サカモトナツミ
アコちゃんとスズキ君は部活がほぼ一緒だからこれからもずっと一緒に帰るのかな…
キダがちょっとバカにしたような感じで言う。「結局観にいかなくてもいろいろ気にしてるよな。ほんとは行きたかったろ」
うるさいよね。行きたかったよそりゃ。間近で二人の様子を伺いたかったよ。でもアコちゃんにもスズキ君にもウザがられたくはない。
キダが続ける。「観なくていろいろ考えるより、観て納得する方が良かったのにな」
「うるさいよ」と今度は口にしてしまった。「もう黙ってて。アコちゃんたちの事に私がどう絡むかは私が決めるんだから口出さないで。アコちゃんの邪魔とかしたいわけじゃないし」
言いながらそれでもぐじぐじ考えるけどな!と力強く思う。私はむかしからそういう感じだから。ぐじぐじしてんのが情けないけど私なの!
「まあな」とキダが言う。
まあな、じゃない。
「でもオレは邪魔するけどな!」
「…」
言ってるキダも部活が始まったら一緒には帰らないし、部活始まったら友達も増えるだろうし、さらに女子の興味も引くだろうし、朝練あることもあるだろうから、帰りだけじゃなくて行きもだんだん私とは一緒には行かなくなるだろう。もしかしたら来週にはもうそうなってるかもしれない…
「「「カズミ君!!」」」とキダを呼ぶ女子の声。
小学校のそばを通りかかった時だった。小学校の方から歩いてくる3人の女子。小学も中学も一緒だったけど他校へ行った子たちだ。そのうちの一人がもう一度キダカズミを大きな声で呼んだ。
「カズミぃ」
あれは…サカモトナツミ。キダとはまた違った大人ぶったヤンチャさで、小学の時にすでにうっすら化粧をしたりネイルをして来たりして先生に親も呼び出されていた子だ。いわばボスキャラ女子。小学生の時も苦手であまり話した事はなかったけど、中学でさらに派手になって、中間層の私とは接点がなかった。今は茶髪のロングヘアに軽いキャバ嬢みたいな化粧。爪も長っ!スカート短っ!パンツ見えそうじゃん。そしておっぱい大きい!
サカモトナツミは「マジで!?」とこちらに近付きながらキツい口調で言った。
「マジであんたたち付き合うようになったの!?」
私とキダを交互に指差しながら聞く。
サカモトナツミってキダの事好きだったよね…
すごく好きで、私の事を邪魔もの扱いして来た事もあった。
「…え…」と、どうにか説明を始めようとする私の声にかぶせてキダが答えた。
「まだそういう、たぶんお前らが思ってるような感じじゃねえけどな」
は?何ビミョーな答え方してんだキダカズミ。
「何それ」ともちろん冷たい口調のサカモトナツミ。「うちらが思ってるようなってどんな感じよ!?」
「いや、まあ…」とキダ。「オレら帰るわ。またな」
「ちょっと!」とサカモトナツミ。「小学の卒業式ぶりじゃん!私、あんたに5、6回告った事あったじゃん。中学の時だってライン送った事何回もあったでしょ?スルーしたよね?なんですぐ帰んの!ねぇ!どういう事なのキモトチサ!」
私!?フルネームで私に振って来た!
5、6回?5、6回キダカズミに告ってたんだ。サカモトナツミがキダを好きな事は同学年のほぼ全員が知っていたが実際そんなに告っていたとは知らなかった。
「ひどくない?」とサカモトナツミが連れの二人に聞き、連れの二人は「「ひどいかも~~」」と相槌を打つ。
二人は中学でもサカモトナツミとよく一緒にいたタナカさんとコウサカさんだ。タナカさんがサカモトナツミと同じ制服。コウサカさんだけ別な高校らしい。二人ともサカモトナツミほど派手ではないけどメークをしているし、サカモトナツミほど短くはないけど、絶対校則には違反しているくらいスカートを短くしていた。
私、…先に帰りたいな!
「あの、私先に…」
言いかけたらサカモトナツミが言った。「ねえねえキモトチサ、カズミの事好きなの?告られたんでしょ?」
「ふぇ?」変な声出た。
また私に矛先!!しかもフルネームで呼ぶことに決めたのか?…ていうか!告られたって言ってるけどなぜそれを知ってる。
ちっ、とキダが舌打ちをする。
女子に舌打ちをするな!しかもあんたの事好きな女子に向かって。
でもキダに聞けばいいのに、と思う。私は帰るから。
「告られたのに付き合わないの?」と私に聞くサカモトナツミ。「なのに一緒に帰ってんの?行く時も一緒らしいじゃん。なのになんで付き合ってないっていうわけ?」
私はサカモトナツミが苦手だ。なぜなら派手で意志が強いから。ハートもバシバシに強いから。即座にうまく答えられない私に、さらに最悪な事にキダカズミが私の腕を掴んで言った。
「もういいって。相手にしなくても。帰るぞ」
「ちょっと!!」とドスを利かせたサカモトナツミの声が怖い。
でもなんて答えるの?付き合ってないよって?こうやって毎日一緒に帰ってるのに?すごく長い説明に入らなきゃいけなくなるじゃん。スズキ君とアコちゃんの事まで喋らないと全ては通じないじゃん。
「カズミに告られたんでしょ?」ともう一度聞くサカモトナツミ。
そうだけど…
が、キダカズミが吐き捨てるように言った。「サカモトには関係ねぇじゃん」
…こいつ…なんでサカモトさんの神経を逆なでするような事を言うのかな。
当然のように一緒に来ていた後の二人が「「ひどっ!!」」と声を合わせる。
ひどいよね、私もそう思う。
「オレに聞くならわかるけど」とキダがサカモトナツミに言った。「オレがいんのに、なんで木本にばっか聞くん?」
「だって」と急に声の小さくなったサカモトナツミ。
「いいじゃん」とサカモトナツミはちょっと小さめの声で言った。「カズミに告られたキモトチサがうらやましいから聞いてんの!ずるいし、小学から一緒だから好きとか、私だって一緒だったし、私の方がずっと好きだって言ってたし。もう~~~すごいうらやましい~~~!悔しい~~~!」
わ~~~、と思う。私が男で、自分を好きだと言ってきてる女の子にこういう事を言われたら、結構嬉しいし可愛いと思う。サカモトさん実際顔も派手だけど可愛いし巨乳だし。そう思うので私は余計いたたまれない。
「んん~~」とキダカズミが唸ってからさらに余計な事を言った。「小学から一緒だから好き、っていうのとはちょっとニュアンスが違う」
馬鹿だキダカズミ。
案の定サカモトナツミはキレた。「どうでもいいし!!」
「なら」とキダ。「オレら帰るわ。またな」
あ~~もう…なんかよくわかんないけど、私がすごく嫌な感じに思われてるよこの3人に。こんな感じ、同中の女子に広められたらどうしよう…
自分の立場を守りたい!!
「ちょっと!」まだ食い下がるサカモトナツミ。「「関係ある!」と強気のサカモトナツミ。
強いな。
「あんたさ」とサカモトナツミはキダに言う。「私が小学からあんたの事好きなの知ってるじゃん。なのに…」
「知らねぇ」
「はぁ!?」大きな声を上げるサカモトナツミ。
私までキダを睨んでしまう。マジでひどい。
「何回も告った事あるじゃん!」サカモトナツミがなおも食い下がる。
「そうだっけ?」と人事のように返すキダカズミ。
ひどい。
「その後だって…」
あ、サカモトナツミの声がここに来て詰まった。
ほんといたたまれない!!
だってひどいよね、告られた事も覚えてないとか。女の子から告ってんのに。
「すげぇ!」と後ろから声がして、振り向くとニシモトミノリだった。
いや、振り向かなくても声でわかったけど。
「今日はサカモトたちまでいるじゃん」と来たばかりで空気を読めていないニシモトが、機嫌の良さそうな声で近付いてきてから「あ、」と言った。
遅いわニシモト。遠くからでも空気読まなきゃ…。
そして私もひどいとは思うのだけど、一人で先に帰るならこれが良いタイミングかなと思う。…けどまあタイミング的には今なんだけど、ここで帰ったら後がもっとめんどくさい事になるはずだとも思う。
どういうわけか私の顔色を伺ってくるニシモト。
こっちを見るなニシモト。
が、サカモトナツミがニシモトに言った。
「ニシモト!カズミがクソひどいんだけど!」
「あ~~」とニシモト。「そうなの?」
いや、私に聞くのは違うでしょ?
サカモトナツミが続ける。「キモトチサもさあ、告られて、一緒に学校行ったり帰ったりしてんのに、まだ付き合ってないとか言ってんだけど、キモくない?」
キモくはないわ!
「ん~~~」とニシモト。「オレ、今日用事あったわ」
ニシモト!!
「いや」とキダ。「オレらももう帰る」
「カズミ君!」つい私が大声を出してしまった。
サカモトさん泣いちゃったりしたらどうすんの。
案の定サカモトナツミはプルプル震え始めた。それはせつなくなるよ。泣くよそりゃ。もうどうしよう…
が、「うざっっ!」とサカモトナツミは叫ぶように言った。そして「ちょっとニシモト」とニシモトを呼ぶ。
「あんたキモトチサと先に帰ってくれる?」
「はぁ?」とキダカズミ。
「私ちょっとカズミと話するから」サカモトナツミは私に言った。「キモトチサ?いい?」
こくん、とうなずいてしまった私だった。うなずく他にどう出来る?