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どこへ


 俺は負の感情をどう扱えばいいか分からない。基本的に誰かや何かを憎めない。嫌いだなとか、ムカつく事はあっても何故か相手の立場になって発言や行動の心理を考えてしまい、憎みきれないでいる。



 今、思えば前の仕事でもそれは現れていた。馬という草食動物相手に人間という肉食(雑食)動物である俺が、馬の気持ちを想像し行動を理解していた。

 彼らの行動理念は至極単純。

 それは安全かどうか、それに尽きる。


 牧場で働いてから三年位経ち、壁にぶち当たる。


 それまではがむしゃらに会社の方針通りにやってきたが、余裕が出てきたのかそれまで以上に馬達を見るようになった。


 そして知った。

 俺の言葉は何一つ届いてなかった。


 今思えば、届いてなかったというよりかは彼らの声を聴いてなかった。耳を傾けていなかった。


 学級崩壊をしているクラスで淡々と小さな声で教科書を読み上げる教師の様だった。


 そんな時にあるコミュニケーション方法を知った。藁にもすがった。当時の職場のその考えに否定的だったから職場を変えてまで勉強した。



 それなりに成果はあった。誇張に聞こえるかもしれないが、馬達の声が分かった気がした。

 結局、その職場は半年も経たずに辞めるのだが。


 馬達の声が分かっても、今度はこちらの声を届ける術がなかった。

 ヒアリングだけは上達したが、言葉を選び過ぎて結局意味のない文章になっている英語みたいな、そんな感じ。英語苦手だけど。



 とにかく、馬の声が分かってきたら余計に心理まで見えて、精神的にダメージがきていたみたい。

 はっきり言って矛盾している訳だ。

 普段は従順にさせといて、ここ一番で草食動物の本能を出せと。



 そんな事を続けていたおかげで、人はそれなりに見れるようになった。どんな事をされても心理をイメージして理解に努め、相互が上手くいくように励んだ。

 だから前の職場ではそれなりに評価を得られた。本社から支社に異動するときも正直残りたい、というかまだ残った方が良いと思っていた。本社には経験の浅い新人ばかりいてそれをフォローできるのは自分だけと思っていたし、実際そうだった。案の定、俺が異動してからは立て続けに辞めていき、それに異常と思わない本社の同僚に疑問も持った。同僚の気持ちも分からなくはないけど。




 人もなにかしらの理由があってなんらかの行動をする。

 その人の性格、過去を少しでも知っていたならその先の行動も読める。馬をそういう目で観察していたら人間にも当てはまった。

 人もそれほど多くの選択肢は持っていない。というか持てない。

 選択肢が多ければ多い程動けないからだ。

 切羽詰まれば最大で二択。逃げるか、どう上手く逃げるか考える。それだけだ。

 これは俺だけかもしれないが……




 バツがついてから特に人を冷めた目で観るようになった。もしかしたら、それまでがフィルターをかけすぎていたのかもしれないが。


 バツがついてから牧場とは別にコンビニで働いていた。金も無かったしそれ以上に動いてないとダメだったからだと思ってる。


 コンビニの仕事は新鮮だった。感覚が求められる牧場の仕事とは違い、マニュアルで固められた仕事内容は勉強になる事が多く、一番は同僚に恵まれた点だろう。

 そこはベテランと若手がバランス良くいて、早々にベテランのおばちゃんに気に入られた。なんでも男前だからだと。一応本当です。過去の事だけどね。



 さらに、若手の女性陣が頼もしかった。若手と言っても年齢が若いだけで俺よりコンビニのキャリアは上なので頼りにしていた。

 そして同い年の真イケメンのマネージャーがいたのもでかかった。


 スタッフ同士のコミュニケーションの問題では特に意見が合い、彼も目標を持っていた。


 今はホテルマンをしているみたいだが、そこでも向上心を忘れないでいると思う。





 業種は違えど同じ感覚の人がいてくれて救われていた。

 いや、業種が違うからこそ余計に嬉しかった。牧場という狭い業界の中だけじゃなく、他の世界でも認められた気がした。



 でも、そんな繋がりを俺は前触れもなく切った。


 朝、馬達に御飯をあげたらそのまま車で県外に逃げた。

 こんな事をしたのは初めてではない。


 とりあえず、ホームセンターで何故か蚊取り線香を買った。

 今思えばちゃんと七輪と炭を買えば良かった。


 そして、蚊取り線香を全部燃やした。車内で。


 車内に当然虫はいない。蚊取り線香全焚きしているから車の近くにもいなかった。



 眼と喉がやられた。これを乗り越えればいいのかな、なんて甘かった。


 結局また逃げた。扉を開けて外に逃げた。



 結局、また中途半端。


 その後、警察呼ぶとメールで見てさすがに国家権力はめんどいなと思い、家族にはメールで連絡。しょせん、仕事も自殺もその程度の覚悟だったのだろう。


 なぜか、当時の職場の事務員には電話連絡した。

 とりあえず、事務的な事を伝えておきたかったのか、下心があったのかは分からない。

 でも一番声が聴きたかった。


 俺が久しぶりに泣きながら話していると、彼女も泣いてくれた。くだらない下ネタにも付き合ってくれた。

 俺は卑怯だった。

 多分、一番優しい彼女を俺は選んで電話したのだろう。責められない彼女だと分かっていて話したんだろう。


 こんな状況でも俺はどう上手く逃げれるか、その一択だった。



 はっきり言って俺は自分だけが悪いとは思っていない。あれだけ迷惑と心配をかけたにも関わらず、そう思っている自分が確かにいる。その報いが今の現状だろうな。



 働くのが無性に怖い。


 今日やっと履歴書を書けた。でも自分が仕事をしているイメージをするとどうしようもなく怖い。

 甘えだと言う人はいるだろう。別に否定も激励も欲しい訳じゃない。

 自分がよく分からないのが一番怖い。この先自分はどうしていきたいのか、なぜ未だに客観的にとらえている自分がいるのか。


 この文章を読んで吐き気を催す人がいるかもしれない。よくわかります。俺もそう思います。



 一応結論を出すなら、色んな人の行動心理を探る事で色んな視点にたてるようになり、どんなに辛辣な言葉を浴びせられてもその人の心理ををイメージしようとしてしまう。という事は、憎む事すら半端になってしまい開き直れない俺が出来上がってしまいました。


 もしかしたら逆かもしれません。元から半端だから多様な視点に立てれていたのかもしれません。


 これからどのくらいこの状態が続くか分かりません。人並みな幸せは要りません。

 ただ、この自分の特徴を活かせたらとやっと最近思えてきました。



 今日もそろそろ朝になりますね。太陽はなかなか慣れません。

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