プロローグ 旅立ち
週末の金曜日。
俺は仕事帰りに会社の近くの書店ランガーゴーで、今日発売の文庫や単行本を買い愛車に乗り込んだ。
最近はネット通販で本を買う人も多いが、店舗特典とポイント付加があるので俺は毎回、本やゲームなんかはその店で買っている。
最近は毎月のように異世界物やMMOのネット小説が単行本化されたり、漫画化、アニメ化されて諭吉さんが数枚飛んでいくことさえもある。
『この時代に自由に金を使える社会人で良かったとつくづく思うわ』
そんなことを考えながら、俺は家路へと急いだ。
急いでいると、案の定と言うか信号で止まる。
ここは二つの国道が十字路を作る大きな交差点で、左折レーンも二車線ある。
俺は、ここを左折するために一番左側の車線に並ぶ。
夜9時を過ぎているのにもかかわらず車が多い。
俺の前にも数台止まっている。
急いで帰るなら、その隣の二番目のレーンに並ぶのだが、そのレーンの一番前にバックホーを載せたトラックが止まっていた。
さらにその奥のレーンには海にナンパにでも行くのか、爆音を響かせた車が一番前に止まっている。
『絶対に左のレーンのが早い』
そう思って一番左のレーンを選択した。
この選択が、俺の運命を変えることになるとは思わなかった。
信号が青になる。
俺の前方一台目の車が走り出す。
二車線目のトラックも走り出した。
青になったことに送れて気づいたのか、三車線目の爆音を響かせた車が走り出した。
あろうことか左に曲がりながら。
トラックの運転手はその車に気づいていなかったのか、二台はぶつかり合った。
爆音を響かせていた車がトラックの前輪と後輪の間に突っ込み、トラックの後輪がその車のフロントに載った。
俺はそこまでを確認し前の車に続いた。
『あの車はトラックを抜くつもりで三車線目に並んだのか』
止まったトラックの脇を抜けようと、前の車に続いた。
その時。
「え?」
思わず声を出していた。
ゆっくりと斜め前からバックホーが倒れてきたのだから。
そして俺の記憶はそこで途切れた。
次の日のローカル新聞の朝刊には、
「昨夜、九時過ぎ、A国道とB国道バイパスの交差点にて事故発生。
事故車に積載されていた工事車両が倒れ、巻き込まれた社会人一名が死亡。
無謀な追い抜きが原因か。
警察は事故の原因究明を進めている。」
と記事が載ったことなど俺は知らなかった。