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彼女出来たのかよ

 「今度聴かせてやるから」とキダが言う。「あ、ていうか今日うち教えるって言ってたし、ギターも聞かせてやるから」

「え?」

「な?」

 『な?』じゃないし。まあこういうのもキダらしいけど。でも、『うん、寄る!』ってなるわけないじゃん。

「え?聴きたくねえ?」とキダ。「オレは聴かせてえけど」

こいつはほんと…

 

 好きだとか言い出すからいろいろ考えて損した。

 こいつは見た目すごい変わったけど、本当に中身は小学生のまんまなんだよ。真剣に相手をしてはいけない。バカをして騒いでゲラゲラ笑うキダに、「もう!」とか「止めてよ!そんな事!」とか、「静かにしてよ」とか「ちゃんと席に座ったら?」とか、男子からも「おぉ止めとけってカズミ」とか「お前また…バカじゃねぇの?」とか、みんなからそんな感じの注意を受けてばっかりだったでしょ?



 …ていうか、今も私がビミョーに困った感隠せてないのを見て嬉しいのかな。それは良くないよね。

 …あれ?それでなんか今ので急に、キダが小学の時に歌ってた替え歌思い出した。なんかすごい変な歌。

「何急にニヤついてんだよ?」とキダが聞く。

「いや…ちょっと思い出して。カズミ君がむかし替え唄作って歌ってたやつ。すっごいバカみたいな変な歌ちょっと思い出した」


 そうそう、キダってそんなヤツだった。なのに、高校生になったからって勢いだけで私に好きだとか言い出して…バカなやつ。

 ちっ、と舌打ちするキダ。「バカじゃねぇの!ギター聴くのが嬉しいのかと思ったじゃん」

 アハハ、とつい笑ったらキダが驚いた顔をした。

「また今度ね」と私は答えた。しかもニッコリ笑ってみた。

むかしのまんまのキダに、大人な私は普通に無難に返事をしてやり過ごすのだ。

 どころがだ。

「今の言い方可愛かったな」とキダが言った。

「は!?」

私の本気の『は!?』だ。

 今また何言った?

「なあ木本、今のもう1回言ってみ?」

「…何言ってんの?」

「言ってみ、『また今度ね』っていうの。今のもう1回!なあ!」

何をせがんでんだバカか。

「言わない言わない。何言ってんの?」と素で返す私。大人だから。

ハハハハ、とキダが笑った。



  そしてキダが機嫌良く笑っているところへ、キダを呼ぶ声が。

「「カズミぃぃぃぃぃぃ~~~」」

 呼んだのは朝会ったイケダと別の高校に行ったタカギだ。タカギも小学の時にキダと仲が良かった一人。

「お~~、ほんとにこっち帰って来たんだ」とタカギ。「なんで連絡せんかった?」

「あ~~」とキダ。「久しぶり。急に見た方がおもしれえかと思って」

ほらね。面白いかどうかだけで物事判断するからねこいつらは。

「いや連絡しろや」とタカギ。「さっきイケダと会ってカズミのこと言うから」

「お~~」

タカギとキダのやり取りを半笑いで見守るイケダ。今が良いタイミングだ。私はここでフェイドアウトしよう。

 「そいでスミダのとこ行こうかつってるとこなんだけど」とイケダが言う。

「ちょっとメシ食ってダベる感じの。お前も来るよな」とタカギもキダを誘う。

黙ってそっと帰っちゃおうかな…

「ん?ていうかカズミ?」とタカギが言う。「お前彼女出来たのかよ!こっち帰って来てすぐ彼女連れとかふざけてんな…って木本じゃねえか!おい~~~」

今まで傍観していたイケダがゲラゲラ笑った。「タカギタカギ、それもうオレが今朝やったやつ。朝も二人で歩いてたから」

「へ?朝も」とタカギ。「それ、マジの付き合ってるやつ?え?ずっと連絡とかしてたん?」

ぶんぶんと首を振る私だ。「そんなんじゃなくて、カズミ君がただ迎えに来てくれただけ。こっちに帰って来て久しぶりだから一人で学校行きづらいとか言って」

「「マジか!!」」とイケダとタカギが笑う。

「そんなキャラじゃねえじゃん!」とイケダ。「全くそんなキャラじゃねえ!」

「それだしな」とタカギ。「木本、ただ迎えに来てくれただけ、とか言うな。カズミの気持ちをくんでやれや」

「うるせえよ」とキダが言った。「今せっかく二人で帰ってこれから木本がうち寄るとこだからまたな」

「「は?」」とタカギとイケダ。「「もうそんな仲なん?」」

「違う!!」と超否定する私だ。「ちょっと!カズミ君!私行くって言ってない」

「「いいじゃん寄ってやれや」」とタカギとイケダがにやにやしながら声を合わせた。

 なんだコイツら、と思う。むかしからキダと調子合せやがって。


「カズミ君!人が誤解するような言い方すんの止めて。イケダたちとスミダんとこ行って来なよ。ね?みんなカズミ君に会いたいって。私は帰るから。じゃあね!」

そう言い置いて急激にダッシュをかける私だ。もう家近いし。キダを置いて帰るなら今しかないし。

「木本!」

キダのそう呼ぶ声が聞こえて一瞬振り返ったが、イケダとタカギが高笑いして、「「仕方ねえから今日はオレらを優先しろや~~~」」と羽交い絞めにされてキダは追って来なかったので、そのまま走って家まで帰った。


 



 ボフッ!

 家に帰ってそのままの勢いで2階の自分の部屋に駆け上がり、ベッドの倒れ込んだ。

 なんか、どっと疲れた。今日一日だけ、しかも時間にしたら合計しても1時間もキダカズミとは一緒にいなかったのに、すごく振り回された感。

 本当は何考えてるんだろうキダカズミ。

 …いや。キダが本当は何考えてるかとか考えちゃだめだ。何も考えてないもん。困らせたいだけなんだから。もう明日は絶対一緒には行かない。明日も来るような事言ってたけど断ろう。


 そう考えてるうちにラインが入る。まずアコちゃんからだ。

「やっぱ付き合う事になったりして~~~~」

「二人が帰った後うちのクラスに残ってた女子もすごい騒いでたよカレシの事」

だから彼氏じゃないって言うのに。

「でも彼氏じゃないよほんと!」と返すとすぐに、デへへへへと悪い顔で笑った黒ウサギのスタンプが送られてきた。

 もう~~~、と思う。


 それから小学が一緒だった子から3人ラインが来た。キダカズミがこっちに戻って来てるって本当かっていう確認や、朝一緒に学校に行ったって聞いたけど本当かっていう確認のライン。

 みんな情報速いな!

 そしてそれが夜にはびっくり。はじめてライン来た子や私とそれまでつながってなかったのに他の子つながりで送られて来たラインの数の結構な多さ。

 キダカズミの消息以外になぜみんなこんなに「キダカズミと付き合う事になったの?」っていう質問してくるんだろう怖すぎる。学校一緒に行っただけでそんな話、そんなにみんなにすぐ伝わる?恐ろしいJKの情報網と憶測。絶対イケダとかが余計な事を広めたに違いない。イケダめ~~~。


 そしてそれなのに朝ライン交換したはずのキダからは何の連絡も入って来ない。振りきって帰った事への文句がすぐに来ると思ったのに。

 最後、私を呼んでたのに止まらなかったからムカついてんのかな。機嫌よくギター聴かせてやるって言ってたのに。

 じゃあ明日は来ないかな。

 …やっぱ来るのかな…キダカズミだもんな…来るような気もする。向こうから明日も一緒に行こうって言われたら、明日はちょっとって断れるけど、何も言ってこないのに、明日一緒に行けない、とか私から送るのはどうなんだろ。自意識過剰だよね。

 やっぱ振り切って帰ったからさすがに明日は一緒に行く気なくしてるよね。だって連絡ないもん。

 …怒ったのかな…

 …なんでこんなに気にしてるんだろう私。




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