心ぐだぐだ
「だって」と私が出たとたんにアコちゃんは言った。「モトちゃんがリョウ気君と同じクラスになっちゃったから焦ったんだもん」
リョウ君て呼んでるよ!
「委員会まで一緒になるしさ。それをすごい嬉しそうにするしさ。私だって結構中学から見てたし、バレー部で断然私の方が近いのにって」
あ~~…と思う。
「でもどうせモトちゃん、」とアコちゃんが言う。「リョウ君に告白する気なんかなかったでしょ?」
何それ!なんか嫌な言い方だな。そりゃそんな勇気ないけど…。
「でもいいじゃん。モトちゃんはキダ君がいるから」
何それ…
アコちゃんがそんな言い方するなんて。
その後黙り込むアコちゃん。私だって何て言っていいかわらない。
「アコちゃん、」聞くのはドキドキする。「…スズキ君と…付き合うの?」
「ううん。ただ、ずっと好きだったって言っただけ。でもありがとう、って言ってくれたんだ!超優しい」
マジで…
いいなぁ……いいなぁっ!もうっ!…ありがとうって言われたのか…
悔しいなあ!勇気あるなぁアコちゃん。
そうだよ優しいんだよスズキ君は。そんな事同クラの私がいちばん知ってるのに!
『ありがとう』って言われたのか…うわぁ…
いいなぁ私も言われたいなぁ。私が好きだって言っても『ありがとう』って優しく言ってくれたかな…
「私ね」とアコちゃんが続ける。「付き合うよりも、ただ私が好きな事知ってて欲しかったんだよね。いや出来たら付き合いたいけどさ。無理してもらうのは嫌だし、試しに付き合われたりするのも嫌だし。まあスズキは絶対そんな事はしないと思うけど。スズキは誰に告られても、その気がないのに付き合ったりはしないと思うんだ。だから特に何も思わなくていいから、私が好きだっていうのを知っておいてもらって、これからは前よりもちょっと仲良くしてねって言ったんだ」
うわぁ~~~…
そんな事言ったのか!そんな可愛い事言ったのか!そんな事言われたら男子はその子の事好きになったちゃうんじゃないの?
「ごめんね」とアコちゃんが言うので胸がヒクッとする。「本当はスズキに告る前にモトちゃんに言おうと思ったんだけど…モトちゃんとスズキが同じクラスになって、本当に焦っちゃったんだよね。それに委員会まで同じになったとか言うから。もうダメだ~~て思って。もう絶対先に言わなきゃと思って」
「アコちゃん…」
そんな風に言われたらもう何も言えないよ。アコちゃん、すごくいじらしい。でも私の気持ちはど行っちゃうんだろう…
電話を切った後しばらく茫然とする。
すぐにアコちゃんからラインが来た。
「ごめん」てそれだけ。
何も返せない私だ。
スズキ君に「ありがとう」って言われたのか…二人がこのままうまくいって付き合う事になったら絶対に辛いよね…自分の一番仲良くしてくれてる友達と好きな男子が付き合うとか。急展開過ぎる。明日の朝、アコちゃんとスズキ君に会ったら絶対変な顔をしてしまいそうだ。
スズキ君の前で、アコちゃんの前で、それとスズキ君とアコちゃんが一緒にいる前で。
どうしたらいいんだろう…
もやもや考えていると電話が鳴ってビクッとする。
キダカズミだ。なんだよもう、と思う。心がぐずぐずなんだぞ今。ニシモトにも余計な事言いやがって。
「なんかドキドキしたわ」と言うキダカズミ。
「…なにが?」
「電話出るかな出ないかなって」
キダカズミがそんな事でドキドキする?
「なあ」と言ってキダはその後を言わない。
「何?」と聞いてみる。
「…なんでもない」
何もう!人がグダグダな時に電話かけて来て。
「もう、何?」イラっとした感じで聞いてしまう。
「なに怒ってる?」とキダ。
「…何も怒ってないよ」つっけんどんに返してしまう。
「じゃあ何で機嫌が悪い?電話に出たくなかったん?」
「…違うけど」
「けど?」
「なんでもないよ。カズミ君の用事は何?」
「用事はない」
「…」
「電話したかっただけ」
「…」
そんな事言われたら普通は嬉しいんだろうな。でも帰りのニシモトの件があるからな…。そしてさらにデカいアコちゃんの件もあるからな。
喜べはしないよね。
「カズミ君、ニシモトにちゃんと言っといてよほんとに。他の人にカズミ君が言ってた変な事喋んないようにって」
「変な事?変な事じゃねえよ」
「変な事なの!いいから言っといてね」
「で?」とキダカズミが聞く。「なにがあったん?」
エラい感が良いな!余計な事には。実際アコちゃんの件を誰かに聞いて欲しいけどキダに言うわけにはいかない。
「ほんとに何もないよ」それから電話を切るために軽いウソをつく。「…あっ!私お風呂入ろうとしてるとこだったから」
「そうなん!?」と一瞬驚いたようなちょっとくぐもったような声を出すキダ。
「うんそう。だから電話切るね。明日は私用事があるので先に行きます」
「は?…ていうか、もう服脱いでた?」
「脱いでないよ」何聞いてんの?
「いや今速攻想像しそうになった。風呂入ってるとこ」そしてちょっと笑って続けた。「ほんとはもう想像したけどな!」
「…」
セクハラ多くない!?コイツ、むかし私にした事本当に全部忘れてんじゃないの?
イライラしてるので言ってしまった。「カズミ君、自分勝手にむかしからいろいろやってて他の人困らした事とか、あんま覚えてないんでしょ?私のペンケースに虫入れたのとか、私の体育帽でバッタ捕まえた事とか、ウサギを教室に放してた走らせたのとか。あれ、私もうんち一緒に片付させられて…」
キダカズミに当たり散らす。
「そんなん全部覚えてる」キダは以外にもはっきりとそう言った。「やった後の木本の顔とかまで覚えてる」
私の顔?
キダが続ける。「今日の委員会の時も本当はずっと、教室走り回るウサギの事思い出してた。そいで木本の顔思い出してた。むかしの。困った顔しながら、でも笑ってる顔」
「…」
「さすがに教室に散らばったウンコ片付ける時は軽く泣きそうな顔してたけど、ウサギが走ってるの見てる時には結構嬉しそうな顔してたろ」
「…覚えてないよ、そんなの」
「そうか?オレは覚えてる」
今、確実に胸がキュッとしたけどダメだ。「カズミ君、さっきも言ったけどお風呂入るから」
「もう脱いだん?」
「脱いでないよ電話してんじゃん今」
「いや、風邪引いたらアレだと思って」
「…」
「明日で1週間終わりだな」
「うん」
「じゃあな。おやすみ」
「…おやすみ」
キダカズミが『おやすみ』とかきちんと言ってんだけど!それで私も『おやすみ』とか答えちゃったんだけど!
…よし決めた。
私も今までと同じようにしよう。アコちゃんの気持ち、ちゃんと知ってるけど今までと変わらない感じで行く。ていうか行きたい。アコちゃんとはずっと仲良くして欲しい私は。スズキ君とだって出来るだけ良い感じで仲良くしていきたい。そしてそれをアコちゃんにも嫌な感じに思われないようにやっていきたい…
難しいな…
難しいし…なんかやっぱ、いろいろ心がぐだぐだ。