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土曜日の過ごし方


 暗い気持ちで目が覚めた。

 なんか…なんか!すごく疲れた!

 穴に落ちたんだろうか、夢の中で行方不明になっていたキダカズミは。


 …落ちてないよね。

 そういう、私とかがやりそうなどんくさい失敗はしないと思う。運動神経が良いから。小学校の校庭の木に登っても落ちた事はなかったし、ブロック塀から飛び降りてもうまく着地してたし。とげのある草で切り傷はよく作ってたけど…

 知らないや。落ちてても構わないし。


 と今の私はちょっと思うけど、夢の中の私はキダの事を心配していた。あんなクローゼットの話をいかにも興味深そうに話しておいて、私が注意してあげたのを笑ったりするから、私は無駄にあんな夢を見て疲れたのだ。



 暗くて気味悪い穴の事を考えるのは止めよう、とベッドから起き上がる。

 だって夢だもん。

 無造作にスマホに手を伸ばしかけて、あ、と思う。夕べ放置して寝たんだった…。返信が気になるけど見たくない。見たくないけどすごく気になる…


 やっぱり見てしまうと、え?ライン32件!

 JKとしてありえないかもしれないけど、私には一晩でこれは結構多い数字だ。キダカズミがこっちに帰って来てみんなから質問ラインが来た時みたい…


 ピコっ。やっぱり開けてしまうとキダカズミ1件、サカモトナツミ21件、おばあちゃんから2件、母から2件、後その他…サカモトナツミ21件!

 アコちゃんから何もない。どうしよう…。ていうか!サカモトナツミ!ほぼサカモトナツミじゃん怖すぎる!しかも「カズミに見せといて」って見えてるけど…

 開けてみたくないけど開けるよね。開けたら20件は写真だった。私に対する文句じゃなかったからちょっと安心したけど、それは全部サカモトナツミの写真。普通のものや盛ったヤツ、アイドルきどりのやつ、アプリを使ってほぼ原形がないヤツ…それを最後の1件で「カズミに見せといて」だ。

 自分でキダカズミに送ればいいじゃん!

 そう返信しようと思ったけれど、もう返信しない。気にかかるけどとりあえず今日はほっとこう。


 そしてキダからのラインは、「そんなん聞くなバカか」。

 んんん~~…

 なんでだろう。なんで今ちょっとぽっと赤くなりかけたんだろう。…バカかとか言われてんのに、なんなんだ私どういう神経してんだろ!とは思うけれど、これは夕べキダに誘われて、でも用事があるからってウソついたら、その用事は何時にあるんだって聞かれて、キダがそんな事を聞いてくるのは『なんで?』って私が聞いたことへの答えだからだ。

 どうやってでも私に会いたいって、思ってくれてるって事?って思ったら、ぽっとして来た。

 キダの言ってる私への気持ちがどれだけ本気で、どれだけ続くんだか、みたいに思ってるくせにぽっとしてしまうのだ。夕べの夢の中でもキダの事をやけに心配して校長室まで探しに行ってしまうし、

なんなんだキダカズミとサカモトナツミ!

 こうしている間にもアコちゃんはスズキ君とのデートのためにいろいろ準備してるんだろうに。


 …アコちゃん、どんな服着るのかな。スズキ君はどんな服着て来るのかな。いいなあ…映画館とかでソワソワして、それでも手とかつないじゃうのかな。暗がりの中だときっと普通に外でつなぐよりも抵抗ないわりにドキドキ感増しそう。

 羨まし過ぎる。



 スマホはそのまま閉じて階段を降りると、キッチンで父が一人で朝食を食べていた。コーヒーとトーストにバターを塗っただけ。

「チサも食べるか?」と聞いてくれるが、「自分で用意して食べるから大丈夫」と答える。

「なんだ?」と父。「お父さんが焼いたのは嫌なのか?」

「そうじゃないよ。ちょっとすぐには食べたくなかっただけ」

「なんかあの、迎えに来てくれる男の子はどうなんだ?」

「…」

なんで急にそんな事聞きだした?

ふん?と答えを促す父だ。

「どうなんだってどういう事?」と聞く私。「別に…どうもないよ?」

母に何を聞かされたんだろう。余計な事話してなければいいけど。

「いや、そのキダ君だっけか?ずっとこっちにいなくてまた戻って来たんだろう?小学校で仲良しグループだったんだろう?お父さんたちの時には男女混合で仲良しとかは恥ずかしいし冷やかされるからなかったけどな、そんなのは。キダ君はうまくやっていけてるのか?まあ本当に不安がってたらそれとなく助けてあげなくちゃいけないぞ」

 なんだ父はキダカズミのこっちで生活の慣れ具合を心配してたのか…

 優しいな父。


 「大丈夫だよ」と答える。「すごいどんなとこでも適応能力ある子だから私より学校慣れるの早いと思うし。むかしから友達多かったし。私の方が人見知りなのわかるでしょ?」

「…あ~~まあそうだな」

そうだなってなんだよ。

「そうか、ならまあいいけど」と納得する父。

 が、すぐに父は思い返したように言った。「それなら!」

 父の大きな声にビクっとする。

「なに?もうびっくりした」

「それなら」と父がもう一度言う。「もしかしたらそのキダ君は、自分も不安だったのにチサの事が心配で一緒に行ってくれてるんじゃないか?」


 …え?

 そうなのかな?

 いや、でも私、人見知りは強いけど、新しい場所にも行けるは行ける。馴染めないけど参加は出来るタイプの人見知りだから。それに私にはアコちゃんとスズキ君がいたし。

 なのになあ…アコちゃんとスズキ君、二人で映画とか行っちゃうからな…

「お母さんは?」と父に聞く。

「おばあちゃんの所」

「こんな早く?おばあちゃんどうかしたの?」

「いや、急に夕べ電話が来て、一緒に温泉行くはずだった人が行けなくなったからってお母さんが誘われて行くことになった」

 夕べ母とおばあちゃんからライン来てたのはその事かもしれないけど、2階に上がって確認するのがめんどうくさい。後でいいや。

「お父さん、もしかしておいてけぼり?」

「そんな事ないぞ。たまには自分のお母さんと二人きりもいいかと思ってもお父さんは男気を出したんだから。お父さんも温泉行きたかったけど」

 行きたかったんだ。可愛いなお父さん。


 お母さんは温泉だし、アコちゃんはスズキ君と映画だし。私も映画行こうかな…この近くで映画って言ったらちょっと郊外に出たショッピングモールの中にある映画館しかないから、私もそこに行って、あれ?アコちゃん偶然!みたいなわざとらしい事…

 絶対出来るわけがないけど!

 何の映画観るのかな…

 やっぱ羨まし過ぎる。


 あれ!?…それでなんで今私はちらっと、キダカズミと映画観てるところを想像したんだろ…。

 え、なんでだろなんでだろ…気持ち悪いんだけど!

 誰とも他に映画観に行ける人がいないからかもしれない。キダには用事があるってウソをついたくせに、全く何の用事もないのだ。


 …映画館で隣に座ったキダは、今ならもうちゃんと落ち着いて最後まで観ることが出来るんだろうか。むかしは学校の体育館であった鑑賞会みたいな時もじっと座ってはいられない感じだったけど。そっといつの間にか2階に上がって暗幕を開けたりしたこともあったよね。それが、上映を邪魔しようとしたわけじゃなくて、暗幕を開けたらとのくらい映りが悪くなるのか確認したかったってキダが真顔で言ったら先生が唸ってた。



 「チサもどこかに出かける?」と父が聞く。

「出かけるよ」と、とっさに嘘をついてしまった。

 何もあてのない娘だというのを否定したかったのと、さっきはちょっと可愛いと思った父だったが家に二人でいてにつまらない用事を頼まれり、『買い物にでも行くか二人で』とか言い出されたら困る。

「まさか…」と父が私の顔を探るように見る。

 なに?父を避けようとしたのバレた?

「まさか」と父がもう一度言う。「キダ君とデートの約束とかしてるんじゃないだろうな。そうなると話は別だぞ。それはチサの事が心配とかじゃなくて最初から付き合いたいと思って、それでチサの事をどうにかしたいと思って近付いてきてるのかもしれないから!」

 何を言い出した父。『どうにかしたい』って、どういう事だ、と思うが平静を保つ。

「そんな事ないし!別に今日会ったりもしないし」

「そうか?見た目シュッとした男でも気を付けないといけないぞ。ていうかなあ、そういう見た目の良いヤツこそ用心して用心して、ものすごく用心して付き合わないといけないから!」

「お父さん!わかったから大きな声で言わないで外まで聞こえたら恥ずかしいでしょ」

「あ?…ああ、ごめんごめん」


 今日はゆっくりDVD見たり本屋行ったりしよう。お昼はお父さんの分も何か買って来て一緒に食べよう。そして今週1週間の事をだらだらだらだらずっと考えてみようっと。

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