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ほんとは見に行きたい


 「よし、じゃあ腕もつかれて来たしギンイチ君には帰ってもらうか」

そう言った校長は、クローゼットを開けその中にギンイチの乗っている腕ごとギンイチを入れる。

 ばさっ!ばさっ!!と鳥が翼を広げ、飛んで行く音がする。

 顔を見合わせる私たち。今どこか遠くの方へ飛び去っていくような羽音聞こえたよね?



 「なんだったんだろうね、この時間」

一緒に教室へ帰りながらスズキ君が、まさに私が心で毒づいていた事を優しげな口調で言う。

「あの2年のやつ」とキダが私に言った。「やたら木本に絡んでくるな。し、木本も嫌がらずに受け入れ過ぎじゃね?飲みかけの飲みもんまで飲まそうとしてたろ?もっと本気でちゃんと嫌がれ。バカじゃねえの。あれセクハラじゃん」

なんで私がバカとか言われなきゃいけないの!?

「キダがさあ」とスズキ君が面白そうに言う。「イラついて木本と先輩のとこ行こうとしてた。でもなかなか言えないよね。相手が先輩だと。優しくて気安いの感じの先輩だから逆に言いにくそう」

そうなんだよ~~~、と思う。スズキ君さすが。

「それにフクロウの説明がおかしかったよな」とスズキ君が急に声を潜めて言った。「フクロウに話しかけるのが仕事とか。最後、クローゼットの中に帰って行くとことかも…」

「楽だよな」キダが軽く言う。「餌とか掃除とかやらなくていいんなら」

「なんか変わってるね、あの校長」とスズキ君も言う。

「あいつ」とキダが言う。「やっぱ桜井に似てたな」

うん、とうなずく私に「誰?桜井って」スズキ君が聞いてきたので、「私たちの小学の時の担任の先生」と答えた。



 「先生にほんと似てるよね」とキダに言った。「マキ先輩も言ってた。ねぇカズミ君、マキ先輩、万田小だったんだって。カズミ君の事も覚えてた」

「ちっ」と舌打ちするキダカズミ。「マジか…っていうかオレもうっすら見たような顔だなって思ってたわ。でもなあ、気を許し過ぎ!喋り過ぎ!顔近過ぎ!食いかけのパンも食わせようとしてたろ?超キモいわ」

すごい見てたんだな…でもその言葉は無視して私はマキ先輩との小学の仲間班の話と教えた。

「うぜえな」とキダ。

「そんなん小学の時のカズミ君の方が悪いと思う」

「あいつの味方するん?」

 そこへ笑いながら「なんかいいねえ」とスズキ君が言う。「やっぱ二人って良い感じだよね。そうやってちっちゃい頃からの話とかも出来てさ。なんかほのぼのしてるわ」

そんなことないですよ!

「でも名前知られてたね校長に」スズキ君が言う。「なんか、悪い事出来ない感じ」


 「なんか生物部のこと言ってたけどキダと木本は部活どうすんの?」とスズキ君。「来週部活紹介あるけど」

「そうだよね」と私も言う。「委員会だけでも大変そうなのに、生物部とかずっとあのカエルの面倒見させられそうで無理だと思う」

「だよな」とスズキ君。

そして何に入るつもりかと聞くので私が美術でキダはバスケと答えると、ふんふん、とうなずいて続けた。

「オレも中学でやってたからバレーだな。カワイも女子バレー入るって言ってたから今度一緒に部活見学行こうかって言ってる」

「えっ!?一緒に!?」

まずい。すごい大声で聞いてしまった。ビクってしてたもんスズキ君。

「うん。他にも誘うかもだけど今んとこは二人かな」

マジか!

 もう~~~!いつの間に~~~!

 もう結構仲良くなってんじゃん!



 キダが私に言った。「じゃあオレらも見に行くか」

「へ!?」何言い出してんのキダ。

「木本も見たいんじゃねぇの?バレー部」

「あれ?」とスズキ君も言う。「キモトも行こうと思ってたの?なんだ、バレーボールやりたいの?じゃあ一緒に行ったらいいよカワイも喜ぶんじゃない?」

いや、え?

 …どうしたら良いんだろう。

 いや、行きたいけど。それは私が部活見学したいわけじゃなくて、スズキ君がバレボールするところを見たいのと、スズキ君とアコちゃんが二人でどんな風に部活見学をするかを観察したい邪な気持ちがほとんどなのに。

 でも私とキダが行く事になったらスズキ君と二人で行きたかったアコちゃんはがっかりするよね…喜ぶわけない。いや、がっかりどころかたぶん私、すごく嫌われるかも。



 「ううん」とスズキ君に首を振った。「私は行く予定はないけど」

ものすごく気になるけどね!

「そうなん?」

スズキ君にそう言われた私をキダがじっと見ているので私は平気な顔をする。

 「なんかイケダの話だとさ」とスズキ君は今度、キダに言う。「キダ、バスケすんごい期待されてるっぽかったけど?県大会とか行ったんでしょ?」

それに返事をしないキダ。

 返事をしろ!

 「なぁ」とスズキ君には返事をしないくせにキダは私になおも言う。「気になるんなら行きゃあいいじゃん」

「…」しつこいな。

私とキダの顔を見比べて、ふん?、と様子を伺っているようなスズキ君。

 「カズミ君こそバスケの見学行ったらいいじゃん一人で」私はキダを突き放すように言った。「頑張ってね」



 3組の前でキダと別れ際「じゃあ帰りな」と言われる。

 それを曖昧に流して4組の教室に入ると、スズキ君が急にハッとした顔をして言った。

「木本とキダも部活はじまったら時間合わなくなって一緒に帰れなくなるな」

「…別にそれで構わないんだけど」

「そうなの?キダは帰りたがってるみたいだけど。まあオレほんとは部活入んの止めようかなってちょっと思ってんだよね。あんま良い成績取れなさそうだから、そんなんで部活入ったら部活も思い切りできなさそうだし。やっぱ大学行きたいし」

「そっか…いろいろ考えてるんだね」

「それはカワイには話せてないんだけどね」

ドキン、とする。たアコちゃんにまだ話してない大切な事を私に教えてくれるなんて。

 すごく嬉しいな。

 私はどうするんだろう。部活をやってもやらなくても良い成績は取れなさそうな気がするけど…


  放課後、帰る用意をしているとアコちゃんがやって来た。もちろん私のところへではない。

「リョウ君!」と呼ぶアコちゃん。

おお?という顔でスズキ君を見るクラスメートたちと、『来たな』って顔で見てしまう私。

 もうほぼ付き合ってる感じじゃん!と思っているところへ私もキダに呼ばれた。

「木本」

『今日も来た』と言う顔でキダを見る女子のみなさん。

「あ、キダ君」とアコちゃんが言うのが聞こえる。「モトちゃんと今日も帰るんだ~~」

そういうアコちゃんはスズキ君と帰るわけでしょ?と思ったら、アコちゃんが私を呼んだ。

「モトちゃ~~~ん」手を振るアコちゃんは言う。「キダ君待ってるよ~~」

やだなあ、アコちゃん。


 スズキ君が急いで用意してアコちゃんのところへ駆け寄り、「カワイ、やっぱ名前で呼ばれんの恥ずかしいって」と言っている。

「木本!」とキダがまた呼ぶ。「スズキはもう帰るぞ~~」

余計な事を言うな!

 「モトちゃん、じゃあねえ~~」と手を振ってくれるアコちゃんと同じように隣でピョコっと私に手を挙げてくれるスズキ君。

「木本~~」とキダがまた呼ぶ。「遅いぞ。早く帰ろ」

「ちっ」と後ろの方から舌打ちが聞こえた。「早く帰ろとか私も言われたいわっ」

 気まずくて、そして仕方ないので急いで用意をしてキダのところへ行く。


 「なあ」とキダが言う。「こういう感じ」

キダが廊下の窓越しに空を指差した。夕方に向かって陽が傾いて行く。辺りを優しく、少し切なくしようとする前の空の色だ。

「オレはこの時間帯に空を見ると結構、木本と飼育係やってた時の事思い出したりしてた」

「…」

「また飼育委員、木本と出来るなんてなんかすげえわこの高校」

「…そんな事言ったって、カズミ君は係の仕事あんましてなかったじゃん。ウサギとかと遊んでて」

「あ~~ウサギなあ」

「ウサギなあ、じゃないよ。先生にも怒られてばっかだったし」

「まぁな」

「私だけがいつも仕事してた感じがする」

「でも楽しかったろ?」

「…」

「オレは一緒ですげえ楽しかったけど」

あんたはやりたい事ばっかやってたからだよ。

「なぁなぁ」とキダが言う。「オレ、あのフクロウのクローゼット開けてみてえかも」

今度はまた何言い出してんのホントにもう!どんどんむかしの感じ出してくるなあ。

「やりそうだよね!カズミ君なら」

「いや今のオレはだいぶん大人になって来てて、そういう子どもみてえな事はしない感じでいってんだけど、木本がいてがっつり飼育係の時の事思い出したら、なんかやっぱ面白そうじゃんあのクローゼット。…鍵とかかってんのかな…」

「ダメだって!!勝手に開けたりとかしたら絶対ダメだって!」

「そいで木本いつから美術部入んの?1回観に行くんなら一緒に行ってやってもいいけど」

またコロコロ話変わるじゃん!

「いいよ、カズミ君こそ早くバスケ部行ったらいいじゃん期待されてるんでしょ」

…そっか。キダが飽きるのなんか気にしなくても、部活始まったら一緒に帰る事もなくなるね。


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