑うもクソもあるかよ!
「…してやる」
うん?なんて言ったんだ?
「殺してやる!」
「えっ?」
彼女は近くにあったフォークを俺に投げつけてきた。後ろの壁にはフォークが突き刺さっている。
「ただじゃ済まさないからね?」
こ、こわい。いやもうこれ俺の死亡確定演出じゃんかよ!やばいぞ!
「ちょっと待て!俺はまだ付き合ってないと言っただけだろ?違うか?」
「だから?」
「つまりだ今から付き合おうと俺から言いたかったってことだよ」
「なーんだ。そっか!てことはそっちから言ってくれるってことだよね?♡」
なんとかその場しのぎで俺は延命した。
危うく死ぬところだったぜ。だがあくまでその場しのぎでしかない。ここは仕方なく付き合うことにするべきだろうか?
確かに思考と力を抜くと完璧だ。身の振りも外見もかなりいいだろう。だがこんな恐ろしいやつとは関わりたくないと本能がそう言っている。俺はのんびり暮らしたい派だ。こんなメルヘンチックな頭がお花畑のような奴には心底関わりたくない。
「早く?♡」
「は、はい」
こうして俺は付き合うことになった。今ここは地獄かと思うほど周りが暗く見えた。まぁ名前も住所も分からないはずだからこれっきり会うことはないだろう。
俺はそう思うと足が軽くなり、周りが明るく見えてきた。
そう!人生は楽しまなくちゃな!
だが次の日俺の家に来やがった。




