昼休み
今日まではまだ授業がない。今日一日は授業の受け方や選択科目の説明。2年から別れる文系理系の選択の説明。校内の各教室をクラスごとにぞろぞろ見て回ったりもするらしい。そして昼食、休憩と来て、午後から掃除当番や委員会の説明、各実行委員の取り決めまで。
その後ミライ公園かぁ。楽しみだな。
やまぶき高校は3時限目と4時限目の間に昼休みがある。ありがたい時間割だ。4時限目の後に昼休みがある高校も多いのだろうけど、そして中学もそうだったけれど、4時間目にはお腹が空き過ぎてしんどかった。朝なんて時間がないからそんなに食べられないし。途中でおにぎりをパクつく男子もいたけど、休み時間は短いし、お腹が鳴らないようにと必死だった。
とは言っても心配だ。クラスに同中の女子がいないから。みんなが誰かと食べる中、独りぼっちだったら嫌だなと思う。いや、別に一人で食べるのは自分では平気だし寂しいとも思わないけど、周りのグループで食べている子たちから、『あの子ぼっちだ』って思われるのが嫌なのだ。そしてそんな私をスズキ君が見てなんて思うだろうって思うとお腹が痛くなる。
スズキ君、誘ってくれないかな…。『木本、一緒に食わねえ?』って。
何回も妄想したけど無理だよね…多分スズキ君は教室を出て6組にいるスズキ君と仲良かった男子の所に行くんじゃないかな…
が、午前中、説明の中で高森先生が言ったのだ。「今日は教室で、みんなそれぞれ自分の席で昼食をとるように」って。
ちょっとざわっとする教室。
「私ねえ」と先生が言う。「高校のはじまりでご飯食べてくれる人がいなくてさ、なんかみんな私に声かけないし、私と目が合うとちょっと反らしたりしてさ。別にそれは良かったんだけど、それで一人で食べるのも別にいいかなって感じだったけど、そんな私をみんな見るんだよね。誘っては来ないくせに。だから結局弟と食べたんだよね。まあ私はそれでも一人で全然良かったんだけど、弟が絶対私が一人で食べてるだろうし、それをみんなから見られてるだろうって来てくれて。ね?家かっつうんだよね。家でも学校でも弟とって」
よその学校で物理の先生をやっているという双子の弟か。すごく優しいじゃん。「え~~ヤダ優しい~~~」という女子のみなさんの羨ましそうな甘いコメントが上がる。先生とは似てないようなことを言ってたけど、先生の弟だったら相当イケメンな感じもするしちょっと見てみたい。
「だからとりあえず今日は自分の席で。いい?机も動かさないように」
良かった!と思う私だ。ありがとう高森先生!でもむかしの高森先生に誰も声かけてこなかったのはたぶん、美人過ぎるせいだったんじゃないかと思う。普通に可愛い子とかは声かけやすいし、断る時も可愛くてきっと人を傷つける事はないのかもしれないけれど、あんまり神々しい美しさを持っていたら、近寄りがたいし、冷たく断りそうな気がしてしまうから。
それで先生の言うようにみんな自分の席でお弁当を食べていたら前の入り口の所から呼ばれた。
「木本!」
キダカズミ! 朝、良くない感じで別れたのに。
「木本」ともう一度私を呼んで手招きをするキダ。
早めに食べた男子は教室から出ていっていたが、ほとんど残っていた女子のみなさんがザワっとする。
わ~~みんなが見てるところで行きにくい。
でもキダがまた手招きする。そして今度はニッコリと笑って「チ」と言った。
えっ!!まさかの名前呼ばれるやつ?こんなところで!
ガタっと立ち上がりダダダっと慌ててキダの所まで行ったら、「すげえ急いで来るじゃん」とニコニコしているキダ。
「カズミ君もしかして!今名前呼ぼうとしてなかった!?」
「オレは今朝置いていかれた」
「…」
「昨日も放置された」
「…」
「ショックだった結構」
「…」
「なのにここ通ったらスズキらしきヤツと嬉しそうに話してたから、絶対ぇ昼は邪魔しようと思って」
「…もう~~~」
「後どれくらいで食い終わんの?教室入って待っていいよな?」
「ダメだよ!」
「なんで?」
「だってまだクラスの子たちお弁当食べてるし…。カズミ君、もう食べ終わったの?」
「お~。木本と一緒に食おうと思ったのに、教室で食えって担任が言うから」
「うちも教室でって言われたよ」
「じゃあここで食い終わるの待つわ」とキダが言う。
「ううん」と首を振る私。「まだもちょっと時間かかるから」
「じゃあやっぱ教室入ろっかな」
「ううん!」と今度は強く首を振る私。「…まだみんな食べてるから。それに!私、アコちゃんとこ行こうと思ってるから」
「昨日帰りに寄った女子んとこ?」
「うん」
「仕方ねえな、じゃあオレも行く」
「なんで!?」
「逆になんでいけない?」
「…」逆にって…。
「オレ一人だと寂しいじゃん」
ほんとかな…だって笑ってるよね…
「いいから」とキダが言った。「早く食ってこいって」
嫌だな、お弁当せかされるの。
え~~…どうすんだろ、結構またみんな見てるよね。キダが廊下で待ってる間に弁当急いで食べるとか絶対嫌だ。でもキダは廊下で待ってるし。
そして自分の席に戻る途中でスズキ君と目が合ってしまった。いや、普通だったらすごく嬉しいはずなんだけど、私はどういうわけか廊下にいるキダをパッと見てしまった。
キダもこっちを見ている。
スズキ君が言った。「木本、同中じゃない知り合いいんの?」
「あ…うん…小学校一緒だった子」
「へ~~…あっ、なんか昨日も朝礼の時話しかけられてたっぽい?」
「…うん。なんか…うん」
はっきりしない返事をしてしまった。あ~~…もう~~~…キダめんどくさい…っていうか私がめんどくさい。なんではっきり言えないんだろ。待たないでって。一人でアコちゃんとこ行くって。
そうぐじぐじ思いながらまたお弁当を食べ始めたら、行こうと思っていたアコちゃんが来てくれた。
「モトちゃ~~ん。弁当早食いして来たよ~~ここで待ってる~~~ゆっくりでいいからね~」
アコちゃん!やった良かった嬉しい。私も早食いしよ。そしてキダを置いてアコちゃんとどっか行こう。
でもちらっと見るとアコちゃんがすぐキダに気付いて話しかけている。アコちゃんコミュ力高いからな。…と、「カワイ!」とアコちゃんを呼ぶスズキ君の声。
スズキ君がアコちゃん呼んだ!アコちゃんも「スズキ」と普通に答えて手を振っている。やっぱり男子バレーと女子バレーで良く話とかもしてたのかも。
そしてお弁当をさくっと片付けたスズキ君が速攻アコちゃんの所へ。キダも含めて3人で話し始めた。
3人で話してる!と思う私だ。昨日キダがスズキ君の事を結構気にしてたから、なんか嫌な予感がする。スズキ君に変な事言ったり、したりしなきゃいいけど。
教室の女子たちもやたら廊下を気にしてるような気がする。
急いで食べ終えて3人の所へ行くと、スズキ君が言った。
「帰りキダも来るって話になった」
「え?」
「キダも一緒にミライ公園。小学一緒のヤツもいるから。ほら、イケダとかさ」
キダも誘ったの?
「スズキ?」とキダが言うので私がちょっとドキッとしてしまう。
何言い出すんだろう…と思っていたらキダはスズキ君に言った。
「今木本がさあ、オレまで来るのか、って顔したんだけど、本当にオレも行っていいんかな」
はあ!?と思う。
ハハハハ、とスズキ君が笑ってキダに言う。「なんで?木本って小学から仲良いって今自分で言ったじゃん」
そんな事スズキ君に言ったの!?
屈託ない顔で笑うスズキ君。そのスズキ君をにこやかな顔で見るアコちゃん。
スズキ君が言った。「そう言えばトイレでイケダに会った時にもキダと木本の事言ってたな」
「えっ!なんて?」私がすごい勢いで聞いたのでスズキ君がビクっとした。
ヤダなイケダ。余計な事言ってたらぶっ飛ばす。
「小学から仲良かったって」と答えるスズキ君。
イケダめ。もう~~~。
「だってキダも引っ越してなかったら万田中だったわけだよな」とスズキ君。
「まあな」とキダ。
なんかキダとスズキ君が喋ってるのが不思議な気がする。キダの事を知らなかったのにこんなにフレンドリーに対応できるスズキ君てやっぱりカッコいい。
アコちゃんがキダに聞く。「でもキダ君ってすごい中学の時もモテたんじゃない?」
「…そんな事ねえけど」とビミョーに謙遜するキダ。
「え~~そうかなあ?昨日見た時から思ったけどすごいイケメンさんだよね」
アコちゃんが言うと、スズキ君も同調する。「うん。男のオレでも見た時『お~~~』って思った。話すと普通に良い感じな!なあ木本?」
スズキ君が優しい笑顔で私に振る。
スズキ君は小学の時の悪悪子ザルのキダを知らないからな。
スズキ君が言う。「や、オレさっきキダが木本呼んだ時、木本、他中に彼氏いたんかと思った」
「あ~…」曖昧に笑いながら緩く首を振る私だ。
「ねえねえモトちゃん、キダ君て小学ん時からもしかしてこんなイケメン?」と私に聞くアコちゃん。
「…あ~~~…うん。うん…どうだったかな」と、歯切れの悪い私だ。
だって小学の時はこんな感じじゃなかったし、可愛い顔はしてたけど子ザルみたいだった、なんて言ったら悪口言ってるみたいでスズキ君に良く思われないと思う。
それでも「ほんとほんと」とアコちゃんが口を挟んでくれた。
「もううちのクラスの女子も結構騒いでた昨日も。なんかみんなトイレ行くときとかキダ君の教室の前ゆっくり歩いてキダ君見てったらしいよ」
「観察て」とキダではなくスズキ君が苦笑する。「すげえな女子。女子ってイケメンが好きよな!」
いや、屈託なくそんな事可愛く言われても。
「え~~」とアコちゃん。「私は結構スズキもカッコいいと思うけど」
え?
「ねえモトちゃん」とアコちゃんが私に振る。
そりゃもちろんそうだと思ってるよ。
「うちの中学の女子ではスズキ人気高かったって」とアコちゃんが笑いながら言う。「ねえモトちゃん?」
「…うん」
「まあうちの中学にキダ君いたらもちろんキダ君人気が一番だったろうけどさ」
アコちゃんが笑いながら言うと、スズキ君が「おいおいおいおい」とさらっと突っ込んで二人で笑っている。