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ケモ耳娘住みました

俺の借りてるアパートについて話そうか。

まず簡単な説明から。1Kで六畳半。トイレ風呂付き。以上。

その中で、部屋の話をしよう。

俺は普段六畳半の部屋に布団を敷いて睡眠をとっている訳だが、問題が一つ。


「ご主人~!シャンプーが切れてしまいました!」


風呂場から透き通った声が響いた。

俺は料理をしていた手を止め、詰め変えのシャンプーを収納棚から取り出し、少女に渡しにいく。


「開けるぞ」


ノックをし、扉を開けると、バスタオルで体を隠したケモ耳娘が顔を覗かせた。タオルからわずかに覗かせる肩の肌は白く滑らかで、ついドキッとしてしまう。

って違う。問題とはこいつの寝床の事だ。いくら居候(本人曰くペット)とは言え、床に寝かせるのは可愛そうだ。最悪、俺の布団を明け渡すことになる。


「あ、ご主人!折角なので背中流しますよ!?」


「遠慮しとく」


馬鹿な事を口走るケモ耳に少しだけ冷めながら背を向け、俺は料理を再開した。


「……長ぇな」


素朴な料理が完成し、既に配膳を終えているのに。

と考えているうちに風呂はすんだらしく、ケモ耳は脱衣所から出てきた。

俺は声をかけようと彼女を見ると、ある光景に目を見開いてしまった。


「どうしたんですご主人?顔真っ赤ですよ?」


「そ、そんな事より服着ろよ!」


ある光景とはケモ耳娘の格好の事である。

彼女はあろう事かバスタオルを巻いただけの姿で出てきたのだ。隙間からちらりと太股が見えたので、急いで視線を逸らす。

「服着ろったって、無いんですよ」


「……あー」


そう言えばそうだな。こいつのいた段ボールには何も入ってなかったしな……


「ジャージで良いか?」


「ご主人お優しい!」


「へへ、褒めたって飯とデザートしかでねぇよ」


俺はタンスから上下黒のジャージを引っ張りだしてケモ耳娘に渡した。


「尻尾の穴開けて良いですか?」


「……それくれてやるよ」


さすがに尻に穴開いたジャージを履く気にはなれなかった。


「ご主人の臭い……はぁはぁ……」


「さて着替えたら飯にしようか」


何か言ったような気がしたが聞こえない。そう、俺は何も聞かなかった。


「ご飯は肉じゃがですか」


「不服か?居候の分際で」


「いえいえ。ご主人料理出来たんだなぁと」


「出来なきゃ一人暮らしなんかしてねぇよ」


「何これうま!」


「話聞けよ」


ケモ耳娘はほとんど箸を止めず、肉じゃがにがっついていた。


「ふぅ、満腹」


目を細めて本当に幸せそうに口元を緩めるケモ耳娘を見て俺はつい微笑してしまう。

ふと、彼女の器に目を向けた。

なんとそこには大量の玉葱が!


「おい」


「はい?」

「好き嫌いしたら駄目だろ?」


「私一応犬の身でもあるのでそれ食べたら死にますよ?イヤですよ死因玉葱なんて」


む、そうだったのか。

犬が食えないもの、調べる必要があるか……。


「そうだ。デザート食うか?」


「是非頂きます!」


「よしきた」


俺はある型に生地を流し込み、冷蔵庫から一つのパックを取り出してその中身を詰める。

焼きあがれば完成だ!


「ご主人!この香りは!」


おっと、ケモ耳娘も知っていたか。

生地の形は魚でその腹にはパンパンになるほどの粒餡が詰められているタイ焼きだ。


「飯の直後のタイ焼きだが……平気か?」


「デザートは別腹です!」


俺はケモ耳娘にタイ焼きを渡してやると、顔から半分近くを頬張った。

彼女は頬に手を当て、何とも幸せそうな笑みを浮かべていた。


「好きなのか?タイ焼き」


「はい。ですが、タイ焼きと言うかあんこが好きなんですよ。特に粒餡なんて、最高ですぅ」


残りの半分を頬張り、デザートの時間は終了だ。


「ご主人、遊びましょう」


「歯ぁ磨いて寝ろ」


「えー!?まだ早いですよ!!まだ八時にもなってません!」


なぬ……

そう言えば、俺今日は早く帰ってきたんだよな。そんでもって、明日は休みだ。


「……しゃーねーな。何するかによるぞ?」


「ブラッシングをお願いします!」


どこから取り出したのか、ケモ耳娘は俺にブラシを渡してくる。


「尻尾、自分じゃあやりにくいんですよ」


「そ、そうか」


「あ!優しくお願いしますね!?」


確か動物の尻尾って敏感なんだっけか?

こいつ、耳の件がトラウマになってやがる。

俺はブラシを受け取ると、尻尾を手のひらに乗せる。

俺の手から肘くらいの長さのある尻尾は、驚くほどもふもふだった。

「やべぇ、超気持ち良い」


指を尻尾に這わせると、ケモ耳娘はビクンと背筋を伸ばした。

が、俺は止められない。

彼女の尻尾に顔を埋めたくなるが、さすがにセクハラの域だ。だから俺はブラシを使わず手で毛を解かしてやる。


「わふぅ///」


十数秒続けると、なんとケモ耳娘は仰向けになったではないか。どうやらホントに犬が混ざっているらしい。これの容姿が美少女ではなくゴールデンレトリバーなどなら腹を撫でたかもしれないが、残念だ。


「はれ?続きしてくれないんですか?」


真っ赤な顔で、しかも惚けた目で言われると俺のアレが少しばかり反応してしまいそうになるが、そこはどうにか理性で押さえ込む。


「ブラッシングは終わっただろ?」


歯を磨くために立ち上がると、後ろから「ご主人の意気地なし」と聞こえたが、知り合って数時間で襲わないだろ普通。


「ご主人!お布団敷いておきました!!」


三分後部屋に戻ると一組の布団が敷かれていた。正真証明、俺のだ。


「って、お前はどこで寝るんだ?」


「ご主人の隣で……」


「布団は使って良いぞ。俺は座布団使って寝る」


「何でですかぁ!?」


絶叫をスルーし、折った座布団を枕代わりに横になる。ケモ耳娘も、電気を消してから布団に入ったようだ。


「おやすみなさいご主人」


「……今まで流してたけど、ご主人ってのは止めねぇか?俺には春斗って名前があるんだ」


このご主人って呼び方だと、ナントカデイズの青いのを思い浮かべてしまうしな。


「……わかりました。春斗さん」


「おう。ケモ耳」


「ちょっと待ってください今なんて言いました!?」


「だからケモ耳って」


「人の見た目から変な愛称つけないでください!」


「じゃあ最初に名前くらい名乗れよ」


一瞬で静寂に変わる。

え?あれ?もしかして地雷踏み抜いたか?


「……私には名前が無いのです。良ければ、春斗さんが名付けてくれませんか?」


やっぱり地雷だったか。

しかし、彼女は何故名前が無い?

普通なら親が付ける……いや、今は止めておこう。

自分から言い出さないということは知られたくないことなのだろう。だから、彼女の口から話されるまで、詮索はしない。

今は、今の生活を楽しもう。


「分かったよ。あんまり期待するなよ?」


とは言っても、名前なんて考える機会が無かったので、かなり難しい。

犬にも人にも使える名前が良いな。

うーむ。

俺は悩みながら出会ってからのことを思い浮かべた。

偶然出会い、風呂に入れて、肉じゃがとタイ焼き食わせて、尻尾解かして……

あ。


「アズキ」


そうだ。

彼女はタイ焼き食べてるときにあんこが好きといっていた。

だからと言ってあんこはダイレクトすぎるし人の名前としてはどうかと思う。だからこその、小豆アズキだ。

女の子の名前としてはどうかと思うが、本人に決めてもらおう。


「アズキ、アズキ……えへへ……」


「気に入ったのか?」


「はい!忠犬もとい同居人アズキ、明日から頑張ります!」


きっと、アズキは笑顔を浮かべたのだろう。

残念感を味わいながら、俺の意識は眠気に誘われた。

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