昼休みに校長室へ
3時間目が終わって昼休み。
スズキ君に「じゃあ行こっか」と言われて弁当の入ったバッグを持つ。
こんな事ってもうないかも、と思う。スズキ君に誘われて弁当を持って移動なんて。委員会一緒で良かった。
「オレ、フクロウってちゃんと見た事ないんだけど」とスズキ君。
「私も」と答えたところへキダがやって来た。
「お~~」とキダを迎えるスズキ君と、それに軽く手を挙げて答えるキダ。
「木本」とキダが言う。「今先に行こうとしてねかった?」
「…してないよ」
私はしてたけどスズキ君はキダも迎えに行こうとしてたはず。
「フクロウって結構肉食だって聞いた事あるけど」とスズキ君はフクロウの話を続ける。「キダはフクロウ間近で見たことある?」
わ~…キダにもフクロウの事を聞くスズキ君、可愛いな。
「ある」
「「え、あるの?」」とスズキ君と声を合わせて驚くと、キダは私をちょっと睨んで言った。
「結構な田舎に住んでたからな。よく庭に来てた」
「「庭に!?」」とまたスズキ君と声が合ってキダに睨まれる。
「どのくらいの大きさ?」とスズキ君が目を輝かせて聞く。
「こんくれえの」とキダは両手で大きさを表す。
「マジで!」とスズキ君。「色は?」
「茶色混じりのグレー」
「すげえ!」とスズキ君。「何食べんの?何食べんの?」
スズキ君、フクロウの話にすごい食い付いてる。
「何て言う名前のやつ?種類」とさらに聞くスズキ君。
「さあ、種類はわかんねえけどネズミ食ってたな」
「「ネズミ!!」」またスズキ君と声合った。
それに顔をしかめたキダが私に言った。「今度連れてってやる」
「え?」
「オレのいたとこに」
そして1組の前を通ると教室からパッとアコちゃんが現れた。
「リョウ君!今から委員会?お昼行こうと思ってたのに残念だな」とスズキ君に言ったアコちゃんが私をチラっと見て言った。「モトちゃんも」
付け足された!
もうアコちゃん、スズキ君メインでうちのクラスに来る事になってるじゃん。
「でも今日帰りは委員会ないよね?」とスズキ君に聞くアコちゃん。「一緒に帰ろ?」
わ~~…今の『帰ろ?』の言い方可愛かったな。くそ~~~。
「え、帰るの?」と恥ずかしそうに聞くスズキ君。「カワイとオレ?」
なんだその、『帰るの?』っていう可愛らしい聞き返しは。
アコちゃんは満面の笑みで答えた。「そっだよ~~ん」
やられたよね。
ニコニコのアコちゃんと恥ずかしそうに私とキダを気にするスズキ君。
…付き合う事にはなってないって言ったよね!?違うの?もう心がかなり近寄ってる感じっぽいじゃん!
心をモヤモヤさせたまま校長室の前に立つ。
中からはガヤガヤと声が聞こえ、たぶん私たちのノックと「「「失礼します」」」の声は聞こえていなさそう。
恐る恐る開けた校長室の中は他の飼育委員がもう詰めていて、私たちを見つけたマキ先輩に「遅いじゃ~ん」とチャラく手招きされる。
「「すみません」」
謝ったのは私とスズキ君だけ。キダは知らん顔をしている。
校長室は普通の教室の3分の2くらいの広さで、そこに校長の姿はなかった。見る限りフクロウもいない。
私はなんとなく、木製の、それでも黒光りしている荘厳な感じの校長の机の脇に、大きな鉄製の鳥かごがつりさげられていて、その中にフクロウがすましている図、あるいは背の高い棒状の止まり木があるスタンドがあって、そこからフクロウが私たちを見渡している図を想像していた。
向こうの窓際に、校長用の少し立派な机はあるが、想像よりもずっと小さかったし、来客用のソファもあるが、それをぬうように長机とパイプ椅子が所せましと詰め込まれ、その狭い中を飼育委員の先輩方がワラワラと配置していき、あっと言う間に簡易の食堂が設定されていった。
ぎゅうぎゅう詰だ。
セッティングが進む中、私はいつの間にか入り口近くにいたキダともスズキ君とも離れてしまい、なんとなく一人だけ奥の方へ押しやられ、マキ先輩と、ショートボブの年上とは思えない可愛らしい感じの2年生の女子との間の椅子に腰かけていた。
先輩と先輩の間は困ったな、と思いながらキダとスズキ君の方を見ると隣り合って腰かけている。
ただでさえ人口密度が高いのに、先輩に挟まれて緊張する。非常に弁当も食べにくいしソワソワする。
「チサちゃん」焼きそばパンを食べながらマキ先輩がさっそく絡んできた。「彼氏たちと離れちゃったね」
「ほら」とマキ先輩。「あいつオレの事メチャクチャ睨んで来てるけど」
なぜか嬉しそうなマキ先輩だ。
「あいつなんて言ったっけ?チサちゃんの彼氏気どりの…名前忘れたわ。いや、名前はオレと同じだから忘れないけど苗字わすれた。でもあぁいうの止めといた方がいいよ。すげえモテそうだもんね。そういうのはめんどくさいよいろいろ」
うん、まあそうだけど、私は別な方の目が気になる。
「先輩?」こそっとマキ先輩に言う。「それよりそのカズミ君…じゃなかったキダ君の横の女子の先輩もメッチャこっち見て来てないですか?」
「お?」と先輩が目を輝かせて私を見つめる。「今先輩て言ってくれたねえ!嬉しいな。も1回言ってみてもう1回!」
「いや、それはいいんですけどカズミ君の横の女子の先輩が…」
「おおっ!隣でカズミ君とか言われるとキュンて来たわ今」
キダの隣にいた女子の先輩、私の事睨むように見てない?もしかしてマキ先輩の彼女?ここには水本先生のファンの女子しかいないのかと思ってた。
肩下辺りまで髪を伸ばした整った落ち着きのある、それでも可愛らしい綺麗な感じの女子だ。
それには応えず「チサちゃん」とマキ先輩が呼ぶので私ははっきりと言った。
「先輩、コレ冗談じゃなくて本気で恥ずかしいしイヤなので、せっかくですが私の事名前で呼ぶのは止めてもらえませんか?」
「え~なんでいいじゃん」
いや、いいじゃん、じゃないよ。それでメッチャ見てるんですけど2年の女子。
「チサちゃん」
呼ばないでって頼んだのに先輩にまた呼ばれる。
「何ですかもう」とつい本気で嫌な返事をしてしまった。
「ヤだな、『もう』とか付けないでよ」そう言いながらも先輩は笑っている。「面白いなチサちゃん」
「面白くないですよ」
「ていうかもう1回ちょっと耳元寄った感じで『先輩』って言ってくれる?ていうか『カズミ先輩』がいいな。後輩に『カズミ君』て呼ばれるのもすげえいいけどやっぱここは『カズミ先輩』って…んんんん~~迷うよね!」
いや、そんな真面目な顔で悩まれても。それにあの2年の女子、まだメッチャ見てますって!
「校長先生って後で来るんですか?」
話題を変えるために聞いてみる。
「校長ねぇ…どうかな来るのかな」
「え、来ないんですか?来ないならなんで私たち招集されたんですか?」
「ん~…校長の気まぐれじゃないの?呼んでみよっかな~って感じの。か、オレら見られてるのかもよ?校長に別室からモニターとかで」
「マジですか!?なんでそんな事するんですか!?」
意味がわからない。
「やっぱオレ、チサちゃん見た事あるわ。もしかして万田小?」
「…そうですけど」
「やっぱね!あいつもだよね?」先輩がキダに視線をやって聞く。「どっちかっつったらオレ、あいつの事余計に覚えてる」
「先輩も?万田小ですか?」
「そうそう。小5で1回引っ越して去年こっちに戻って来たから、中学は違うけど。チサちゃんあんま変わってないね」
「え!?マジですか?小学の時の私、覚えてるんですか?」
「仲間班でいっしょになった事あったと思うけど」
「ええ~~~」
大きな声を出してしまい恥ずかしい。が、マキ先輩は苦々しく続けた。
「オレあいつとも仲間班一緒だったことあるけどあいつ全然オレの言う事聞かなかった!」
あ~~…そんなの小学の時のキダは誰の言う事も聞いてませんよ先輩。