【咎人】
王都ヴァルハン / ウェストエリア第3区
ピーク時の騒々しさは既に無く、今は軽食を取る客がポツポツと数人いる程度まで落ち着いた店内、クランとダンテはバイルに連れられてレガーロの二階にある事務室に通された。最初ダンテは下で待つと言ったのだが、ダンテの考えなど言わずとも分かるバイルに半ば強制的に連れられて、今は二人揃って事務室のソファに座っている。
「それで....何が聞きたいんだ?」
バイルは二人に向かい合う形でソファに座り、クランを真っ直ぐに見て尋ねた。全てを見透かすその視線にクランの動悸は早くなる。それでもしっかりとした瞳でバイルを見返して答えた。
「すみません、全てを詳しくお話しすることはできません。それにどうお話しすればいいのかも正直分かりません。ですが一つだけはっきりと言える事があります。このままだとベルキア王国は滅びます」
バイルの目尻が一瞬動き、ダンテの表情から飄々とした感じが抜けて目が細まる。クランは話を続けた。
「私は聖ミネルヴァ神国で..その....き...【記録書士】をしていました」
「えっ!?【記録書士】?クランちゃん、キミ...【記録書士】だったの?」
ダンテが驚きの声をあげるが、バイルに動揺は見られない。
「その若さで【記録書士】か...大したものだな」
「い、いえ、そんな..たまたま運が良かっただけで..」
「いやいや運が良かっただけって...【記録書士】っていえば上級神官の中でも一握りのエリートしかなれない役職じゃない」
「その男の言う通りだ。【記録書士】はこの国の【竜騎士】と同じで運でなれるもんじゃない。優れた知性と卓越した魔法技術を併せ持ち、高度な戦闘スキルがなければなれない筈だ。あんたの若さでなれる者はかなり少ない」
「ほらね?だってさ【祓魔師】と【記録書士】はミネルヴァの二大戦力でしょ?」
「..は..はい...それはそうなんですが」
クランは余りその話題を広げたくないのか俯き加減でダンテから視線を逸らす。そんなクランにバイルが助け船を出した。
「話が逸れてしまったな、元に戻そう。それでベルキアが滅ぶとはどうゆう事なんだ?」
その問い掛けにクランは顔を上げた。眼差しは意識して力強いがバイルはその表情がどこか沈んで見えるのを見逃さなかった。
「はい.....これからお話しする事は戒厳令が敷かれているので公にはされていません。なので知るのはミネルヴァでも一部の限られた人間だけで、始めにお話ししたように詳細までは語れません。しかしミネルヴァで起こった事がベルキアを含む世界全ての国を巻き込んでいくのは間違いありません」
「......」
「......」
「1ヶ月程前になります。聖都アラトリアである人物が殺害されるとても凄惨な事件が起こりました。それは決してあってはならない世界を揺るがす陰謀の始まりに過ぎず周到に練られた計画の一部でしかありませんでした。その悪魔の計画を実行に移した首謀者の名前は【ヨシュア・エグゼビア】」
ヨシュアという名前に今まで眉一つ動かさずクランの話を聞いていたバイルが反応した。
「ヨシュア・エグゼビア.....」
「..エグゼビア?どっかで聞いた事あるような...」
「......」
「アラトリアの【神紋官】だ」
「あぁ、思い出した。ヨシュア・エグゼビア歴代最強の【神紋官】で最速で最高位神官まで登り詰めた男だ...って..ん?そのエグゼビアが殺人犯なの??」
「..確かに彼はアラトリアの【神紋官】でした。ですが今は......神に仕える事を辞め、その手を血に染めた咎人です。私は彼を追ってベルキアへ来ました。ヨシュアは今この国に来ています」
「......」
「首謀者と言ったな?他に仲間は何人いる?」
「分かっているだけで3人います。2人は素性が分かっていませんが、1人は国際指名手配されている【メラルダ・スコール】という女です」
「血雨の幽霊か...そんなのが絡んでるとすると恐らく残りの2人もかなり面倒な連中だろう。そしてそんな連中を使わないと殺せない程の相手だったのかあるいはその計画とやらを実行するのに必要だったのか....まぁそれは聞くだけ無駄なんだろう?」
「....すみません」
「かまわん。だが何にせよ、そのアラトリアで起こった事が世界で...いや、ベルキアでも起こり破滅へと繋がるという事か?」
「はい...恐らく明日の【蒼月祭】に時を重ねて動き出すと思います」
「なるほどな内容は話せない。だからそれ阻止するには明日の祭までにエグゼビアを見つけ出さなければならない....か?」
「.....勝手なお願いだという事は分かっています。ですがどうか力を貸して頂けないでしょうか?」
「俺は手を貸すよ。理由は分からなくても美人は放っとけないからね」
「....ダンテさん、ありがとうございます!!」
「調子のいい野郎だ。....しかし、もし見つけ出せたとしてそれからどうするつもりだ?力の差は歴然、おまけに第一級暗殺者とそれと同等格の連中が分かっているだけでも2人、まず勝ち目は無い」
「考えはあります。少なくとも私の話は聞くはずです」
「なぜ言い切れる?」
「それは....ヨシュア・エグゼビアは私の婚約者だからです」




