第8話 現状
この世界に来て、最初に訪れたのは天空城だった。
そして四年が過ぎ、この世界で二番目に訪れた場所。
それがここ。
俺が天空城から落ちてきた時、直径二千五百メートル程の更地を作ってしまった場所だ。
そこの更地に俺は城壁を作った。
更地を囲むようにぐるっと一周。
高さ十メートル、幅十メートル。
その堀の先は十メートルくらいで森になる。
城壁の外側には、幅十メートル、深さ十メートルの堀があり、水で満たされている。
その水は南側にある川から引かれている。
南側の川は向こう岸が見えない。
あちら側まで十数キロ。
日本に住んでいた頃は、こんな川幅はありえないと思っていた。
もう海だよね。
磯の香りはないけど。
それで城壁の中。
南側の半分近くが湿地帯になっていた。
もともと川の岸辺だったのもあるのかと思う。
俺はそこを利用して、区画分けして田んぼと畑を作った。
俺の弓の師匠でもあるハリィ姉。
彼女は、狩りと食の女神ハリュイルイ。
その彼女が、俺のために大地母神、豊穣の女神タラミラ。
ミラ姉と二柱で、創世神世界から稲を取り寄せ育ててくれた。
だから俺の手元には稲の種籾があった。
もともとこちらの世界に根付いている食べ物の種も各種もらってきている。
自給自足できるかなと思ってがんばることにした。
ミラ姉から教わった大地の魔法は、土を動かす魔法の他に豊穣の魔法もある。
城壁や家を作るのにはすごい助かる魔法であり、さらには土地を豊かにする。
なんて便利な魔法。
おかげで天空城からここに落ちてきてから、もう半年以上が経っていることもあり、金色の稲穂が当たり一面に広がっている。
城壁内北側の話をしよう。
まず、北東の位置に門を作った。
門の位置をそこにした理由は、城壁の外側が広場になっていたから。
橋をかけるのも便利かと思ってそこにした。
その門の隣には見張り台。
その周りには掘っ立て小屋みたいな家が並んでいる。
俺が魔法で作ったのではなく、皆が自分達で作った家だ。
北側の真ん中には、俺の家。
三LDKの我がお城。
その西側には、ポチの小屋が建っている。
まあ、東側からはあまり姿が見えないように城壁と同じサイズの塀で囲んでいるけど。
俺の家には俺の他ターニャが一緒に住んでいて、皆からはお社って呼ばれている。
その西側にポチの小屋がある。
え?皆って?
ああ、ターニャの部族が一族ごとここに引っ越してきた。
二百人程度だけど。
ここは外界から遮断されている土地で、標高五千メートル級の巨大な旧火山の火口でできたカルデラらしく、ここの高さは標高三千メートルくらいらしい。
そのため、周りは二千から三千メートル級の山々で囲まれているように見える。
水はこの場所から更に西に直径百キロメートルくらいはあるだろうってくらいの湖があり、そこから東と南にむけて川が流れている。
湖は、山の雪解け水などの地下水がかなり涌いているらしく、透明度も高く、深さもかなりありそうだった。
それに川と言うけれど、その川幅は五千メートルはあるけれど。
ターニャ達の祖先は別な大陸での戦に破れ、船で海に出て命がけでこちらの大陸に渡ったらしい。
そしてたどり着いたこちらの大陸は、魔獣の宝庫だったらしく魔獣におびえ日々の暮らしを送っていた。
絶滅しかかっていたところ、黒竜に助けられ黒竜の加護を得て黒竜に従い、その眷属として暮らしていた。
今まで暮らしていたところは魔獣も多い土地であり、平和とは程遠かった。
だが、ここは違う。
黒竜がいるから基本的に魔獣は近付かない。
例え黒竜がいなくても城壁は強固で、よほどの魔獣の攻撃ではびくともしない。
と言うか、このカルデラの中に住む獰猛種の巨大魔獣の多くは既に俺とポチで狩ってしまった。
また、この地には空を飛ぶ魔獣も強いものは居ない。
万一のために、東地区には地下シェルターも作ってある。
家を建てるよって言ったのに、俺には手を出させてくれなかったから家の変わりに地下シェルターを作ってみた。
普段、俺は田畑仕事はやらせてもらえない。
田畑の仕事のやり方を指示するのが俺の仕事で、主に小さな子供やお年寄り、力が無い女達の仕事になっている。
今の俺の仕事は、男達や戦える女達に魔法を含め戦い方を教えている。
ターニャをはじめ、何人かはかなり強くなったと思う。
特にターニャは肉体強化魔法を使いこなし、忍者アニメのくのいちと言っても過言でもない体術を会得していた。
「これなら行けるかな?」
ターニャの実力を見ながら、俺は、ふと、独り言を漏らしていた。