【魂絆】
キングスヴァンガードは竜舎を囲むように建物が混在している。竜舎の北西にも高さ約100mのツインタワーが立っていて、北側の第1タワーには司令センターや情報解析室、兵器兵装開発局、さっきまでウォルマとジェリアがいた司令官室など主に軍事に関わる部署が入っている。西側の第2タワーには医療・研究フロアや飲食フロアなどがある。その2つのタワーを繋ぐ空中歩廊からウォルマは下を見下ろしていた。小さく見える人影は北の【ダムルート大森林】へと続く門の前に整列している候補生達とそれに向かい合って立つ数人の竜騎士だ。そこにはこれから【血の試練】へと赴く候補生達に向かっておそらく激励と脅しをかけているであろうリシュの姿があった。
真剣な眼差しでリシュの話を聞く候補生達、竜騎士はベルキアでは誰もが1度は憧れる職業だが誰もがなれる訳ではない。それは文字通り努力とは別に必要なモノがあるからだ。それを持っていたとしても試練を耐え抜いて竜騎士になれるのは年に数名だ。だからこそ竜騎士となった者は大いなる力と名誉を手にする事ができる。それを遥かに凌ぐ重責と一緒に....
{騎士の誓約}
我 竜と生きる者 その力を持って国を守護し民を守る 如何なる邪悪にも屈せず 如何なる誘惑にも染まらず 如何なる災いも打ち払う 竜と伴に空を駆け 命の炎が消えるまでこれを全うす
竜騎士には他に無い三つの特性がある。一つ目は生まれつき普通の人間より身体能力と感覚が数倍高くて鋭いという事だ。それは【竜適性】と言われ竜騎士となる資質であり条件でもある。古い伝承などでは生涯を供にする竜が生まれる時に竜騎士も生まれるとされその影響で身体能力などが上がるなどといった話も有るようだが実際はわかっていない、研究者の間では魔導師のようになんらかの月の影響を受けているのでは?というのが一番有力な説となっているらしいが竜騎士本人にしてみればどちらでもいい話だ。そしてその謎の多い竜適性を持った者が竜騎士なる為に受けるのが【血の試練】であり、それを乗り越えた者だけが竜との間に絆が生まれる。その竜と結ばれた絆の深さを数値化したものを【魂絆】といい、【魂絆】は竜騎士と竜の成長率によってその数値を上昇させ両者の戦闘能力などを増加させる。その上昇は一定の数値範囲内に入ると上昇率が減速または休止するが何かしらのきっかけで【魂絆】が覚醒し竜騎士と竜の身体に変化を生じさせる程の数値の上昇と戦闘能力の爆発的な増加を促す。そしてもう一つそれとは別に竜との絆ができると竜が生み出すエネルギー【ルーン】を共有できるようになる。それが竜騎士の二つ目の特長だ。
魔導師が【朱月】からの【ルナ】を用いて魔法を使うように竜騎士と竜はその竜が生み出すルーンを用いて魔法を使う。そして竜騎士が持つ武器【イクシオン】もルーンの作用を受ける。特殊製法により【魂絆】で結ばれた従属の竜の血を超金属と混ぜ合わせて創られたこの武器は専用武器であると同時に持ち主である竜騎士のルーンに反応してその形状を槍や剣そして銃など戦況に応じて変化させる事ができる。また魔法を集束し纏わせたり、蓄積して放ったりする事も可能だ。普段は籠手の形状で持ち主の利き腕に装備されていて微弱の解毒作用と治癒促進効果もある。
三つ目は国に従属する陸海空軍の王国軍とは違い竜騎士は国王直属の部隊であるという事だ。国王直属と言っても実際は指揮命令系統の中枢は全て3人の【オプティマール】が取り仕切っていて、王国軍との共同作戦で王国軍側の将軍の指揮の元で作戦を遂行した事はあれど、王の勅命などウォルマの知る限り出たことがない。いずれにしろ国王直属の部隊であることに変わりはない為、王国軍とは階級の呼称とその昇進の仕組みが違う。
【アプレンティス】訓練生 腕章は無い
【魂絆】【血の試練】により覚醒
【ライダー】下級の【竜騎士】腕章の色は青
【魂絆】覚醒範囲 1000~1300
【ソルジャー】中級の【竜騎士】腕章の色は黄
【魂絆】覚醒範囲 2100~2500
【ナイト】上級の【竜騎士】腕章の色は緑
【魂絆】覚醒範囲 3300~3700
【マスター】小隊の指揮官 腕章の色は赤
【魂絆】覚醒範囲 5800~6400
【フラーブルィ】司令官 腕章の色は銀
【魂絆】覚醒範囲 11600~15900
【オプティマール】最高司令官 腕章の色は金
【魂絆】覚醒範囲 30000~45000
【ケツァルヘルト】? ? ?
【魂絆】? ? ?
竜騎士の階級はケツァルヘルトを除くオプティマールまでの7つ、その昇進の条件は経験や功績、個人の能力は勿論だが一番重要なのは【魂絆】の覚醒で、覚醒により竜騎士はルーンを使用する際などに瞳孔の色が変化する。その変化した瞳孔の色がそのまま腕章の色となっていて、それは戦闘能力の高さがそのまま階級となっていると言っても過言ではないと言うことだった。だが覚醒はそれほど簡単にはいかず【魂絆】の数値が覚醒範囲内に入っていても何年も覚醒しない者もいれば、前代未聞のイレギュラーだがウォルマのようにマスターになったばかりなのに既に【魂絆】の数値がフラーブルィへの覚醒範囲に入りいつ覚醒してもおかしくない者もいた。
ウォルマの見下ろす地上では、まだアプレンティスですらない候補生達を引き連れてリシュ達がダムルート大森林へと向かって出発していた....