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 一人でどこか出かける、と言っても結局DVDを借りに行く、くらいしか出来ないよね私。

 別に一人で行動するのが嫌なわけじゃないし、本屋に行こうかと思ったけれど、この街の大きな本屋はショッピングモールの中にあって、アコちゃんとスズキ君がデートする予定の映画館もショッピングモールの中の、しかもその本屋の隣にあるから、うろうろしていたら確実に遭遇してしまうような気がする。二人がどんなデートをしているのか思い切り興味はあるが、実際ものすごく楽しそうにしているの見たら凹むだろうし、ばったり会ったとしても偶然とは思われないかもしれない。ストーカーまがいだと誤解されてアコちゃんに完全に嫌われる。

 

 

 というわけで遅い朝食を一人で食べた私は今ツタヤにいる。父が『一緒に行こう車出すから』というのを断ったら寂しそうな顔をしたが、学区内にある、確実に知り合いに会いそうなツタヤに、休みの日に父とわざわざ車でDVDを借りに来たのを見られるのはちょっと。

「お父さんが観たそうなのも借りてきてあげるから」と言い置いて自転車で出かけた。

 

 行く途中で小学校の東門の前を通る。

 …あれ?…

 …あれキダカズミじゃない?

 がらんとした土曜の朝の誰もいない校庭の、南門の横の体育倉庫のその横のブランコのところに人が二人いるのが見えたが、それがキダカズミと、そして一緒にいる女子は…ヤマモト…スミカ?

 今は別の高校で、小学で1回だけ一緒のクラスになった事あったけど、中学では1回も一緒にはならなかったから、ほぼ接点のなかった子だ。一見ホンワカしているから男子人気は高いのに本当は全然ホンワカしていない、とヤマモトさんと同じクラスになった子が言ってるのを聞いた事がある。接点がなかったのに、なんで遠目ですぐにわかったかというと、一度中学の最初の頃に聞かれたからだ。キダの連絡先を。

 知らなかったので、当然知らないと答えたら、きょとん、とした後、ホンワカ笑いながら『もしかして教えたくないの?』って言ってきた。小学の時もあんまり絡んだ事がなかったのに。

 これか、あの女子が噂してたヤツは、と思いながら、本当に知らないのだと答えたら、『本当に?』って4、5回聞かれたのでムッとして、『私は知らないけどカズミ君と仲良かった男子に聞けば?』って答えたのだ。その後は知らない。

 誰かに聞いてキダに連絡してたのかも。

 …あれ?でもヤマモトさんて中学の時に来た教育実習の男の先生とラインしてるって噂が流れたよね…あれも本当かどうかはわからないけど怖いなと思う。そういう噂が他クラまで流れるのが怖いよね。

 それでも高校入ってキダカズミが私のところに迎えに来て、小、中一緒だったほとんど絡みのなかった子たちからもラインが入ったけど、ヤマモトさんからは他の人を通しても何も聞かれなかったので全然こういう感じの場面を見る事なんて予想していなかった。

 まだキダの事が好きだったのかな。


 ヤマモトさんについての思い出と一緒に、夕べのキダの夢がバババっと浮かぶ。キダの姿が見えない、でもキダがいるはずだと私が思った校長室の暗いクローゼットの中を思い出す。そこに空いていた穴の事も。

 心配してやったのに!

 夢の中では。

 それで私とどこか出かけたいとか言って、私にもどこか行きたいかって言ってきといて。私が断ったけどさ。それもちょっと悪かったなって思ったのに、なぜ朝から女子といる。

 しかも、私ともちょっと一緒に来たいって言って一緒に夕日を見たりなんかした小学校の校庭に。


 とそういう事を瞬時に思い巡らせながら自転車の向きを速攻変え、遠回りをしてツタヤに向かう私だ。

 知らない。見なかったことにしよう。

 とにかく昨日断ったのは私だし。別に関係ないし。


 そう思うのだけど、ツタヤについてからもDVDを選ぼうと棚を見るうちにぼんやりしてきて、ついさっき見たキダとヤマモトさんの姿を思い出す。

 私が見た場面はキダがすでにブランコに乗っていて、その横のブランコにヤマモトさんが乗ろうとしているのかブランコの鎖を掴んでいるところだった。

 あの後どうしたんだろ…一緒に乗ってんのかなまだ…ていうかブランコて!

 と小バカにする事で我に返るが、また選び始めるとすぐにぼんやりしてきて、さっきの光景を思い出すのだ。そして想像してしまう。その後の事を。


 ていうかどういう事?中学で連絡先を誰かに聞いたヤマモトさんはずっとキダと連絡をとってて、それでキダが帰ってきたから普通に仲良くしてるわけ?でもキダは私を誘ったし、ずっと私が好きだったって言ってたし、そりゃそんな話疑ってたけどさ…

 そうかそうだよね。サカモトナツミだけじゃないよ。他の女子だってきっと何人もキダと仲良かった男子に頼んで連絡してたと思う。

 でもほんと、どういう事?私が誘いを断ったからヤマモトさんと会ってるの?ヤマモトさんから連絡あって呼び出されたの?それとも二人でじゃあどっか行こ、みたいな事になったわけ?


 なんかもうぐるぐるぐるぐる考えてDVDを選べんし!

「チサちゃん」

ヤマモトさんから連絡来てもさあ、小学校で会うことないじゃん!ていうかまず会う事ないじゃんわざわざ。

「チサちゃん」

私とも黄昏た場所で、しかも向こうはブランコ一緒にとかふざけてんですけど!

「チサちゃんて」

肩をつん、と指で押さえれて振り返ったらそこにはマキ先輩がいた。飼育委員2年生の距離感近めのマキ先輩。

「あ…」こんなところで朝から会うか…と思いながらも、ニコニコ微笑むマキ先輩に挨拶をする。「おはようございます」

「おはようチサちゃん。何回も呼んだのに」

「すみません気付かなかったです」

「もうチサちゃん~~~」

やたら名前呼ぶの止めて欲しいな…そう思うのにマキ先輩はニコニコ顔で私の名前をまた呼ぶ。

「チサちゃんどうしたの?朝から暇なの?」

うっ、と言葉に詰まる。

 いや、暇ですけど。でも朝から暇で出かけて来たばっかりに、小学校の校庭でいらんものを目撃したんですけど。あ~~来なきゃ良かったのかも。それか父の言う通りに一緒に車で来ておけば、ほんのちょっとの時間差で見なくてすんだのかも。


 いや。別に見たからって何でもないけど。

 なんでもない。いろいろぐるぐる考え過ぎる私がおかしい。

「なんか今朝さあ」と先輩が言う。「友達んとこマンガ返しに言って、そいで遠回りしてここに来たんだけど、途中万田小通ったら、あいつなんだっけほら、チサちゃんの彼氏気どりの名前出て来ないな…全然名前思い出せないけど、なんか生意気だったやつ…え、と…」

名前出て来ないって、先輩の下の名前もキダと同じカズミだって話にもなったのに。絶対わざとだよね。

「女子といたの見たんだけど」

そう言って私の目を覗き込む先輩。

「先輩…」

「なに?」

「なに借りるんですか?」

「へ?」

「DVD。何借りるんですか?」

「話変えたいの?」

「そういう事じゃないです」

「チサちゃんこそ何借りるの?」

「私は…今選んでるとこです」

「ふ~ん。さっきからぼんやりしながら同じところぐるぐる回ってたけど?」

「えっ!いつから見てたんですか!?」

「チサちゃん入って来た時から。あれチサちゃんだ~~って思って。何借りるんだろ~って。一定の距離を保って後ついてったんだけど。確認だよね」

何の?先輩の見た目も笑顔も爽やかだが言ってる事はちょっと気持ち悪いかも。


 「なんなら一緒に見る?」と、ニッコリ笑う先輩。

「え?」

「DVD。うちマンガも結構あるよ。なんなら昼一緒に食お」

なんだろ…なんか普通にいつも誘う友達誘うような軽さで、良く知らない後輩の私を誘ってくるけど…

「大丈夫です。お父さんが待ってるんで」

「お父さん?」

「今日一緒に観る約束したんで」

「お父さんと!?JKなのに!?」

「お父さんも暇してたんで」

「まじか…って、あれ?…もうチサちゃん!キダと約束してたの?」


 「え!?」と驚いて先輩の指さす私の後ろを振り返ると?キダカズミが。

 先輩を睨んでいるキダだ。

 先輩、やっぱりキダの名前覚えてるじゃないですか。


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