第7話 出会い
俺の目の前に現われたのは、ファンタジーでおなじみの黒竜。
地球に居た頃は、アニメや小説に良く出てくる存在だ。
その実際の姿に、大きさに俺はただ驚いていた。
『テン……テンク……天空から降って来たのはヌシで間違いは無いか?』
同調の魔法か?
俺の耳に聞いたことが無い声が響いた。
小さな姿だったティス姉が初めて会ったときに俺に使った魔法。
相手の心に話しかけ、相手の気持ちを読む魔法。
創造神と同じ魔法を使う黒竜か。
俺の心の中の警戒レベルが1つ上がった。
盾の魔法を念じ、オート発動状態で留める。
『そう警戒するでない。
ヌシを喰らうために来た訳ではない。
ヌシが今、天空城から落ちてきたように見えたから、聞いておるのだ。』
『俺は、天空城の主、創造神アハティス様の使徒。
名を……。』
あれ?ティス姉になんて名付けられたっけ?
いつも姉様達から「おい!」とか「お前」とか「チビ」とか呼ばれるから、名前を忘れてる。
確か初めて会った日に名前もつけられたと思うんだよねぇ……。
確かあのときって……。
アハティスの弟分ってことで、アハトなんとかって言われた気がするんだよねぇ。
アハトって確かドイツ語で八を意味する言葉だったと思うからそれで良いか。
「名をアハト!」
俺は声に出して叫んだ。
『すべて聞こえていたが……。』
「・・・・・・・・・・。」
「アハト。
それが俺の名前!
それで黒竜の名は?」
『我に名前は無い。
神龍カルミルア様にも黒竜と呼ばれておる。』
『黒竜ーーーーーーーーーーーーー。』
頭の中に大きな声が響いた。
『その子と敵対するとあんたじゃ殺されちゃうから、敵対しないでーーーーーー。』
うるさい……。
なんだ今の声、カルミ姉か?
俺が黒竜を殺す?
そんなことでき……るな。
どう感じても、黒竜はナティー姉よりも格段に弱いや。
『我を殺すことができると言うのか?
このチビが?
我がこのようなチビに殺されるなど、姫様はもうろくしたのか』
「十歳のチビに試しに軽く殴られてみる?」
『何を言っている?』
「カルミ姉の言葉、聞こえたんでしょう?
どうせ無理だと思ってるだろうから試してみようよ」
『ふむ。
どうせ我が鎧である鱗にはばまれ、ヌシの手が壊れるだけぞ?』
「よ~し。
ど~~ん、とやってみよう!」
我が手は神龍の力をも切り裂く……あ、切り裂いたら殺しちゃうか。
神龍の力よ。
守護を司る盾となれ。
右手に握りこぶしを作り、握りこぶしの先に小さな盾を生み出す。
きっとこれなら当たり所が悪くても殺さない。
我がこぶしは、戦神の一撃!
どっが~~~~~~ん!!
俺に体を殴られた黒竜は、吹き飛び、土壁を巻き込み、壊し、更にはその先の木々を巻き込み止まった。
あちゃ~。
死んでないと思うけど、やりすぎたかな?
結論、黒竜は生きていた。
瀕死だったけど。
癒しの女神サーシャ姉の力で回復させた。
鱗は何枚か剥がれ落ちてしまったけど、それも魔法で新しいものが生えてきたから良いよね。
目が覚めた黒竜は、俺の前にうずくまり、どうやら敬意を払ってくれているらしい。
で名付けろと言うので名前をつけてみた。
高尚な名前を……。
「ポチガトラ。
愛称ポチ!」
あっちの世界で飼っていた犬の名前だ。
あははは……。
名付けのセンスがない俺に名前をつけろというのが間違っているな。
クロじゃないだけましだろう。
ポチは数日後に戻ると言い残し、空に羽ばたいて行った。
俺はまずポチが壊した土壁を直した。
木材の加工もアイテムボックスはきっちりやってくれる。
それに大地母神であるミラ姉の土木魔法はすごく便利。
アイテムボックスの中の木と魔法で、小さいけど家を建てることができた。
一階建て、三LDKの部屋だ。
まあ、モデルはあっちで住んでたマンションなのだが。
囲んだ土地の半分は田と畑にした。
土壁は城壁のように堅くした。
ああ、そうそう。
城壁は川の縁まで届いたらしく、堀の中は川の水で満たされていた。
そして数日が経ち、黒竜が戻ってきた。
背に一人の少女を乗せて。
「主、アハト様。
黒竜ポチガトラ様の巫女、ターニャでございます。」
赤と白の羽織を着ている俺より少し背が高いくらいの大きなくりくりとした目の女の子。
それがターニャとの出会いだった。