黙らないで
電話に出るとすぐに「何してたん」と聞かれる。
「…」
「なあ、何してたん」
「なに?」
「今何してたか聞いてる」
「カズミ君のせいでずっとサカモトさんとラインしてた!」
ふてくされて言う私だ。
「え、そうなん?サカモト?何て?」
「…」
「なんで黙る。
サカモト何て言って来た?」
「言わない」
「嫌な事言われたん」
「言われない。別にそんな…普通の話を結構いろいろ…」
普通じゃないような気もしたけどまあそう答える。
「いろいろ?」
「いろいろ!」
「何怒ってるん。サカモトから何か言われたのイヤだったから?」
「言われてないよ別に」
「…じゃあオレと電話すんのがイヤなん」
「…そうじゃないけど」
「じゃあなんで1回電話鳴らして切った後に折り返してすぐ電話して来ない」
「…」
文句!?
さっきのサカモトナツミとのラインはウザかったけど、別にイヤな事は言われなかったし。キダカズミの事が好きだから仕方ないか、くらいのところまで譲歩できるくらいはちょっと可愛いとも思えた。…ような気もした。めんどくさかったけど。
「なんかな、」とキダカズミ。「昨日も電話したしな。今日も電話してみてえなってしてみて、1回切ってみたら折り返しがねえからどうかなって、やっぱ気になってすぐしてみた」
「あ、そう」
「サカモト、何て?」
「いいよサカモトさんのことは」
「でもオレにじゃなくて木本に言うのが変だろ。やっぱオレが木本には絡まないようにもう1回言っとこうか?」
「止めてよ。アレだってカズミ君のサカモトさんに言う言い方が悪かったと思う」
「…」
「サカモトさんはただカズミ君の事すごい好きなんだよ。もちょっとちゃんと優しく断ってくれれば良かったんじゃないかと思うけど」
「優しく断ったら何回も何回も同じような事言ってくるだろ。サカモトみたいに優しく断んなくても何回も言ってくるし」
「…どういう事?他にも同じ女の子に何回も告られたぞって話?」
「…まあ」
「あそう」
「…」
「でもさ!」とちょっとムキになってしまう私だ。「女子なのに、あんな感じだけどちゃんと好きだって面と向かって言えるのって、私なんかそれだけでもすごいと思うけど。…私なんてそんな事絶対出来ないし」
「それはスズキにって事?」ムッとした声のキダ。
「…」そうだけど。
「でもオレだってな、木本に言った事、簡単には言ってない」
「…」
「オレだってなあ、すげえ頑張って言ってる。ほんとはすげえ恥ずかしいけどいろいろ。けどサカモトはほんとにオレだけにじゃねえし。ラインでも前告られて断ったら、『じゃあ他の人と付き合っちゃうからね』って言うから、そのままほっといたけど」
「それはカズミ君の気を引きたかったんだよ」
「引かれねえわ」
「…」
「なんでオレの事はすごいと思わない」
「…なに?」
「サカモトの事をすごいとか言ったくせに、なんでオレの事をすごいと思わないかって聞いてんの!」
そんなキレ気味で言わなくても。
キダカズミが続ける。「結構電話かけるのも勇気いる」
「…」
「まだ付き合ってるわけじゃねえし。迎えに来なくていいとか言われても、やっぱ迎えに行きてえし、一緒に帰っても、木本が困ってる顔してもオレは嬉しいのが勝つ」
「…」
「…」それから無言のキダカズミ。
「…」私も無言。
「…」まだ無言のキダカズミ。
やだなあ…無言、嫌だな…
もう…自分から電話くれといて…そいで勝手な事ばっか言って無言てなんなんだ。
「…あの、ごめん」と間のもたなさについ言ってしまう。「カズミ君がそんな風に言っ…」
「今日朝木本に途中で話しかけて来た女子いたじゃん、木本のクラスの」
急に話変わった。…なんの話だ?
「なんかちょっと静かそうだけどはっきりしてそうな感じの…」
「ホリさんの事?」
「や、名前覚えてねえけど、今日休憩時間にトイレ行く途中で急に呼び止められて」
「ホリさんに?」
「友達になってって言われたから断ったんだけど、そのホリってやつは何も言ってきてねえ?」
「マジでっ!!」
「っ!今ビクっとしたじゃん。急に大声出すから」
「ごめんごめん、ビックリしたから私も」
ホリさんが…マジか…
キダに興味示してるなって思ったけど、好き、とかじゃなくて、友達になってって言ったのか…。それっていきなり告るよりその方が受け入れられやすいと思ってそうしたのかな。そんな感じのキャラじゃなさそうなのに。ちょっと怖いな。
「何て断ったの?」と一応聞いてしまう。
「無理って」
「いや、だからなんでそんな突き放した言い方すんの?」
「朝ちょっと挨拶したくらいで良く知りもしないやつに急にそんな事言われたら言うって」
そうかな?…そっか。そうかも。私も実際怖いって思ったし。
「実際な」とキダも言う。「友達になってって言い出す女子が一番怖え」
「…そうなの?今までにもそういう…」
「なあなあ」とキダ。「明日休みじゃん」
また話変わった!
「…うん」
「明日の事話したくて電話した」
「…」
「あのな、帰りに明日どっか行こうかって言いてかったけど、言えなかったしな」
私と?なに?デートの誘い的なやつ?キダカズミと?休みの日に?二人で?
「急に黙んなよ。胃が痛えわ」
「自分だってさっき黙ったくせに」
「ふふっ」
「なに?今なに今度は急に笑ったの?」
「いや」
「笑ったじゃん。何を笑ったの?」
「『黙ったくせに』とか言ってな、可愛いなって思っただけ」
「…」
なんだろう…キモいんだけど。含み笑いとかしながら言うのがだいぶキモいんだけど、それでもちょっと顔が熱くなって来てる自分もキモいかも。
「今日の校長のフクロウ、ちょっとおもしろかったな」
また話変えて来たよね。
「なんでそんなに話変えるの?カズミ君、むかしからそうだけどさ」
「そうか?」
あれ?でもなんで急にフクロウの話…
帰りもしてたよね。クローゼット開けたいとか言って。
「ねえ、クローゼット開けちゃダメだよ」
「は?」
「そのフクロウのクローゼットだよ。校長室の」
「…」
「カズミ君、気にして何回か言ってたでしょ?」
「…」
「どんなに中見たくても、勝手に入って開けたりしたらほんとダメだから」
返事をしないキダカズミだ。絶対忍び込んで開ける気でいるんじゃないの?
「ねえ!聞いてる!?」
「聞いてる」
何回もしてるからフクロウの話。よっぽどクローゼットの事気になってるんだよね。キダカズミがこんなに何回も話すって事は本当にすごく気になって仕方がないんだと思う。そして、開けたい!開けよう!って思ってるんだと思う。私だって中どうなってんのかなって思うよ?中見たい、って思うよ。でも校長室だからね。自分の家とか教室の話じゃないから。校長室のクローゼットを開けるって事は、まず校長室に違法に侵入しなきゃだから。でもやるよね。キダカズミなら中が見たいと思ったら絶対やる。
「ほんと、知らないからね。スマホだけでもあんな感じなのに、校長室に無断で入ったりしたら即停学とかになっちゃうよ」
「…」
「ねえ!聞いてんの?」
なんで私がこんなに真剣にキダカズミがやりそうなバカな事を止めなきゃいけないんだ。
「聞いてる」
「なら良いけど」
そう言っててもやってたよね小学の時は、と思う。本当にわかったのかな。
「ねえ…」と言いかけたら、キダカズミが笑った。
「聞いてんの!?ちゃんと」とキレ気味で確認する私だ。
「聞いてる聞いてる」
嬉しそうに言うキダに、もう~~、と思う。なんで私がこんな真剣に…
「なあ」とキダが急にとてもやさしい声で言った。「今のすげえ面白くて、すげえ、もうすげえ嬉しかった」
なにそれ。人が心配してやってんのにと思ってプッと電話を切る私だった。
知らん。脈略のない電話かけて来て。サカモトナツミの事もキダのせいでめんどくさかったのに…
ていうかホリさんすごいな。