第5話 黒竜
目覚めていた。
我は目覚めていた。
寝起きの咆哮が届いた我を奉ずる村では、祭壇に贄が捧げられた。
贄として祭られた聖船を我の住処へと運び込む。
贄の中には多々の食料のほか、今期の我の巫女となる少女がいた。
◇◇◇◇◇
八百年以上も昔のこと。
我は戦にやぶれ、魔の領域へ逃げ込んだ者たちと契約をした。
その者達をまとめる者、その者とその仲間には力があった。
その仲間だけであれば、魔物の領域の入り口付近であれば、生きていくことは可能だったかもしれぬ。
ただ、彼らは数多くの力なき者と一緒に居た。
力無き者は、魔の領域で暮らす魔物にとって単なる食料であった。
いや、力有る者も力無き者を守るため、疲れには勝てず魔物の食事となっていた。
そしてその者たちは領域内の魔物に襲われ数を半分にまで減らしていた。
その者は、食べられる物を探すため仲間たちと魔の領域の奥へ入っていた。
そこを力なき者を食料とする魔物に襲われる。
戦える仲間たちは魔物と相対し、力なき者は魔物から逃げた。
少女は弓をそこそこは使える自信があった。
魔物と出会った時も、仲間を援護するため弓を放っていた。
だが魔物は強かった。
今回の食料捜索のリーダーを任せられた戦士が魔物の爪に切り裂かれ絶命した。
それが合図となったかのように、仲間は恐怖に駆られ逃げ出した。
弓を放っても魔物には傷ひとつつかなかった。
そのことにより少女の自信は脆くも崩れ去り、そして仲間の死を受け恐怖に駆られ逃げだした。
だが、逃げた先が悪く、そこは切り立った崖であった。
背後から迫り来る魔物。
恐怖のあまり少女は崖を飛び降りた。
崖の途中に生えていた木の枝がクッションとなり少女の落下速度は落ちた。
また落ちた先も谷底を流れる川の水面だったことも幸いした。
そして少女は流されて行った。
木の枝に当ったとき既に少女は気を失っていた。
そのおかげもあってか水を必要以上に飲むことも無かった。
さらにいくつかの幸運が重なり少女は砂利浜になっている川岸に流れ着いた。
そして少女を彼が見つけたことも少女にとっては幸運だった。
少女はとある洞窟の中で目を覚ました。
近くには炎が焚かれている。
そして体には血生ぐさい獣の皮が幾枚も掛けられていた。
目覚めた少女は記憶を思い起こす。
そして自分の体を確認する。
着ている服はぼろぼろであったが体はどこにも痛みは無い。
それどころかこれまで度重なる戦闘で受けていた傷跡さえなくなっていた。
『メザメ…カ…。
ヒト……ノムスメ…』
少女の頭の中にたどたどしい言葉が聞こえる。
少女の目の前には一つの黒い塊があった。
少女にはそれが何かわからなかった。
『ワレハ……コクリュウ……。』
黒い塊だと思っていたものから眼が開き、赤い眼が少女を捕らえた。
その瞬間、少女は再び気を失った。
次に少女が目を開いたとき、再びそこには黒い塊があった。
少女は三度気を失う。
それを後二度ほど繰り返した後、少女は気を失わないまま起きていることができるようになった。
そして黒竜と対じした。