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そして副会長が


 昨日、『よし。また明日な』ってラインあったのに。実際帰る前にも『明日も迎えに行く』って言ったのに。


  …と思ってソワソワしてる私がいる。

 ソワソワしてしまうのは夕べ見た夢のせいだ。すごく寂しい気持ちになったから。

「あれ?」と母。

 母はさっきからチラチラ私を見ていて、私もそれに気付いていたから何ともない感じを出してはいたのに母は当然聞いてきた。

「今日遅くない?キダ君」

「…うん。…来ないかも。もう行こうかな」

「連絡ないの?」

「ないよ」わざとらしいくらい程素っ気なく答える私。

「昨日もそんな事言ってたけど来てくれたじゃん。…寝坊してんのかね?可愛いねえ」

いや可愛くはないと思う絶対。

「じゃあさ」と母。「チイちゃんが早めに出てキダ君迎えに行ってあげたら?」

「私が!?」

 なんで私が。…別に一緒に行きたいわけでもないのに。

「そんな『なんで私が』みたいな言い方しないの。じゃあ電話でもして起こしてあげれば?」

「それはキダのお母さんがやってくれるんじゃないの?」

「あ~~そっか」

 とりあえずもう出よう。と、思ったところにテーブルの上に置いたスマホが鳴った。

 キダからのラインだ。「やべえ寝坊した今日だけ先行って」

 画面を母に見せる。

「可愛いっ!」と母。

いや可愛くはないと思うけど絶対。



 むかしはよく遅刻してたし。と一人学校まで歩きながら考える。

 キダカズミの話だ。1時間目まるまる来ない時もたまにあった。学校に来る途中で何か興味あるものを見つけてしまったらそれに夢中になって、「学校行くの忘れてました」って先生に言ってた事も何回もあった。

 なのに今は私を迎えに来てるし。…今日は来なかったけど。

 でもこれで、私を迎えに来るの止めにしてくれたらいいと思う。

 キダカズミの事が嫌いなわけではないけど、みんなに付き合ってるって思われたら本当に困るし。確かに今のキダカズミは見た目もカッコ良くなったし、むかしに比べたら、っていうかむかしとは別人みたいにちゃんとしてるけど、むかしのまんまのところだってあるから、私を迎えに来るのだって本当にそのうち飽きると思うんだよね。飽きた時に急に止められたら、ちょっと嫌な気持ちがすると思う。寂しいような…

 寂しいような?

 違う違う。ムカつくわけだよね。だって勝手に迎えに来て、スズキ君の事も変な感じで受け止めて、そのくせ興味失ったらパッタリ来なくなるとか。



 そして学校が近くなったところで自転車に乗ったイケダに遭遇。でも今日はキダと一緒じゃないからね、と思う。

 それなのにわざわざ自転車を止めて、「あれ?カズミは?」と聞くイケダ。

「…一緒じゃないよ」

「それは見ればわかるわ」

「…」

「どうしたんカズミ」

「…寝坊したっぽい。…けど!別に一緒に行くって決めてるわけじゃないからね」

「寝坊か!小学ん時しょっちゅうだったよな。カズミ」

今もなんだよ。この二日だけ頑張ってたんじゃないの?…まあ私も偉そうに言えないけど。

「でもカズミはちゃんとしてきてんよな。あいつ、中学で生徒会長やってたらしいし」

「生徒会長っ!!」

「…!そこまでビックリすんなや。オレが今ビビったわ」

「いや、だってカズミ君が…」

「そいで副会長が彼女」

「彼女っ!!」

「大きな声出すなって」

彼女いたんだ…

 なんか…なんか!ものすごく騙された感!


 イケダが言う。「なら今日は木本が迎えに行ってやったら良かったじゃん」

「へ?」

「カズミが遅い時には木本が迎えに行ってやったらいいんじゃね?」

からかう感じでもなく普通にそう薦めてくるイケダ。

 いや、お母さんにも言われたけど、何で私が行かなきゃいけないんだよ。知らないよ。彼女いたんじゃん。私の事好きとか言い出しといて。

「なんで私が」ともちろん答える。

「なんでって…」とイケダが言いかけたところへ走って来る音が聞こえて、「木本!」と私を呼ぶ息を切らしたキダカズミだ。

「木本、なんでイケダと行ってんの?」

私が、え?、と思う間に、「行ってねえわ!」と答えるイケダ。

「なんでイケダと行ってんの?」ともう一度私に聞くキダだ。

「今会ったとこで…」と答える私の返事をかき消すようにイケダが言った。

「カズミがいんからどうしたんと思って木本に聞いてただけ。寝坊したん?」

「あ~…まあ」

「木本に迎えに来てもらえばいいじゃん」とキダに言うイケダ。

「あ~…いやまあ…うん」

ふん?なんでそんな煮え切らないような返事をイケダにする?彼女いたからか?

「じゃあ、オレは先行くわ」とイケダは自転車に乗って漕ぎ出しそのまま校門へ。

 

 先行かなくてもいいのに!

 なんでキダと二人置いていくかな…。

「おはよう」ととりあえず言う私。

「わり」とキダが言う。本当にすまなさそうに言う。「行くっつってたのに」

「いや、別にいいよ。明日からも…」

来なくていいから、と言おうとしたらキダが遮って言った。「イケダと何話してた?」

「さっきイケダが言ってたじゃん。カズミ君が寝坊したって話」

それであんたに彼女がいたって話。

「木本」

「…なに?」

「オレが寝坊したのがわりいけど、木本が他のやつと学校行ってんのがすげえイヤ」

「…なに言ってんの?別にイケダと一緒に行ってたわけじゃないでしょ。そこで会ってカズミ君の話して…」

「イケダとかなら木本が仲良くすんのも仕方ねえかなって言ったけどな、昨日。やっぱイヤだな」

「…」

「逆にイヤっつうか、やっぱイヤだな。小学一緒にいただけにもしかしたらスズキよりもイヤかもしれん」

「…カズミ君…頭おかしいんじゃないの?」彼女いたくせに。

「は?正直な気持ちを言ってんだろ」

「あ、そう。どっちにしろ私は先に行く」彼女いたんだから。

「は?」

「じゃあね」私は知らない。

走り出す私だ。すぐ靴を履き替え教室へ。階段も駆け上がる。

 全く!と思う。あんな事ばっかり言って。彼女いたくせに。



 「はよ」

 教室に荒々しく入った私におはようを言ってくれたのはスズキ君だ。

「あ、おはよう」と慌てて取り繕って笑顔を返す。

実は彼女がいたらしいキダのところから走り出して、靴を履き替え階段を昇り廊下でも小走りを続けながら、どんどん腹ただしさが増して来た私は息が荒い。

 だって中学で彼女いたくせに、こっちに帰ってすぐに私を好きとか言い出して。しかも小学から好きだったとか言い出して!どうしたの?その中学の彼女は今どうなってんの?別れて来たの?遠距離だから?中坊のくせに生意気な!

 それでこっちに来たらすぐに私を迎えに来るってどういう神経してんだよ。彼女に悪いと思わんのか。

「どうしたの?寝坊した?オレ、今日は早く起きれた!」

自慢げに言うスズキ君が可愛いらしい。

 よし、ひとまずキダカズミの事は頭から追い払おう。これからなんか言って来ても相手にしなければいいし。


 やっぱね、彼女いたよね。カッコ良くなってたもんね。キダカズミのくせに。

 …あ、またすぐ考えようとする。と思って頭をぶんぶん振ったところに、今日も美しい高森美々先生がやって来た。

 あれ?先生、なんか機嫌悪い?

 そう思ったらさっそくそのわけを半ギレ気味で話し始める高森先生。

「はい、みんな良く聞いて。この学校、校内でスマホの使用禁止なの知ってるよね。ん?知ってるよね?返事は?…知ってるよね、って聞いてんじゃん、返事は!?…はい。返事遅いわ、返事しなさいよ聞かれたときにすぐ…っとに。なのによ?他のクラスでさっそく、あり得ない事に、入学2日目の昨日、教室で使ってて、それをさらに有り得ん事に校長に目撃された人がいてねぇ…ほんとマジ勘弁して欲しいから。私ら教師全員生徒が帰った後に招集されてさ、3時間よ3時間、校長の話聞かされて、その子とその親も呼ばれて私たちと一緒に話聞いて、それでその校則破った子の担任と副担はそれからまたさらに校長室に呼ばれてたから。だるいし今日眠いし。はい、あんたたちの中でも、昼休みとか放課後だったら使っても良いかなとか、教師に見られなきゃとか、そのうちみんな使い始めんじゃないのとか思ってるかもしれないけど、マジで親呼ばれて停学になるからね。その子も今停学中です。うちの校長探査機かってくらい見つけるからね。スマホだけじゃなくて他の校則も。破るやついたら私知らないよ?ていうかね、その前にそんな事で私が校長から説教食らう事になったらその校則破ったやつには私が…」

そのこまで言って先生は、鋭い眼光で教室中を眺め回す。

 なったら、何?

 が、まだ先生は恐ろしく冷たい鋭い眼光で何も言わずに教室中を眺め回す。

 何なになになに…説教食らう事になったら私たちに何する気?なんかすごく怖いんですけど。

 そして高森先生は少しうつむいて何かモゴモゴ言ってまた私たちを見回した。何?何て言ってたの?

 


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