飽きるに決まってる
「まあみんな良いやつだな」
キダカズミが嬉しそうにそう言うので私も嬉しくなる。
「まあスズキもいいやつだけどな」と続けるキダ。
良かった。スズキ君が良い子だってちゃんとわかって。
「うん!」
うなずいた私をじっと見るキダカズミ。
「でもやっぱダメだけどな」
「なにが!?」
「急に大きな声出すな」
「だってわけもなくダメとか、なんでカズミ君がスズキ君の事悪く…」
「わけもなくじゃねえじゃん。スズキが喋る時だけ反応が違った」
「え?」
「スズキが喋る時だけ木本の反応が違った。オレは見てた」
「…」
キダカズミにもバレるくらい気にしてたかな…恥ずかしい。…そんなにあからさまに気にしてたかな…
「なのにスズキと委員会一緒とかビックリするわ。オレの方が小学から一緒なのに。ムカつくわ」
「…」
またそんな事言う。
そして、「なぁ、気持ち悪いって言うなよ?」と、キダが急に真面目に顔で言うのでドキッとする。
なになになになに…私の事を好きって言うつもりなのかな…
「オレはな…」少し恥ずかしそうにするキダ。「オレは木本がいるとなんか落ち着く」
「え?」
「小学の頃もだった今思えば」
「なに?」
「ちょっとわ~~~って悪い事しても、木本がじっと見てきたり、もうなにやってんだ、って顔で見た時とか、あ~~そっかダメだな~~ってふわ~~っと思ってな、しちゃダメなんだなって、落ち着けたんだと思う」
「いや!なに言ってんの、カズミ君。全然落ち着けてなんてなかったじゃん!」
ハハハ、と笑うキダ。
「それに私に絡んで私がなんともないみたいな顔してんのが好きだったって言ってたじゃん!」
強めに言ってしまって自分が恥ずかしい。そんな事自分で言うとか!
一瞬驚いた顔をしたキダが嬉しそうな顔で言った。「それもな!」
それもな、って何だよ!?
「そういういろんな反応全部が良かったっていうか…今になって思えばな。今もだけど」
「…いやほんと」力なく言ってしまう。「何言ってんだかわかんないけど」
「そうか?体育館の時もだけどな、ちょっとソワソワしてきて木本呼びたくなって呼んだじゃん。でも木本が『し~~』って言ってきたから」
「言って来たから?」
「その後ちゃんとしてたろ?」
ちっちゃい子供か?
「だからな、オレはむかしから木本といる時は結構落ち着けてた」
「ほんと何言ってんのビックリする!もっかい言うけど全然そんな事なかったって!カズミ君、自分のむかししてた事全部忘れちゃったの!?」
「忘れてねえわ。そんなに否定すんなよ、おもしれえけど。それに『好きだって言ってたじゃん!』て言ったの可愛かったな」
わ~~。自分でも恥ずかしい事言ったってわかってるところにそんな事言われたら、もう恥ずかし過ぎる。
でも本当にどうしちゃったんだろう。気持ち悪い事ってキダは言ったけど、気持ち悪いを越してキダの事が心配になってしまう。大丈夫かキダカズミ。
…いや!それかもしかしたら!!
これもその絡みの一環なんじゃないの!?こういう告白みたいなのを重ねて重ねて、私の反応を面白がってるんじゃ…
だって変な事ばっか言ってるもん。オレがこんな事言ったらキモト恥ずかしがるかな、とか、その気になるかな、みたいな?
小学生の時の子ザルのイタズラより格段に性質が悪いじゃんそれ…。
キダはモノを使って無暗に人を驚かせたり、面白さだけを重視したイタズラならいくらでもしていたけど、人の心に傷跡が残るような悪さはむかしからしてなかったはずなのに。
そんな考えをぐるぐる巡らせていると「なぁ」と、ちょっと笑いながらキダが言った。
「付き合おうっつって付き合い始めるカップルってダセぇよな」
へ?
何?なになになになに…?また何言い出してんだキダカズミ。
「こんな感じで普通に一緒に帰ったり、朝も一緒に来たり、弁当一緒に食べたり、映画に行ったり買い物行ったり家に行って勉強したりDVD見たり、ってしてたら、それ付き合ってるって事じゃねえ?」
「…」
待って待って、これどういう事…
わからない。どこまで本気かわからない。その本気もただの思い込みっぽいし。
思い込みだからすぐ飽きるんじゃないだろうか。むかしいろんな遊びを思い付いて、思い付くまま騒いで、でもすぐにまた新しい遊びを考え付いてそれをやる。その繰り返しだったもん。
「あ~~やっぱなんで同じクラスじゃねぇんだろ」とキダが言う。
「…」
「あんな中学からしか一緒じゃないやつ」とまたスズキ君の事を吐き捨てるように言う。
そこは関係ないじゃん、と思うのにキダはなおも言う。
「木本がイケダとかが好きだって言い出したら、それもすげえ嫌だけど、まあなんとなくちょっとは納得出来るような気もする。むかしから知ってる良いヤツだしおもしれえし。ま、納得はしてもも無しだけどな。…オレ、小学ん時やっぱいろいろやり過ぎたのかな木本にも」
「…自分でもそう思うんだ?」
「まあな。でも絡みたかったからな。仕方ねえ」
わ~…なんだろ…『仕方ねえ』って言い方に、なんか急にほっぺたが熱くなって来たんだけど。私まで変になって来てる。
「子ザルみたいだったよね!」と、それを隠すために言う。「カズミ君、ちょこちょこうっと動きまくって、そいで今もだけど、わけわかんない事ばっかり言ってる」
「わけわかんなくねえじゃん。え、オレ、子ザル!?マジか初めて言われた!」
「ううん」と首を振る私。「みんな言ってたよ?」
「マジか!?」
分かれ道になっても一緒に帰ろうとするので、私の家まで廻らなくていいと断るが、やはり今日は家まで送ると言う。
まだ全然暗くもないし、遠回りまでして欲しくないから本当にいいと断ると、普通は喜ぶとこだろ?とキダは真顔で言った。
「なんか、中学ん時とか、放課後ちょっと喋ったくらいの女子とかも、家まで送ってくれって言ってくる事結構あったけど?」
「…あそう」良かったじゃんモテて。
「あそう、て何だよ。木本は嫌なの?」
「嫌って言うか遠回りまではして欲しくないんだって。別につ…」
付き合ってるわけでもないんだからと言いかけて止める。何言い出そうとしてんだ私。
「なに?」とキダが言う。「別に何?」
「何でもない」
「別に何?」
「何でもなかった!でも毎日遠回りまでしてうちに送ってくれるつもりなら私、もう一緒には帰らないよ」
「マジで!?」
「マジで」
「お前やっぱ面白いな」
面白くはないですよ。
「むかしオレがお前のペンケースに虫とか入れた事あったろ?」
聞かれてうなずく私。
「お前あの時『気持ち悪いし、虫もこんなとこで死にたくないと思うから絶対入れないで』って言った」
「…」
そう言ったかどうかは覚えてないけど、そりゃ言うよ。入れないで欲しかったもん。
「そりゃそうだよな。虫にシャーペンの先がささるもんな」
「…」
それは考え付かなかったな。気持ち悪…
「オレは面白さだけを先行させてたけどな、それからはそういう遊びで虫とかカエルとかを死なせる事はなくなった」
「でもその後も入れてたじゃん!」
「でもすぐ取ってやってたじゃん」
取ってやったってなんだよ。勝手に入れといて。