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オレも


 みんながざわつく中、高森先生は別な話をはじめた。

 後で前の席の子に、先生が何を言っていたのか聞きにいっている子がいたが、先生はなにかはっきりしない言葉をぐちゃぐちゃっと言っていただけらしい。 

 その子は言った。「なんかわけわかんない呪文みたいな感じのやつ」

 こわっ。


 それでそのショートホームルームの終わりに高森先生が言ったのだ。

「飼育委員になった二人。キモトとスズキ。今日の放課後さっそく担当の水本から…あ、いや、水本先生から水槽についての説明があるみたいだから、第2棟の生物室へ行くように。5時限終わったらすぐね」

 先生はスズキ君と私を交互に見て、自分の話を聞いているかどうかを確認しながら続けた。「なんか悪いとは思ってる。私があみだに負けたせいで。でもマジ有り得んわ、あんなキモいカエル、学校で飼う必要全くない。意味がわからん…ま、いいけど。わかった?え~とキモトとスズキ、いい?」


 いい?とか聞いてるけど、よくない、なんてもちろん言えるわけない。

 水槽についての説明か…ていうか今はっきり『あんなキモいカエル』って言ったよね。どんなカエルか今すぐちゃんと聞いて心の準備をしたいけど、どうかな…高森先生機嫌悪そうだし。

 スズキ君がチラっと私を見て来た。どんなんだろうな?みたいな困った顔をちょっと見せてくれる。そうだよね!スズキ君も思うよね!って顔をで私もスズキ君を見ると、スズキ君はちょっと笑った。

 わ~~~…なんかまだ見たことのないキモいカエルのおかげでスズキ君と心通じた感。

 そうちょっと喜んでいたら、「いい?って聞いてんだけど?」と、今度はドスの聞いた声で高森先生が私たちを睨むように言った。

「二人、ちゃんと返事しな」

「「はい」」と仕方なく返事をする私とスズキ君。

 嫌だな…『私が悪いとは思ってる』、とか言っといてこの威圧感。

 さっそく水槽の掃除とかやらされたりすんのかな…気持ち悪そう…しかもカエルって何のために飼ってるんだろう…解剖の授業のためとかだったらヤだな…

 でもスズキ君と一緒。嫌だけど嬉しい!嬉しいほうが断然勝ってる。委員会終わったら、そのまま二人で下校!なんて事にならないかな…




 昼休みも昨日と同じようにみなそれぞれお昼を食べているとアコちゃんが来てくれた。今日はナカイさんも一緒だ。嬉しい。スズキ君も一緒になって廊下で話をしていると、イケダたちもやって来て混ざったがキダはやって来なかった。今朝の感じから余計、昼休みになったらすぐ来るだろうなと思っていたけど来なかった。来ないと気になるけど、気にしない。だって彼女がいたんだもん。


 心待ちにしていた放課後になりソワソワする。廊下をスズキ君と並んで歩けると思うだけでも嬉しいような気がする。

 が、私の席にやって来たスズキ君が言った。

「木本、キダに委員会の事言ってきたら?」

「えっ!!」

本気で驚いた私にスズキ君が一瞬ビックリしていたが、すぐに笑った。

「や、だって今日も一緒に帰るつもりだったんじゃないの?」

「そんな事ない!」

まずい。強く否定し過ぎた。「そんな事ないよ。ほんとに昨日も方向一緒だったから一緒に帰っただけで。今朝だって一緒には来なかったし」

もう!なんでそんな心配スズキ君がするかな。

「そうなん?」と聞くスズキ君に、うん、とうなずきながら、だってキダには彼女がいたんだよ、ってバラしそうになってしまうが、それはダメだよね。そういうのをすぐ言う女の子だと思われたらいけない。



 「木本!」

そこへ私を呼ぶキダカズミの声だ。

 パッと教室のドアのところを見て、『なんで来た』という顔をしてしまう私だ。これからスズキ君と二人きりになれるまたとないチャンスに。

 そしてその私の顔を見たキダがムッとして小さく口を動かした。

 え?舌打ち?

「なんだ、やっぱキダ来たじゃん」とスズキ君。「だから言っといてあげたら良かったのに」

 だからなんでスズキ君がキダなんかに気を使う。

 手招きするキダに、残っていた女子のみなさんがザワっとする。近くにいたハヤシさんがぼそっと言った。

「クソ羨ましいな。私も手招きされたい」


 「ほら、言って来ないと」と言うスズキ君。「先に行っとくわ。カバン持っていっといてあげようか?」

「ううん!」慌てて言った。「一緒に行きたい!」

あ、と思う。思い切り言ってしまった。

「木本!」とまたキダが手招きする。

「ほら」とスズキ君。

でもキダが続けた。「スズキも!」

「へ?オレ?」と自分を指差したスズキ君が、先にキダの所へ言ってしまう。

 もう~~~。


 「お~キダ、」とにこやかに話しかけるスズキ君。「今日委員会あるってこれから、今朝言われて」

「知ってる」とキダ。「オレも」

オレも?

「オレもその委員会一緒」とキダ。

なに!?

「そうなん?」とスズキ君。「昨日委員ならなかったっぽい話してねかった?」

「今日代わった。オレのクラスで生き物係になったやつが担任に昼休みに説明受けて泣きを入れ始めたからオレが変わってやる事になって。それで名簿の変更を言いに行ってたりして昼休み来れんかった」

どういう事それ!と思う私に、「お、そうなん」と速攻受け入れたスズキ君が、「だから昼休み来れんかったって」と私に言う。

いや、ニコニコ顔でスズキ君が私にそんな事言わんでもいいのに。キダが昼休みに来れなかったのなんか全然気にしてないのに!


 「なんか先生言ってたね」とスズキ君。「飼育委員、1年はうちのクラスが二人と、あと別なクラスから一人って。あれ、3組の事だったんだ?良かったね木本」

なんで?なんで『良かったね』とか言う?

 せっかく。

 せっかくスズキ君と二人きりの世界に入り込めるチャンスだったのに。 

 …もしかして…もしかしてだけどそれは、私と一緒の委員会に入って私がスズキ君と仲良くなるのを邪魔するため?

 彼女いたのに?

 腹立つ!



 しかもスズキ君が、「オレ、トイレ行ってからいくから二人で先行って」と明るく言って私とキダを二人きりにした。

「ムッとしてるけど関係ねえからな」とキダがぼそっと言う。

関係ない?なんだ。委員会に入ったのは私がいるからとか関係なかったのか…

「木本がいくらムッとしててもそれは関係ねえ。スズキと二人で委員とかしてすぐ仲良くなるとか絶対ぇイヤだ」

そっちの『関係ねえ』か!

「…カズミ君…そんな事言っても…」

「ん?」

『中学の時、彼女いたんでしょ?その彼女とはどうなったの?』とか私が聞くか?

 すごい気になってるみたいに勘違いされるのは嫌だし、こっそり教えてくれたイケダとキダがケンカしたりして、それが私のせいとかすごくめんどくさくない?

 せっかく委員会の後、スズキ君と一緒に帰れたかもしれなかったのに!




  生物室は第2棟の2階の端にあった。隣は物理室と、その隣が化学室、その隣に理科系の先生の控室だ。

 生物室に入ると30人くらいの生徒がもう来ていた。

 1クラス分くらいの生徒いるじゃん!

 女子は10人くらい。すでにこんなに2、3年がいるのに私たち1年の3人て必要ある?



 教壇の端の椅子に白衣を来た水本先生がいた。水本先生はキダのクラスの担任でもある。髪の長い先生だ。変わり者っぽい感じだけどビジュアルは女子にちょっと人気ありそうな感じ。入学式の後の学年の担当の紹介の時にも、「結構カッコいいじゃん。でも髪長っ!」と他の女子たちもざわめいていた。銀縁の楕円形のフレームの眼鏡に今日は白衣も着ているし。そう言えばうちの高森先生、この水本先生の事一瞬呼び捨てにしてたよね…

 





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