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呼ばれる

 スズキ君…慌てて来たのかな、耳の後ろの所の髪の毛が少し跳ねてる。可愛いな。いや、私もキダに髪が跳ねてるって言われたけど。それで可愛いって言われたような気がしたけど。

 なんだったんだ、あれ。

 

 スズキ君は私の左斜め2コ前の席だから、隣の子に「はよ」って言ってるのも聞こえる。

 いいなあ。私も言われたいな…。でも席が近いし私のところよりも前だから、こうやってチラ見出来るだけでも幸せ。

 …あ!マズい。スズキ君を見過ぎる力が強かったのかスズキ君が振り返って、私と目が合っちゃった。マズいマズい恥ずかしい嬉しい…

 が、スズキ君がなんと!ニッコリ笑って「木本、はよ!」と言ってくれたのだ。

 わ~~~~!めっちゃ嬉しい!!!

「おはよう」とスズキ君に返すと、スズキ君は跳ねてる後ろ髪をペソペソっと触りながら照れたように笑って「起きんの遅かったわ~~~」とまた返してくれた。

 可愛い!!朝の挨拶最高!




 中学の3年間で、スズキ君とは一度も同じクラスにはなった事がなかったが、中2と中3の時に委員会が同じで、中2の時にはほぼしゃべった事はなかったが、中3でも一緒の委員会だったのでスズキ君が「たしか去年も一緒だったよね」って普通の感じで声を掛けてくれたのだ。

 見た目もそんなに派手じゃないし、女子に騒がれるようなタイプじゃないけど、私はすごくカッコいい男の子だと思っている。良い意味で派手すぎず地味すぎず、いつも周りの人に気が配れるし、相手が男子でも女子でも、派手な子でも地味な子でもわけ隔てない接し方が出来る子だ。だから昨日の入学式の後、委員会の時に少し話したくらいの私にも声をかけてくれたのだ。

「うわ、キモト!良かった同中いた~~」って。

一方的に『いいなぁいいなぁ』とこっそり想い続けていた私は、きゅううんっっ、とこれまでにない感じで大きく胸を高鳴らせたのだった。


 

 席に着くと後ろの席の女子にとんとんと背中を軽くつつかれる。ふん?と振り返ると、さっきキダの事を聞いてきた女子のうちに一人だ。前の席と両隣の子の名前は昨日把握したが後ろの席の子の名前はまだ。

 その子が顔を前のめりに近付けて来てこそっと聞く。「秘密にしとくからさ、さっきの3組の子、ほんとは彼氏?」

「ううん」とぶんぶん首を振る私。

 結構背のちっちゃめの可愛い子だ。肩までの髪がツヤッツヤでサラッサラな、目のぱっちりした子。もちろんファンデも薄く塗ってるし前髪も綺麗に流れるような感じで少し分けてる…いったい何時に起きたらこんなに風にして学校に来れるんだろう。


 「でもぉ、ほんとのほんとは彼氏?」ともう一度聞いてくる。

「いや違うって」と思わず突っ込み気味に答えてしまい、マズい、と思うが、「キャハハハハ」とその子はおかしそうに笑って、「そっかそっか」と言った。



「彼氏じゃないけど仲は良いの?」とその子がまた私を突いて聞く。

「…」

仲良くないよ、って答えるわけにもいかない。仲が悪いわけじゃないから。

「小学一緒で、でも中学から向こうが転校して、久しぶりに会ったから一緒に来ただけだよ」

「そうなんだ~~。いいな~~。幼馴染的な?うらやま~~~」

 幼馴染?幼馴染ではないよね?幼馴染っていうのかな私とキダって?それだったら小学の同級生全員幼馴染って事にならない?

 また小学の時の事をいろいろ思い出しかかったところに本鈴が鳴り、同時に教室の前の扉から担任の高森先生が入って来た。




 無言で教室に入り、教壇から教室中を見渡す高森美々先生。

 タカモリミミ先生は美しい美しいと書く、その名前の通りに今日も恐ろしく美しい。

 それはもう『輝く宝石で出来たバラの花束のように』、とか、『夜の闇に瞬く全ての星の輝きよりも』、みたいな、そんな大げさな例えもチンケに思えるくらいの美女度だ。

 髪は黒く輝く知的なショート。目は二重なのに切れ長、プロポーションもモデルばり、身長も170センチ超え。普通にそのまますぐに女性ファッション誌の表紙でも飾れそうな、下手したらパリコレとか出られるんじゃないかというくらいの顔と姿態。昨日初めて体育館で担任紹介があった時、1年全体が大きくザワめいた。なんでこんな田舎とも都会ともとれない中途半端な街で、進学校だけどそこまで難関なわけでもない、普通科しかない高校の教師なんてやってるんだろうと、たぶん私だけじゃなくて全員がそう思ったはずだ。そしてその華やかな姿態とは裏腹に話し方は淡々としていて、どちらかというと低い声。その後クラスでいろいろな説明もしてくれたのだが無駄な事は一切言わない、大切な事だけポイントはきっちり抑え私たちにも的確な指示を与えるという印象。それでいて冷たい感じも嫌味な感じもしない、人を寄せ付けないわけでもないのに懐には入れない、みたいな。…まだ2日目だからよくわからないけど。




 今日はショートホームルームからそのままブチ抜いて、1間目から3時間目までオリエンテーションだ。1時間目は体育館で学年そろって行われ、2時間目、3時間目はクラスごとに行われる。その後は下校。

 今、体育館で学年主任の先生の話を聞いている私は、クラスの女子の50音順の列で5番目。

 6組から順番に体育館に入って、うちのクラスの後に入って来た3組にいるはずのキダの事が気になる。同じ『キ』で始まるのに私より前にはいない。そして同じ5番目の横列にもいなかったが、露骨に首を回して後ろを確認するのはどうかな…

 3組はア行と『カ』で始まる名前が多いのか…


 そう思っているところへ、「木本」、と左斜め後ろ方のからから囁くように呼ばれた。

 瞬間、反射的に振り向きそうになったが踏ん張った。

 …嫌だキダだ。やっぱいたか…。いや、そりゃいるだろうけど…斜め後ろ2つくらいか?…でもなんで今私を呼んだ。みんな静かにしてんのに目立つじゃん!

 こんなとこで絶対呼ぶな!と前を向いたまま斜め後ろに念を送る。

 が、すぐにまた呼ばれた。

「木本」

 


 んん~~~!と心の中で唸る。

 なぜこの状況で呼ぶ。

 …ていうかこういうの、むかしもあったよね…

 小学生の時あった!あったあった!全校朝礼の時呼ばれて振り向いたらキダが手に5センチくらいの、灰色がかった緑色のカエルを乗せて私の鼻の先にぐいって見せて来て、私がつい叫んでしまったやつ。

 まさか今カエルは持ってないだろうけど…

 え?持ってないよね?

 …まさか持ってんの!?

 キダなら持ってそう…いやいやいやいや…持ってそうだけど持ってないよさすがに。もう高校生なんだから。今朝一緒に来たし登校中にカエル捕まえる暇なんてなかったでしょ?…まず今の時期まだカエルいないのか…いやカエルじゃなくても気持ち悪い虫かもしれない!…

 だいたいもう呼ばないで欲しい!目立ちたくない。


 「なあ、おい木本って」

バカだキダ。

 囁き声だが語気は強い。周りの人にも当然聞かれている。振り向いて黙らせた方がいいの?振り向きたくないな…余計目立ちそう。でもキダなら絶対返事をするまで呼ぶんだろうな…


 仕方ない。

 もう呼ばれたくないので、振り向いてキダの目を見つめ自分の唇に指を当て睨むようにして、しっ!と無言で唇だけ動かしてキダを威嚇した。『もう絶対呼ぶなよ!』って事だ。

 そうしたらどういうわけかキダは笑った。すごく嬉しそうにだ。

 なに?と思ってさらに睨みつけたら、キダはニッコリと笑ったまま、うん、とこれまたすごく嬉しそうに深くうなずいた。

 

 なに!?なにが『うん』だよ?

 意味がわからん。今のに何の意味があった?今のに何の意味もないなら、なんで私を呼んだ!わざわざ呼んでどいて、私に『しっ!』って言われて、なんであんなに嬉しそうにしたんだろう気持ち悪っ!


 


 その後キダが私に声をかけることはなかったが、また声をかけられるんじゃないだろうかとその後もずっとソワソワしたし、体育館から教室に帰るのがクラスごとで、3組が先に出た時、ついキダを確認してしまったら向こうも私の方を向いたので目が合ってしまい、キダはちょっと笑って右手を挙げた来た。

 「え、」「なに、」「やだ~~」と言うキダのクラスの女子たちの声。そしてその女子のみなさんは次々に私を見てからはけて行く。

 もちろんうちのクラスの女子のみなさんもザワつき、体育館を出ると同時に、ワワっとうちのクラスの女子たちに囲まれた。朝、キダの事を聞いてきた子たちだ。

「「「「「やっぱ仲良いんじゃ~~~ん。見てたよ見てたよ~~~」」」」」

 そしてそのうちの一人の子が言った。「なんか私の近くにいた3組の女子、あれ見て舌打ちしてた」

ヤダな!



 そしてやっぱり聞かれる。「やっぱあのカッコいい子と本当の本当は付き合ってるよね?」

「付き合ってないよ」と、もちろん答えるが、「え~~~でもあんなとこでわざわざ呼んできたじゃん」「帰る時も手ぇ振ってたし」「にっこりしてたし」「うらやまし~~~」「朝礼中にあんな事された~~い」と次々に言う女子たち。

 マジか、と思う。

「…でもああいう事…」と、言いかけてどうかなと思って止めると、「なになになになになに?」とすごい勢いで聞かれる。

「ああいう事なに?なになになになに、聞きたい聞きたい」

「ああいう事してくるのが好きっていうか、悪ふざけとか相手が困りそうな事をしてくるのが好きなんだよ。小学の時からそんな感じの子なの」

苦々しく言った私をぽかんと見つめる女子のみなさん。

 一人が呆れた声で言った。「悪ふざけ?手を振られて優しい顔されるのが?」

「いやそうじゃなくて人が困りそうな事するのが」

「困るの?誰が?木本ちゃんが?」

そう一人が言うと他の子みんなが声を合わせた。

「「「「「困るわけないじゃん!超嬉しいじゃんっ、あんな事されたら!!」」」」」

ビクっとしてひるむがもうどうしようもない。いったんこの場から逃げよう。

「ごめん。私!トイレ行きたいんだ。ごめんね!」

無理して明るくそう言ってその場から小走りでトイレへ向かった。




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