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なんで迎えに

 確かに…キダカズミだよね…

 身長がもう全然違うけど、そして顔つきも完全に高校生男子だけれど、そこにいてニコっと私に笑ったのは、小学の時同級生だったキダカズミだ。ちょこまか動いて悪ふざけばっかりして子ザルみたいだったキダカズミ。

 「ごめんね~」と私の後ろから玄関についてきた母が大げさな感じで言う。「せっかく早めに来てくれたのに遅くなって」

「あ~~すいません」とキダが少しはにかみながら言った。「突然来てしまったから」 


 …どうしたんだキダカズミ。なぜそんなきちんとした返事をしながら爽やかな顔で朝から笑ってる?そんな爽やかな良い子キャラじゃないじゃん。…ていうか…

 何で朝から私を迎えに来てんだキダカズミ、と思う。



 「やっぱり立つとほんと背が高いねえ」と母が言う。「何センチ?え?179!?すごいじゃん。すんごいカッコ良くなってるし。前はさあ…さっき話してるうちに思い出してきたんだけど、小学校の時なんてチイちゃんよりもちっちゃくて、すんごい止めどなくちょこちょこ動きまくってる感じじゃなかった?違ったっけ?参観日の時とかもじっとしてなくて先生困らせて、キダ君みんなの前でお母さんに本気で怒られてたの、おばちゃん思い出した」

ハハハ、とキダが笑った。「まぁそんな感じでした。恥ずかしいですけど」

 ハハハ、と母も笑いながらからかうようにさらにキダに言う。「結構有名だったよね?お母さんたちの間でも」

 アハハ、とキダがまたにこやか笑って言った。「まぁはい…すみません」


 誰だこれ…やっぱりキダカズミじゃない。


 

 え?本当にこのまま二人で一緒に学校に行くの?何を話しながら?…と思いながらキダカズミと家を出る。いいと言ったのに、わざわざ玄関先まで一緒に出て来た母に笑顔で手を振られて、そしてキダもペコっと頭を下げながら母に笑顔で答えていたが、私の心は『どうして』を繰り返すばかりだ。


 私の通う、そしてキダカズミも通うらしい『やまぶき高校』までは歩いて1キロちょっとだ。私と、そしてキダも通っていた小学校の学区内にあって、私が通っていた中学校よりも近い。

 中学は自転車で通っていたが、やまぶき高校には『学校から1.2キロ以内に住居のあるものは徒歩通学』という、なんでその距離に決めたんだろうと思ってしまう校則があって、起きるのが遅い私は自転車で行きたいところだが、登録証のない自転車は毎日チェックされて、厳しく処分されると昨日の入学式でも注意があった。

 まあそれでも良かったと思う。そもそも家から一番近い『やまぶき高校』を選んだのは、バスや電車を使って3年間も通学したくなかったからで、両親からも電車通学は私には絶対無理だと言われていた。そう何本も通らない電車やバスに乗り遅れないようにするなんて全く自信がなかった。

 私の偏差値では、やまぶき高校は少し危ないかもしれないと、中3の担任からは電車で3駅も向こうの、隣町にある高校を薦められたが、頑張って、中3の後半私は本当に恐ろしく頑張って『やまぶき高校』に入学する事が出来たのだった。


 頑張って本当に良かった。中学で仲の良かったカワイアコちゃんも一緒だし、それになにより、中学の時からいいなって思っていたスズキ君が同じ高校!しかもなんと同じクラス!同中からの同クラは二人きりという夢のような高校生活のはじまりだ。

 


 …ったのに、久しぶりに会った、そしてむかしとは倍くらいの大きさに変わったキダカズミの隣を歩く、高校生活二日目にしての気まずさと違和感を抱えた登校。

 いやしつこいけどなんで私を迎えに来たんだろう。

 母には久しぶりの土地で知らない人も多いから登校しにくい、みたいなことを言ったらしいけど、私の知っているキダカズミは絶対にそういうキャラではないのだ。


 とりあえず、「またこっちに戻ってきたんだね」と言ってみる。

「戻ってきた」と嬉しそうなキダカズミ。

「元の家に住んでるの?」

「オレんち知ってたっけ?」

「だいたいどの辺かは」

 一緒に通っていた小学校から私の家は南側だけど、キダの家は北側にあった。うちに寄ってくれたら高校への通学は少し遠回りになるのに。そこを押して、わざわざ私を迎えに来たって事は本当に不安に思ってるのかな久しぶりにこっちに帰ってきたこと。


 キダが言った。「じゃあ今日帰る時、家教えとくわ」

「…え?」

「今日帰る時、家教える」


 『今日帰る時家教える』…キダの言葉を心の中で繰り返す。

 …帰りも一緒にって帰るって事!?



 同じクラスではなかったはずだ。昨日もらったクラスの名簿にはいなかった。空いてた机もなかったし。

「カズミ君は何組?」と聞いてみると、キダがニヘラっと笑って言った。

「その呼ばれ方久しぶりだな!」

小学生の時に呼んでいたからすごく久しぶりなのに、ついむかし他の子たちも呼んでいたみたいに、当たり前に『カズミ君』と呼んでしまった。

「あ、ごめん」と一応謝る。

久しぶりだったのに馴れ馴れしかったよね。こんなに大きくなってんのに。声も違うって思ったけど、そりゃ高校生になってるし、声だって変わってて当たり前だ。

「なんで謝る」と笑うキダ。「すげえ嬉しいけど」

「…」

そうなの!?

「中学ではカズミ君て呼ばれてなかったの?」

「いや呼ばれてたけど」

なんだそりゃ。

 

 確か隣の県のそれも結構県北に方に引っ越していたのだ。きっと人数も少ない学校だったのかも。だから今朝、一人で登校しづらいって思ったのは本当かもしれない。

「カズミ君、何組?」ともう一度聞く。

「3組」

「そっか。私は…」

「4組なのは知ってる」

「…なんで知ってんの?」

「聞いたからオレの担任に。手続きに行った時に。仲良かった子がいて良かったなって言われた」

嬉しそうに言うキダだ。本当に笑い顔はむかしのまんまだな。

 でも別に私、キダと仲が良ったわけじゃなかったよね。仲良かったら今朝だって迎えに来てくれても驚かなかったはずだし、そもそも私にはずっと何の連絡もなかったのに。



 やっぱり、とキダの小学生時代を思い出しながら考え直す。

 いくら久しぶりだからって、キダがまたここで生活する事を不安に思ってるわけはない。高校生活だけじゃなくて、何かを不安に思うようなヤツじゃないのだ。私とだって仲良かったわけじゃなくて、単に私が絡まれてただけだ。

 それにキダに絡まれてたのは私だけじゃなかった。特に気に弱い子やすぐ怒る子にはしてなかったけれど、キダはクラスのたいていの子には悪ふざけをしてたし、いろんな子を巻き込んでずっと騒いでばかりいた。

 


 …もしかして!

 急に訪ねたら私がびっくりするかな、と思って面白がって迎えに来たのかな?

 それは有り得る。

 そうかそうだよね。それしかないかも!実際ビックリしたし。デカくなってたし、カッコよくなってるし。

 

 「すごい背が伸びたね」と、言ってみる。

「あ~~中3ですげえ伸びた。自分でもびびった」

「私より小さかったのにね」

「小さかったな」

 …なんかしゃべり方もむかしよりだいぶん落ち着いてる感。あんなにほんの一時も落ち着くことの出来なかったキダカズミが。




 

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