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自己紹介

 先生はお構いなしに続ける。

「ちなみに弟も他の高校で物理を教えています」

またどよどよっとする。

「弟は暗めなんだけど結構すごい手品師で、」

どよどよっ!

 手品師?マジシャンて事?え?今物理教えてるって言ったよね?って感じでみんな周りの子たちと顔を見合わせる。でも質問ダメって言われたしな、みたいな感じで。

「ここの文化祭にも他校との交流って事で呼んだ事がありました。私は手品は出来ないんだけど、時々弟が老人や子供の福祉施設でボランティアの手品ショーをする時に助手をしてます。胴体切られたりね。瞬間移動とかしてます。なんか…うちの弟手品うま過ぎて子供とか本物の魔法使いだと思ったりするんだよね。子供が本気のお願い事してくるんだよ。私の事をウサギに替えてとかマジに言ってくるから。結婚はしてなくて、歳は33」

 33!

 教室のどよめきがすごい。どう見ても先生は25、6歳にしか見えないからだ。…いやわかんないけど。若く見えても歳いってる人もいるよね。その逆もいうし。前そういうのテレビでやってた。『歳わからないグランプリ』みたいやつ。それでも先生は33歳には絶対見れない。

 

 ずっとザワザワする教室。

 「はいザワザワしない」と先生。

 前の方の男子がやっぱりつい聞いてしまいました、みたいな感じで口を挟んだ。

「先生の弟ってマジシャン?物理の先生じゃなくて?」

「職業は物理の教師です。手品師ではお金もらってないから。それにマジシャンじゃなくて手品師。マジシャンていうとうちの弟怒るからね。まあそれはどうでもいいんだけど」

 先生は本当に、どうでもいい、という感じで話した。

「でも先生もそのアシスタントするんですよね?すげえな」と別の男子。

「アシスタントじゃなくて助手ね」と先生。「ていうか質問無しって言ったよね?じゃあ自己紹介、端の方からね」

「え、でも先生、そのアシスタントするときどんなかっこしてるんですか?」と今度は女子が聞く。「マジシャンのアシスタントて結構エロい服着るじゃないですかぁ」

私にキダとのことを聞いてきたゆるふわの子だ。見た目ふわふわしてんのに確実にハートは強いよね。

 冷たくゆるふわの子を見つめる先生。「質問無しって言ったの聞いてないの?」

「えっと、」と少し甘えた声でペコっと頭をさげながらその子は言った。「すみません。でもすんごい気になって」

「着ますよ。エロい感じのももちろん着ます」

どよどよどよどよっ!

「でも私の事はいいから。私はね、担任じゃなくて副担任希望だったんだけど、無理矢理担任やらされる事になったんだよね。だから私が仕事しやすいように気を使ってよ?じゃないと途中で辞めちゃうかもしれないからね?部活動もあんま気がすすまなかったんだけど、校長から無理矢理美術部の副顧問をさせられる事になりました。物理教師だっつってんのに、美術部とか意味わかんないよね。それから毎年男女合わせて30人くらいから本気で告られるんだけど、高校生は相手にしないから。私はまともな大人だから」

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…

 ザワザワ半端ない!

 美術部の副顧問て…。私美術部入ろうとしてたのに、どうしよう。高森先生が部活でも副顧問てなんてビミョー。

 …毎年30人くらいから告られるのか…男女合わせてって言ったよね…女子生徒からも告られるって事でしょ?すごいな…


 

 それから先生は窓際と廊下側の一番前と一番後ろの4人をジャンケンさせ、負けた窓際の一番後ろの子から順番に自己紹介をさせた。

 最低名前と出身中学を言えばいいと言われてほっとはしたけれど、それでもだんだん自分の番が近付いてくると緊張してきた。クラスの3分の1くらいがやりたい部活や好きなマンガや音楽を手短に付け足した。私も含め後の子たちは同じく名前と出身校だけで終わり。

 良かった。これで今日の日程はほぼ終わり。ちょっとアコちゃんのいる1組に寄ってみようかな。

 アコちゃんからは今朝ラインが来てたけど、キダがうちに迎えに来てた事もあって、変なスタンプしか返せていない。

 夕べラインした時は部活と委員会はどうするのかって事や、アコちゃんが同中だったナカイさんと同じクラスだった事を教えてくれたから、私も少しスズキ君の事をアコちゃんに教えた。今のところアコちゃんにもスズキ君を好きだという事は内緒だ。そりゃあ中学からいいなって思ってたけど、スズキ君はみんなにいつも良い感じで接していたから、私に話しかけてくれたのもスズキ君にとっては普通の事だし、スズキ君を好きな子って結構いると思うんだよね。だって本当に良い子なんだもん。




 私と中学から仲良くしてくれているカワイアコちゃんは、サバサバしていていつも結構強気なのにとても可愛い女の子だ。髪が結構長くて、でも柔らかくて、そのふわっとした感じとは裏腹にガサツなところが見た目とのギャップで可愛い。そして運動神経も良い。私が男子だったら絶対好きになっていたかもっていつも思う。

 アコちゃんが同じクラスになった同中のナカイさんとは、私はほとんど話した事がない。でもアコちゃんなら、今までそこまで親しくなかったナカイさんとだってきっとうまくやれるし、他の子ともすぐに仲良くなれそう。きっとすぐに友達がたくさんできる。コミュ力の低い私とは違うのだ。

 …寂しいな。スズキ君と同じクラスになれた事で浮かれてたけれど、やっぱりアコちゃんが同じクラスだったら良かった。たぶんスズキ君と同クラになったことで運を使い果たしたのかも。私、このクラスに喋れる人出来るのかな。明日からのお弁当、誰と食べるんだろ…

 スズキ君が『木本!一緒にメシ食お!』とかって、言ってくれるわけないよね。いくら同中二人きりでも、男子と二人で食べてたらすぐみんなに何か言われそう。キダと一緒に登校しただけであんなに言われたし。



  …男子だったら良かったな私。

 男子だったら誰か「一緒に食おう!」って人が見つかるまで、そのまま自分の席で一人で食べてても別に全然OKだう。私も私的には一人で食事するのは全然平気。でも、その一人で食べている姿をスズキ君に見られて、「あれ?一人なんだ」って思われたくない。

 いや例え他の子にそう思われてもスズキ君にそんな風に見られら嫌だな。

 そう言えば、男子はいいよなって小学校の時にもよく思っていた。例えば放課後遊ぶ約束をしていて急に行けなくなった時も、男子だと次の日学校に行ったら、ごめん用事が出来て行けなかった、って言えば軽く許されると聞いた時には愕然とした。女子は絶対にそうはいかない。約束の時間までに確実に予定の変更を伝えなければ、あとあと恐ろしく面倒な事になる。中学になってスマホ持つ子が増えて、うちは高校生にならなくちゃダメって言われてたから、グループでまとまって、ラインの中の話で教室でも盛り上がる子たちも苦手だったな。盛り上がる輪に入れないのは少し寂しい気もしたけれど、無理に話を合わしたり、行きたくないところにみんなでぞろぞろ行ったりとかもどうせ出来ないし、それでも一緒に行った行かないっていうような後々のちまちました言い合いとか聞いてるだけでも鬱陶しいなって思っていた。まあもちろんそんな事言えないけど。アコちゃんは私と同じで高校に入ってからスマホ組の少ない人員だったので余計仲良くなれた気がする。


 でも、自分のクラスにさえ全然慣れてないのに一人で他のクラスを覗きに行くなんて、ちょっと勇気いるよね。

 学校内では絶対携帯電話禁止だから、前もってアコちゃんに『今から行くよ』とかも簡単に連絡もとれないし。みんな3年生までちゃんとこの校内でのスマホ厳禁の校則守ってんのかな。

 あ~~アコちゃんが私の所へ来てくれたらいいのに。

 


 私以外にも同中の子が少ない子や全くいない子だっていると思うけど、みんなどうやって明日からお弁当食べるんだろう。みんな各自一人で、自分の席で食べるって校則出来ないかな。

 食堂もあるけれど、あまり大きくはないらしくって、どうしても上級生優先になって、1年生のうちは弁当やパンを家から持ってくる子がほとんどらしいって昨日誰かが話してるのが聞こえたのだ。



 とりあえずアコちゃんのクラスに行こうと思ってカバンに荷物をまとめていると私を呼ぶ声が。

「木本!」

キダが来た!

 ザワっ!とする女子のみなさん。

 なぜ来た。やっぱり帰りも一緒に帰ろうとしてるんじゃあ…

 キダの所に行くのをちょっとためらっていると、もう一度呼ばれた。今度は手招きもプラス。

「木本!」

 さらにザワっとする女子のみなさん。


 とりあえず呼ぶのを止めさせようとカバンもそのままにキダのところまで駆け寄ると、キダは嬉しそうに笑いながら言った。

「そんなに急いで来なくても大丈夫だって」

いやあんたが手招きまでして呼ぶからじゃん!

「なに?」ちょっと冷たい口調で聞いてしまう。

「スズキ。スズキ見に来た」

「え?」

「じゃなくてスズキはついで」

「ついで?」

「一緒に帰んの呼びに来たついでのスズキ確認」

なんかスズキ君に対して失礼じゃない?


 

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