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ナッチー

 「そうだな」と一番関係ないニシモトがすぐに同意した。「そりゃいろいろちゃんと話した方がいいよな。じゃあまたな!」

軽く速攻で自転車のペダルに足を乗せ、掃けようとするニシモトとそれを止める私。

「ニシモト待って!私も!」

「あ~じゃあキモト、後ろに乗るか?」

自転車の後ろを指差すニシモト。

「乗らねえわ」とキダがニシモトに言った。

それからサカモトナツミに言う。

「オレは別に話す事はねえよ。お前しょっちゅうそういう事言ってたじゃん、オレの他にもキムラとかにも告ってたじゃん」

 そっかそうだった!そう言えば中学の時も派手目の先輩と付き合ってた。

 サカモトナツミがブチギレた。「でも一番好きなのはカズミなのずっと!」


 「あ~~」とキダ。「それはまあ、ありがたいとは思うけどな」

「うざっ!」とサカモトナツミ。「上から目線か。でももうやけくそで言うけど、カズミのそんな感じも好きだから」

 お~~~…と思ったら、実際声に出してニシモトが「お~~」と言った。

「悪い」とキダ。

 嫌だ何言うの?やっぱさっさと帰っておけば良かった。ニシモトの自転車の後ろに飛び乗ってダッシュしてもらってこの場から離れればよかったのに。ニシモトも残っちゃったし。

 

 キダが言った。「わかったけど無理だから」

 …あ~~~…『無理』とかいう言葉使っちゃったよ。最悪。

サカモトナツミが言う。「中学の時にカズミの事みんなで話してた時にも、カズミはキモトチサが好きだったくさいってみんな言ってたけど、でもさ、カズミはおっぱいの大きい子が好きだって男子が言ってて、じゃあ絶対キモトチサはないじゃんてみんな言ってたもん!」

 あ~~~…くそ~~~~…みんなって誰なんだよ連れて来い!それでニシモト、哀れなものを見る目で私を見るな。

「カズミ、キモトチサのどこがいいの?私に言ってみ?」

「なんでお前に言わなきゃなんねえんだよ」とキダ。「木本にだってちゃんと言えてねえのに」

 ドキンとする私。

「でもカズミな」と、ここでちょっとニヤついて口を挟むニシモト。「言ってたんだけどグラビア見たときもそれを木本…」

「ニシモトっ!!」

私は未だかつてない速さで、確実に余計な事をぶち込もうとしているニシモトの肩を思い切り掴んで黙らせる。

 ビックリする。バカじゃないの!?何言い出そうとしてんだ、ほんとバカじゃないの!?

「お前力つえ~よ」とニシモト。

そのニシモトを掴んでいる私の手をニシモトから引き離させながらキダが早口で言った。

「オレは普通に木本と一緒にいたいだけ。オレが一緒に学校行きたいから迎えに行ってるだけ。じゃあ、そういう事で、な?ニシモトも早く帰れ」



 「待って!」とまだ食い下がるサカモトナツミだ。

「何?」とキダがまだなんかあるのか、みたいな感じありありで冷たく聞くと、「もうカズミはいい」とサカモトナツミが言った。

「キモトチサ」とサカモトナツミが改まって言うのでドキンとする。「キモトチサのライン教えて」

私の!?



 

 「すごいじゃん木本」とニシモトが言う。

結局今ニシモトは自転車を押しながらキダと、私も一緒に歩いているのだ。

「ちょっと修羅場的な感じだったじゃん、すげえな木本のくせに」

「うるさい。あんたさっき超余計な事言おうとしてたでしょ?怖いわ」

「サカモトの方がだんぜん巨乳なのにな!」嬉しそうなニシモトだ。

バカだこいつ。


 「まぁでも良かったじゃん」と私の冷たい目も気にしないニシモトが続ける。「カズミがちゃんとサカモトにお前の事言ったから。男前じゃんカズミ。オレでも好きになるわ」

 そりゃ私も、キダカズミが『オレは普通に木本と一緒にいたいだけ』って言った時にはもちろん胸がぎゅっとしたけど、私はサカモトナツミの事もすごいと思った。中学の時はあんまり好感持てなかったけれど、それで今でも苦手だけど、さっきのサカモトナツミは嫌な感じには思えなかった。度胸あるよね、あんな風に自分の気持ちをはっきり言うとか、問い詰める事も出来るとか。あんなに拒否られてるのにハッキリ自分の気持ちを言えるだけですごいと思う。私なら心が折れまくってる。



 「でもな」とキダが言う。「ニシモト、お前が木本の事『お前』って言うな。それでお前が木本絡みでおっぱい話をすんな。想像してると思うとすげえイヤ」

びっくりした顔のニシモト。「それ、マジで言ってんの?」

「マジ」

「マジで!ちょっとキモいなカズミ」

「お前の彼女をオレが『お前』って呼んだら嫌じゃね?」

「いや別にお前なら全然いいけど」

何ちょっと笑ってんのキダカズミ。自分だってサカモトナツミの事、お前って呼んでたくせに。

「あんたたちねえ、」と私は静かに言った。「女子同士の付き合いの難しさをわかってないから。バカだから。そうたいして親しくないけど関係なくもない女子同士がいちばん付き合い難しいんだから」

 そう言った私にニシモトが「まあまあまあな」と続ける。

「サカモトはサカモトで一生懸命だったのかもしれねえけど、やっぱ強引過ぎるよな。まあそあの強引さに負けてオレもむかしカズミのライン教えたけどな」

「…」

「まあそういう事で、他の女子とかがカズミと木本の事聞いてきても、オレは木本の気持ちがはっきりするまで知らんぷりしててやっから。な?」

なにが『まあそういう事で』なんだ。




 サカモトナツミからどんなラインが来るんだろう。家に帰ってからそればかり気になる。

 …ちょっと怖い…てかだいぶ怖いような気がする…サカモトナツミだけだったらいいけど、他の女子も巻き込んだり…しないよねそんな事…怖いな…

 なにしろキダがまず悪い。

 女の子からあんなに好きだって言ってんのに。モテ慣れしてるからあんなにスパッと拒否れるのかな。 



 ずっと来ないので安心していたら、夕飯の後部屋に戻るとサカモトナツミからラインが入っていた。

 来た、と思って恐る恐る開ける私。

 でも私が予想した、例えば「カズミに連絡くれるように言って」とか「カズミと3人のグループ作ろう」とか、もっとエグい感じで、「あんたとカズミって全然似合わない。良い気になんないで」とか、そういうのではなかった。

 「帰りはお疲れ 

 キモトチサいつもどんな曲聞く?」だった。


 しばらく文字を見る。

これ、サカモトナツミ?サカモトナツミは私の好きな音楽を知りたいの?

「チェインスモーカとかいろいろ」と返す。

その答えに返ってきたのは、キョトーン、とした変な顔の犬のスタンプ。

それから少ししてまたラインが入った。

「ザ・チェインスモーカーズの事?」

「そうだけど」

「私洋楽あんま聞かないからすぐわかんなかった」

「サカモトさんは?どんな音楽聞くの?」と聞いてみる。

聞かれたら聞かないといけないよね。

 すぐ返信が来た。「わたしさあキモトチサの事チイちゃんて呼ぶわ。チイちゃんもサカモトさんて止めてくんない?」

 サカモトナツミにチイちゃんて呼ばれるのはちょっと…


 「チイちゃんは英語の歌、何歌ってるかわかるん?」

違和感あるな。サカモトナツミに急にチイちゃんて呼ばれるのは。

「わからないよ」

「じゃあなんで聞くん?カッコつけてんの?」

…まあカッコつけもあるよね。

「勉強するときに日本語の歌聞くと勉強出来ないけど、洋楽聞いたら聞かない時より出来たような気がしたから」

 目を見開いたウサギのスタンプが来た。『ほんとか!?』みたいな感じ?

 少ししてまたサカモトナツミから。「好きな芸人は?」

「ポイズン・ガール・バンド。千鳥とか笑い飯とかも好き。サカモトさんは誰が好き?」

さっきよりも変な顔をした、今度はカエルのスタンプが来た。

「だ・か・ら」とサカモトナツミ。「サカモトさんじゃないつったじゃん」

「ごめん」

それから少ししてまたサカモトナツミからのライン。

「ポイズン・ガール・バンドの確認してきたぴょ~~」

『ぴょ~~』てなんだ?

そして「私あんまお笑い見ないからすぐにわかんなかったんだよね」

 じゃあなんでそんな質問をした?



 それでそのまま置いておいたら、「私にも何か聞いて」というラインが来た。さっき聞いた時には答えなかったくせに…

サカモトさん、と打ちかけて訂正する。「ナツミちゃんは誰が好きなの?」

「ナッチーって呼んでくれる?」

マジで…。それでこのラインいつまで続くのかな…

「ナッチーは誰が好きなの?」

すぐに、本当にすぐに、びっくりするほどすぐに返信が来た。

「私カズミが好き」

…そうだよね!知ってたし。



 

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