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End Of Days  作者: Van
第1章
7/25

【醜き者】

王都 ヴァルハン / ウェストエリア第10区 / 貿易港第14ポート



 客室の扉が開き明るい表情のダンテが室内に入ってきた。


「やぁ、お嬢さん今日も..ん?」


「?」


ダンテは喋りながらクランの目が少し赤くなっているのに気付き、表情を戻し真面目な口調でクランに語りかけた。


「どうかしたのかい?」


「いえ、なんでもありません」


そう答えながらもクランは気まずそうにダンテから視線を逸らしたがダンテは真っ直ぐクランを見たまま話し続けた。


「やっぱりキミは俺なんかじゃ想像できないくらいのモノを背負い込んじゃってるみたいだねぇ」


「....」


「俺は何も聞かないし、キミを止める事もしない。ただキミの背負ってるモノは女の子が背負うには重た過ぎる。誰かを頼りなよ。世界は広い理由を言わなくても助けてくれる人間はいる。だからキミはここに辿り着けただろう」


「....」


「この先キミの背負ってるモノはますます重たくなっていく。そして一人では持てない程重たくなってしまうだろう。それでも今のキミは一人で全部持とうとするはずだ。違うかい?それでは何も成す事は出来ないよ。キミは持てる分だけ持てばいい。持てない分は誰かに持って貰えばいい。だってキミは女の子だ。女の子が何かを背負って無理してる姿も泣いてる姿も本人より見ている方が辛くなるものさ」


「..ダンテさん ありがとうございます」


クランは無理に強くあろうとする自分をダンテに見透かされたみたいで恥ずかしくなったが顔には笑みと一筋の涙がこぼれた。それを見てダンテも笑い、いつもの飄々(ひょうひょう)とした感じに戻った。


「別にお礼を言われる程の事じゃないさぁ俺は金も貰ってるしね~、それにキミ程の美人なら男は誰でも助けちゃうよ。それが本能ってヤツさ」


「本能?..ですか..??」


「そぉ本能さ、まぁそれはさておき、はいコレ」


軽い感じで答えたダンテはポケットから【MC】を取り出してクランに差し出した。


「コレって」


ゲートを抜けるのに必要になるからねぇ、予め用意しといたのさ、流石に自分のは使えないだろう?居場所がバレちゃうし厄介な事になっても困るしね~」


クランは偽造された【MC】を受け取った。見た目は本物と変わらないが【MC】は偽造不可能と言われている。見た目を似せても本物には何重にもセキュリティが仕掛けてあり偽造はおろか本人以外は使用もできない仕組みになっているはずで、それをダンテが知らないとはクランには思えない。すると戸惑うクランに


「心配しなくても大丈夫だよ。王都の市街地までちゃんと俺が連れてってあげるからさ、ど~んと任せなさい。なぜなら引き受けた仕事は最後まできちんとやり遂げる‼それが俺のモットーだからさ」


ダンテは胸を張りいつもの自慢気な顔でそう言い放った。普通なら胡散臭い決まり文句を聞かされただけで不安が消えるはずもないのだが、クランは不思議と何とかなるような気がした。


「さぁ準備が出来たら早速出発しようぜ。時間は無駄にできないよ~」


「はい‼」


 準備を済ませた二人が船のタラップを降りる。久々の大地に足をつけるとクランは少しほっとした。しかし、それもつかの間の事で、近くの倉庫で屈強な男達に何やら指示を出していた頭の禿げ上がった小肥りの男がこちらに気付き一人近寄ってきた。


「よぉ、ダンテ~」


そう言って二人の前までやって来た男はじろじろとクランの事を見てダンテに視線を移して言った。


「誰だぁこのべっぴんのねぇちゃんは?」


「うちの新しいクルーですよ。ポルネロさん」


「新しいクルーねぇ~」


そう言って舐め廻すようにクランを見ながら距離を詰める。クランは背筋に嫌な寒気を感じて体が仰け反った。


「それで、何のご用意なんですかねぇ?」


ダンテはすかさず体をポルネロとクランの間に滑り込ませ小肥りの男を見下ろす形で向かい合う。邪魔されたのがしゃくに触ったのかポルネロは舌打ちしながら答えた。


「特に用はねぇがおめぇがまた悪さしてんじゃねぇかと思ってな。まぁ、おめぇが何しようと知ったこっちゃねぇがこっちに火の粉が舞ってこないようにはして貰わねぇとなぁ?」


「わかってますってぇ、当たり前じゃないですか」


ポルネロはそれを聞き流しダンテの後ろに隠れているクランを覗き込んでにんまり笑った。


「お嬢さんこんなヤツの船に乗るよりうちに来ないかい?」


その醜悪な表情にクランは嫌悪感を隠さずポルネロを睨み返す。


「まぁまぁポルネロさん、ご迷惑はかけませんのでご安心を、俺達ちょっと急いでるんでこれで失礼しますね」


ダンテは急かすようにクランの背中を押してその場を離れ市街地へと続く入国管理局のゲートへと急いだ。その背後にはクランをいやらしく見つめるポルネロのねっとりとした視線がずっと絡み付いていた。


「ダンテさんあの人は何なんですか?」


「あぁ、あれはここで主任をしてるポルネロってヤツさ、結構ヤバイ連中とも繋がってるからあんまり関わり合いになりたくない相手なんだよねぇ、ポルネロ自体は小者なんだけどね...」



 ダンテ達がゲートへと向かっていったのを見届けた後、事務所に戻ったポルネロは部下達を呼びつけていた。柄の悪そうな男達がポルネロの元へ集まっている。


「お前らダンテと一緒にいた女見たか?あれはカイレンの摩天楼に高く売れそうだ。都合がいいことにちょうど今カイレンからお客様が来てるしな」


「ボス、奴らとはあんまり関わり合わない方が..」


「てめぇ何ビビってやがんだコラ‼」


怒声を上げてポルネロは意見してきた部下を灰皿で殴り倒し動かなくなるまで何度も蹴りつけた。この男(ポルネロ)は自分の思い通りにならない事と意見される事が我慢ならない、上司であろうと自分に何か言ってきた人間には必ず復讐してきた。そしてその苛立ちを抑えようともせずに部下に命じた。


「いいか‼てめぇら‼今日中にあの女拐ってこい‼証拠あし残すんじゃねぇぞ‼」


「はい‼」


男達が逃げ出すように事務所から出て行くとポルネロは煙草を1本取り出しソファーにドカッと腰を下ろすと置いてあったライターで火を着けた。


「カスどもが【闇職人イベルド】ごときにビビりやがって」



 入国管理局の建物とゲートとが近づいてくるに連れて警備が段々と厳重になってきていた。クランは船を降りた時からセーフティロイドや監視ドローンが巡回しているのは見ていたがここまで来ると大型のバトルロイドの姿まである。それほど港の外と内を仕切る壁は厳重に守られていた。そして更にゲートの前には完全武装した兵士が数名立っている。自然と肩に力が入りそれに気付いたダンテが小声が呟く


「大丈夫、自然体でいる事が大事だよ」


「はい」


クランは小さく深呼吸してゲートの前へと進んだダンテの後に続き、無表情で審査官に【MC】を手渡した。カードを手に持った機器に通し投影されたホログラム画像をスクロールさせながら審査官はチラチラと何度もクランに視線を投げてくる。クランは背中に冷たい汗が流れるのを感じながら無表情で耐えた。


「何か問題でもありますかねぇ?」


「....いや問題ない」


ダンテにそう答え審査官はクランにカードを返すと手でゲートを開けるように合図した。ゆっくりと重厚なゲートが開いていく。その先を見つめるクランの瞳には安堵と決意の色がうかがえた。


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