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むかしのまんま

 人って変わるものだな、と今のキダの姿を見ながらが思うけど、人って変わらないものだな、ってキダが今に言った事で思う。

 思いながら私はキダがお母さんと一緒にうちに謝りに来た時の事を思い出していた。その当時はしょっちゅうキダに絡まれていたから、何をされて親が謝りに来くるまでのおおごとになったのかよく覚えてはいないのだけれど、当時のキダはあちこちで問題を起こしていたから、クラスの子だけではなく、校内外を問わずにキダのお母さんはキダといろいろな所へ謝罪に行っていた。

 キダのお母さんはショートカットのハッキリとした顔立ちのとても綺麗な人で、今のキダはその時のお母さんに顔が似ているような気がする。

 うちにキダとやって来たキダのお母さんは、私と私のお母さんに深々と頭を下げた後、キダの後頭部をパン!と強めにはたいて、「ほら!ちゃんと謝んなさい!」とドスを利いた声で言った。そして私には少し困ったような優しい綺麗な笑顔で言ったのだ。

「本当にごめんなさい。自分が好きな事や面白いと思う事を、ダメな事かどうか考えないですぐやっちゃう子なの。おばちゃん謝る事しか出来なくて本当にごめんなさい。それでカズミはこれからもこういう感じが続くんだと思うんだけど…本当にごめんね」

 弱冠開き直ってる感は子どもの私にも感じ取れたが、それでもキダのお母さんから嫌な感じは受け取れなかったと思う。うちのお母さんも怒ってはいなかったし、それから後もずっと、私はキダの事を本当に困ったヤツだとは思ったけど嫌いだと思う事はなかったから。


 実際キダのお父さんやお母さんは何回も学校に呼び出されていたし、学校中の先生から顔と名前を覚えられて目を付けられていたし、中学になってからちらっと聞いた話だとカウンセラーの先生にみてもらえるようにとまで担任の先生にも薦められたらしい。

 が、それでもキダは結構クラスメイトからは人気があった。

 キダのする事は、みんながしたいと思ってはいてもなかなか出来ない事だった。

 それはまぁ校舎の3階くらいの高さの木に登ったり、校舎の2階の窓にや渡り廊下の壁に外向きに腰かけたり、ずっと用水路に入って下校しようとしたり…教室のいろいろな場所に大小20匹近いカエルを置いて動く『ミッケ!』をしてみたり、私と飼育係を一緒にした時にもウサギを飼育小屋から連れ出して教室に放したりした事もあったよね…


 男子には羨望のまなざしで見られていたし、そういった対大人的には問題行動は起こしても、クラスメイトをいじめたり、物を壊したり、無駄なけんかをふっかけたりすることは全くなかったし、どちらかというと女の子のような可愛い顔をしていたので、キダの事を好きな女子も結構いた。私も自分にちょっかいを掛けられなければ、明るくて面白い男の子だと思った事もあったが、隣の席だった時にしょっちゅうキダからちょっかいをかけられてるのを、キダの事を好きな女の子からあからさまに嫌がられて少しいじめられたので、それが本当に嫌でキダの事をやんわりと避けるようになったのだ。それでもキダは変わらず私にちょっかいを出して来たが、私はなるだけノーリアクションでやり過ごすようにした。


 キダが言うには私のその自分ではノーリアクションだと思っていた、いろいろ我慢してた様子が気に入ってたって事なんでしょう?それで本当にちょっかい掛けたくて私のところに来てて、私のところだけじゃだめだって思って他の子のところにも行ってたんでしょう?

 いやあ…そうは見えなかったけどな。仕方なく他の人に絡んでたわけじゃなくて、生き生きといろんなところを走り回っていろんなところで悪ふざけしてた。



 でもそのキダが『一緒に勉強しよう』とか言い出してんですけど…

「信じらんない」と口に出してしまった。

「何が?」

いろんな事がだよ!と思う。

 さすがに好きだって言ってくれてるのを信じられないって言うのは良くないとは思うけど、話を聞いてると絶対に思い込みだと思うし、今までの、特に小学で一緒のクラスの時の、いろいろな事を思い出したらつい『信じらんない』と私が口走ってしまったのも仕方がない。


「何が」とキダがムッとして聞く。

「だって…なんかいろいろ」

「いろいろって?」

「だってわかんないもん、いろいろ急に言われても。カズミ君とはずっと会ってなかったのに。むかしとすごい変わってるし、でもなんかむかしのまんまのとこもあるし…」

はっきりしない言い方をしたのにキダは嬉しそうに笑った。

 なにが嬉しいんだ『信じらんない』って言ってんのに。


 「まあな~~~」と気の抜けた返事をするキダ。「木本何か委員になる?やるんなら同じやつオレもやる」

 本当に話をコロコロ変える!こういうところは本当にむかしのまんま。

 でも委員会まで私と同じの選ぼうとする!?


 それはちょっと、っていうかだいぶおかしいんじゃないかな。要注意案件だよね。学校選んだのだって私がやまぶき高校行くからって行ってたけど…

 でもクラス違うし、私が何委員になるかは言わなきゃわかんないし。

 言わないでおこう。実際決めてないし。

「…ていうか」とキダが言った。「スズキと一緒の委員になろうとかすんなよ?」




 …こいつは…

 完全に勝手な思い込みだけで私を好きだ言っている。

 私がキダにいろんな悪ふざけをされてなんでもない風を装ってるのを見るのが好きだったって言ってたけど、それって私を好きなんじゃないよね。自分のした事の結果に満足してただけじゃん。私の変な顔を見て。

 なのにスズキ君の事まで持ち出すとかどうかしてる。 

 中学生で引っ越して行って寂しかったから、余計に好きなようにやれてた小学の時の事が楽しく思い出されて、それでわけわかんない事言い出してんだよ。

 バカなんじゃないの?ていうかバカだよね。


 …まあでもこれがキダカズミだと思う。キダの行きあたりばったりなんて小学生の時には日常茶飯事だった。勝手に思いついた遊びをやり始めて周りの子も面白がって一緒にやるんだけど、周りを巻き込んだ時にはキダだけ先に飽きてまた違う遊びを始める…いつもいつもそんな風に勝手に周りを巻き込んだり困らせたりしてた。それと一緒だ。



 「じゃあ芸術の選択はやっぱ美術?」とキダが聞く。

「…そうだけど」

今度は選択授業の話だ。ほらね、コロコロ話すことも変わるし。好きだとか言っても真剣味がない。

「そっか。オレは音楽取ったな。オレはすげえ絵ぇ下手だしな」

 知ってるよ、と思う。飼育小屋のウサギを描く授業でキダの描いたウサギはツキノワグマみたいだったのも思い出した。

 選択科目の美術と音楽と書道では、男子は断然音楽をとる子が多いらしい。たぶん、美術と書道は道具も多いしめんどくさいからじゃないかと思う。

「オレな、ギター弾ける」得意気な顔をするキダ。

なんかしゃべり方までだんだん小学の時のキダみたいになって来てる。

「中学の時仲良かったヤツがすげえうまくてそいつの見てるうちにオレも出来るようなった」

得意気だな。でもそれはすごい事かも。「見てて弾けるようになったの?すごいじゃん」

「かっこいい?」とキダが聞く。さらに得意気な顔。

 

 ほんと、むかしのまんまの感じ出てきた!

 こいつ、中身は全然変わってないんだよ。私の事好きだとか何言ってんだろほんと。

 今の大きくなったキダとむかしの子ザルだったキダがぴったり重なってきて、ついちょっと笑ってしまう。なんかこういう感じだったよキダカズミは。好きとか言われたのも深く考えなくていい。そういうノリで言ってるんだよね。今ちょっとそう思って言ってるだけ。話もコロコロ変わるし。ちょっとドキドキして損した。

 気にするな私。ただ私の反応見て面白がってるだけなんだから。キダはどうせこっちにもまたすぐ慣れてむかしからの友達とか新しい友達とかでキダの周りは騒がしい感じになるんだろう。

 だから何言われてもドギマギしないで普通に、むかしのキダと同じ扱いしとけばいいんだよね。


 キダがちょっとムッとして言う。「なに笑ってんだよ信じてねえな」

しゃべり方まで完全に小学の時みたいになってきた。

「いや、そんなことないよ。ほんとにすごいと思う」

 そう言うと、キダは笑った。朝から見た中で一番キダカズミらしい嬉しそうな笑顔。そうだよね。こうう顔で笑うから、むかしも悪い事したってみんな結局仕方ないなあって許してたんだよ。でもギターまで弾けたら、もっと女子に騒がれそうだね。



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