表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

穴の中


 あ~~~…アコちゃんとサカモトナツミになんて返そう。

 まずサカモトナツミだな。仕方ない。ここは仕方ないから「また今度ね」とニッコリ笑ったカエルのスタンプ。サカモトナツミと今度二人で会う気はないのだけれど、ここはこれで正解だ。たぶん。向こうだって本気では言ってないと思う。


 それからアコちゃん。

 ちゃんと本当の気持ちを返そう。アコちゃんはちゃんと教えてくれてるんだから。

「教えてくれてありがと

 ちょっと悔しいけど

 アコちゃんとスズキ君が楽しかったらいいと思う」

 こういうのって恥ずかしいよね。そしてそこまで『楽しかったらいい』って思ってないよね。本当の気持ちを返そうとかそんな事はやっぱり出来ない。『ちょっと悔しい』のは本当は『ちょっと』じゃないし。でも親しいアコちゃんにも腹黒さは隠す。だってアコちゃんに腹黒いと思われたくないから。

 


 よし!

 いろいろ気になりすぎるから電源切ろう。

 もう誰の返信も見ないし、なんだったら明日一日はスマホ見失ってたって事にして日曜日にどうにかしよう。リセットだよね。それで月曜から高校生活始まりました、みたいな感じで過ごしてみようか。キダはやっぱり迎えに来てくれるかもしれないけど、もう部活も始まるし、またこれからいろいろ変わっていく。



 電源を切ってもう一度1階に降り洗面所で髪を乾かし、リビングでテレビをつけ録画していた番組を少しだけ見て自分の部屋に戻った。

 スマホの電源を入れたい気持ちになるが入れない。眠れなさそうなので少し屈伸運動をしてみたが、胸を大きくする運動に変える。うっほ、うっほ、うっほ、うっほ!あ~~グラビアの女の子みたいなプルンプルンの胸になりたい。

 …ならないよね。

 少しは大きくなるかもしれないけど、うちは母も大きくないもん。遺伝だ。


 電気を消してベッドに入る。

 とりあえず眠りたい、と思うけれど眠れない。それは今日いろいろありすぎたせいだ。そうそうまず学校のそばでホリさんに遭遇して…

 でもなあ…その日初めて喋った子に、その次の休み時間にトイレに行くところを捕まえて、『友達になって』って言う神経ってすごいと思う。キダの事を、カッコいい、って言って無暗に騒いだり、どっちかって言ったら『好きです』って急に告る子より確信犯ていうか、…実際…なんだろう…これはあんまり認めたくはないんだけど、ハート強いなって思っただけじゃなく、ぶっちゃけイラっとしてしまったのだ。

 キダカズミは私に好きだって言って来て、でも私は信じられなくて、信じてみたとしてもまあ今だけの気持ちなんだろうって思ったし、私はスズキ君が中学の時から好きで、スズキ君がアコちゃんに告られたけどまだもちろん好きで、なのになんで、キダカズミがホリさんから『友達になって』って言われたのを嫌だなって思っているんだろう…

 

 キダカズミの事を私も好きだからか?

 好きか嫌いかって言ったら嫌いじゃない。好きだって言われた時も、急で驚いたし何言い出してんだとは思ったけれど全然嫌ではなかった。それが今だけの事じゃなくてずっと続いたら?そうしたら私も信用して素直に嬉しく思えてくるんだろうか。

 ていうか、そもそもかなりの確率でずっと続きそうにないなって踏んでるから、今のところまだ『何言い出してんの』って思うわけだよね。

 

 それでもだ。私を好きだって言ってる子に『友達になって』なんて姑息な近付き方で、ホリさんどういうつもりだ、って私は思っているのだ。私とも喋った事のなかったホリさんが、私を介してはじめて挨拶をしたキダカズミにその1時間後に告るってどういうことなの!?なにそれ!!って思ってるわけだ。告ったわけじゃないかもしれないけど、それは純粋に友達になりたいって事じゃないと思うから。自分のクラスの男子とも馴染めてない子がわざわざ他クラの同中でもない男子に、『友達になって』なんてえぐいよね。普通に告るよりズルい告り方だと思う。安直に『好きです』ってすぐ言い出す子より質悪いっていうか…


 ていう風に、ホリさんをすごい悪者のように思ってるところがもう、キダカズミの事を割と気にしてるって事だ。

 でもキダもそう言えば、私がスズキ君の事を好きな事を、あんな小学から一緒でもなかったやつ、みたいな事言ってた。イケダだったらまだちょっと許す、みたいな事言ってたような気がする。

 私もそういう感じなんだとも思う。私がむかしから知ってて私を好きだって言ってて私を迎えに来てる子なのに!って。


 …じゃあ仮にイケダで想定してみようかな…イケダがホリさんにそんな風に言われたら?『何言ってんだホリさん』とは思うけど。何言い出されてんだイケダ、ってどっちかって言ったらイケダを面白がる感じだと思う。イケダ狙われてるよ気を付けて!みたいな。

 イケダが私の事を小学からずっと好きで、今すごい好きなんだって言ってくれたと仮定した上でそれだったら?もう仮定の仮定、みたいなわけわからん感じだけど、それだとどうかな…

 

 キダカズミの時ほどイラつかないような気がする。

 


 そんな事をずっと、もやもや、グルグル、もやもや、ぐるぐる、考えながらいつの間にか眠っていたので、当然キダの夢を見た。


 サカモトナツミからまずラインが来たのだ。

「カズミがいなくなったってカズミのお母さんが探してる」

 夢の中で私は私で、サカモトナツミも今のサカモトナツミとして認識していたが、そのサカモトナツミのラインの中にいるキダカズミは小学生だった。

 もう!と思う夢の中の私。

 前にもあったのだ。連絡網が回って来て、キダカズミが夜になっても帰って来ないって。でも結局その時は隣町まで自転車で、1時間でどれだけいけるだろう、みたいノリで行っていて、道に迷って帰って来れなくなっていたのを見かねたどこかのコンビニのおじさんに近くの交番に連れていかれて、それで連絡があって帰って来た。

 相変わらずそんなことばっかりしてる、と思う。

 そしてまたサカモトナツミから。「木本チサならどこに行ってるか知ってるっしょ?」

 知らないよ、と思う夢の中の私だが、返信しようとすると指が違うところばかり押して、「わからないよ」っていうだけのラインの返信がなかなか出来ない。

 すると今度はホリさんからラインが入る。実際の私はホリさんとラインの交換なんてしていないのだけれど、夢の中の私は違和感なくそれを読むのだ。

「クローゼット見に行くって言ってるよ」って。そして意味不明な手が右側を指差すスタンプが送られて来た。

 なんでホリさんが知ってんのムカつく、と思いながら、何これ…こっち行けって事?こっちにキダがいるぞって事?と思う安直な夢の中の私。『こっち』なんてスマホを掴んでいる人の向きによるんだけど、そこで夢の中の私は『そっか、校長室のクローゼット、やっぱ気になりすぎて開けたいんだ。わかってたよバカだなキダカズミ。そんなの、気になってすぐ見に行くことくらい私はすぐわかってた』と思ったのだ。『ホリさんなんかよりずっとわかってたし』って。

 次の瞬間私は校長室の黒いクローゼットの前にいた。不気味な事に中からバサバサと羽音が聞こえる。

 ギンイチ?

 ここでキダを大声で呼んだらマズい。私たちが校長室に忍び込んだのがバレてしまう。それでもクローゼットに顔を近付けて呼ぼうとするのだが、そのささやき声ものどが詰まって出ない。

 よくあるよね。夢の中ではよくある。

 トントントン、と扉を叩くとバサバサバサと答える様に羽音がする。もう1回、トントントン、バサバサバサ。

 どうしよう…と思ったところへウウウウウウウウ~~~~っとけたたましくサイレンが鳴ったのでビクっって!と身を縮めた。そしてアナウンス。「校長室のクローゼットに侵入者あり。校長室に侵入者あり」

 わ~~~~と慌てる私。意を決してクロゼットの扉10センチほど開けるが中は真っ暗だ。

 カズミ君!と呼びたいのだが、その言葉は『かっ…』と詰まってしまって声は出ない。暗いその中、目を凝らすと少し離れたところの下の方から微かな光が。

 穴?

 穴が空いてんの?あの中にキダカズミ落ちてんの!?

 その穴を見つめながら、私は小学生のキダカズミがその穴の縁にかがんで中を覗き込む姿を思い浮かべた、っていう夢だった。


 キダカズミのせいだ。こんな夢見たのも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ