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帰りも?

 「今な、」キダとちょっと笑いながら言う。「すげえ、急に名前呼びしてみようかって言う衝動にかられたけど我慢した」

「は!?」

「木本、慌てるかなって思って」

「もう!ほんと止めてよそういうの」

「だから我慢したんだって。偉くね?オレ」

「…」

「木本が一緒に帰らないとか言い出すとめんどくせえから」

「…」

「まあめんどくせえのもおもしれえけどな」

いや、意味がわからないけど…キダがどこか得意げににっこり笑ってるのもよくわからないけど。我慢したって、勝手に自分が考え付いた余計な事をしないでいただけの事でしょ?

「…なんかよくわかんないけど」と私は冷たい声で念を押す。「ほんとに絶対呼ばないでって言ったよね?」

「絶対とまでは言ってなくね?でも呼んでねえじゃん我慢したじゃん」

「いやそうだけど、もう呼ぼうともしないで」

ハハハ!、とキダが大きく笑ったのでビクっとする。

 そしてキダは言った。「まあいいからスズキは?つまんねえ事言ってるうちに帰ったんじゃね?」

 まあいいからってなんだよ、と思いながら教室の中を振り返ると、あ、ほんとだスズキ君いない。ていうか、女子のみなさんが結構残って私たちの動向を伺っている。

 「スズキの席どこ?」とキダが聞く。

「…なんでカズミ君がそんなにスズキ君の事気にするの?」

「どこ?」

「私帰るよもう」

「じゃあカバン持って来いって」

そう言って自分のカバンを見せる。


 これはやっぱり一緒に帰ろうって事だよね。まあそう言われたけど。まあ帰る方向同じだけど。

「でもスズキの席どこ?」とキダがまた聞く。

 答えずにカバンを取りに自分の席に戻ろうとした私と一緒に3組の教室の中に入ろうとするキダ。

「ちょっ…!…止めて!」

キダの腕を掴んで止めた。教室の中がザワザワっとする。

「いや、1回中入って確認しようかと思って」と答えるキダ。

「木本の席そこよな?そいでスズキは?」

「ちょっと!大きな声で言わないで!」

「どこ?」

仕方なく教えると、「近いじゃん」と言う。



 とりあえずカバンを取って早く教室を出る事にする。

「今日何喋った?」とキダが聞く。

「え?」

「えじゃねえよ。スズキとだよ。今日なに喋った?」

「…」

「何喋った?」

 『おはよう』と『起きんの遅かったわ~~~』しか喋ってはいない。それでも十分嬉しかったけど、わざわざそれをキダに教えたくない。

「別に何も喋ってないけど」と答える。


 そんなことまで聞いてくるキダに言う。「私これから1組の友達のとこ行くから」

「1組?1組に誰がいんの?」

「アコちゃんていう友達。私、その子に会いに行かなきゃだから、カズミ君、悪いんだけど先に帰ってくれる?」

これくらいはっきり言わないと帰ってくれないかな。

「じゃあ一緒に行くけど」と答えるキダ。

じゃあ、って何?

「いいよカズミ君は!その子知らないし。私の友達だもん」

そう言ったらキダがちょっと妙な顔をした。なんかうっすら悲しそうな切なそうな寂しそうな顔に見えた。キダカズミなのに。

 悪い言い方したかな私。悪い言い方したよね。良くなかった。

「ごめん…」と言ってしまう。

いくら悪ふざけしてくるからって、こっちに帰って来たばっかだったのに意地悪な事言ってしまった。それでも私にもちゃんと仲良くしてくれてる女子の友達がいる事がわかったら、そこまで絡まれなくなるかもしれない。

「…じゃあ一緒に行く?帰ってるかもだけど」

そう言うとキダは、ぱあっと嬉しそうな顔をした。


  


 「初日疲れたな」と言うキダ。「話ばっかで」

「うんまあ」

 まあねえ。小学生の時はじっと先生の話なんて聞いてなかったもんねキダ。さすがに高校生だしね…。なんかよくわかんないけどさっきも私が強めに言ったらちょっと寂しそうな顔するし。中学ではどうだったんだろう…あんまり仲良い子いなかったのかな。

「自己紹介んときに」とキダ。「オレの出身中の名前言っても誰もわからんかった。当たり前だけど」

「…そっか。うちもあったよ自己紹介」

キダは隣の県のずっと県北の方の、結構人口の少ない町に中学の間引っ越していたのだ。

 「それで、」とキダが本当に嫌そうに言った。「なんかその後女子が寄って来て、ぜってえ聞いてもわかんねえのに、どんな中学だったかとかどんなとこ遊びに行ってたのとかすげえ聞いてきてうぜかった」

マジか。

「帰りにライン交換しよってすげえ言われてめんどくせえと思って。今日木本と一緒に帰るからって断っといた」

すごい嫌だなそれ!ていうか、そのために私を迎えに来た?

「なんか木本の事彼女かってすげえ聞かれたけどな」

わ~~嫌だな!


 立ち止まって言う。「じゃあ!やっぱり一緒に帰ったりとかしない方がいいんじゃないかな?」

「そいでオレなんて答えたと思う?」と聞くキダ。

「え?」

 なんでそんな質問してくる?それで何で笑ってんの!?さっきは寂しそうな顔したよね?私の見間違いか?なんか企んでる顔だよね?

「なんて答えたの?」恐る恐る聞く。

「教えん」

なんでだよ!



 「いいからもう…なんて答えたの?」

もう一度聞きかけた時に後ろからキダを呼ぶ声。

「「「「カズミく~~~ん!!!」」」」

たぶん3組の女子のみなさんだ。そして顔をしかめたキダはそれを無視する。

私が気にしてしまってキダに言う。「カズミ君、呼ばれてるよ?」

でもそれも無視だ。

 「「「「カズミく~~~ん!!!」」」」

また呼ばれて答えないキダにまた私が言う。「呼ばれてるじゃん」

「なんで今日初めて会ったヤツらがオレの事名前呼びすんのかキモイわ」

そう悪態をつきながらやっと振り向いたキダに、「「「「やだカズミく~~ん。バイバ~~イ!また明日ね~~~」」」」

きゃいきゃいした声の3組の女子の可愛らしいバイバイを丸無視するキダ。

 私も一緒に無視してると思われるかな…いやでも私は呼ばれてないし。



 1組の前でアコちゃんを探すと、良かったアコちゃんまだいた。

 が、1組で残っていた子たちが出て来てキダを見る。チラチラ見られてるのにしれっとしているキダだ。私の方が気にしてしまう。

 キダも自分が見られてるのには気付いてるよね。慣れてなんとも思わないのかな。


 そこへ、「あれ?」と横からキダを覗き込むように見る女子。

 「カズミ君も1組に友達いるの?」

キダにそう聞いてから、隣にいる私を見て、あ、って顔をするその女子。肩までの髪の毛がフワっとした丸いショートの目のパッチリした可愛い子だ。3組の子だよねきっと。

 その子が私を見ながら言った。

「もしかして帰り一緒に帰るって言ってた彼女さん?いいなあ~~」

「…え、っと」キダが何にも答えないので気まずくなった私がつい答えてしまう。「私、あの、彼女ではないんで」

そう答えた私にキダが言う。「ほら、早くアコちゃんだっけ?呼べば?」 

 私をクリっとした目で見つめる3組の女子。「そうなの?彼女じゃないの?彼女じゃないのに一緒に帰るの?いいなあ~~」

 まだその子の事は無視して私を小突くキダ。「ほら、アコちゃん呼べって」

「ねえねえ彼女さんどこ中?」とその子が私に聞く。

いや、だから彼女じゃないって。

「どこ中?」ともう1回聞かれる。「私西中なんだ。よろしくね?」

フレンドリーな子だな…。私もこれくらいコミュニケーション能力あったらいいよね。

「…私、万田中」

「万田中か~~」


 「アコって子~~~!」急にキダが1組の教室の中へ叫んだ。

ザワっとする教室の中と驚く私。

「ちょっ…!カズミ君!」

慌てて止めるがキダがまた叫ぶ。「アコってやつ来て!木本が呼んでる!」

あっけにとられる私と「キャハハハハ」と笑う3組女子。その子は先に出て来た1組の女子と帰って行った。もちろん帰り際にはキダに手を振り、キダは無反応。




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