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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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第五話 ゲイル

 深い森の中、直径30メートル程の広場で赤髪の男が腕の中にミラを抱え、兵士達を仕切っている。

 見た目は二十代前半っぽいが、この兵士達のリーダーだろうか。

 抱えられているミラは意識を失っているのかぐったりした様子で動かない。

 右腕は失われたままだが、肩からの出血は回復魔法で治したのか止まっている。

 赤髪の男が兵士達に指示を出していく。


 「一班から四班は四方に展開、ここに簡易拠点を築く!

 魔物だけじゃなく民間人も近づけさせるなよ!」


 辺りにいた兵士が十名ずつに別れ、それぞれの持ち場へ散っていく。

 そこかしこから報告のような絶叫が聞こえてくる。

 僕は見つからないようにと、木の陰に隠れながらその様子を眺める。


 「一班、十二時の方向にて展開完了!」

 「二班、三時の方向で展開中、魔物モンスターと戦闘になってます!」


 報告を聞いて赤髪の男が指示を出す。


 「よし、五班は二班の援護! 六、七、八班もそれぞれ援護に迎え!」


 さらに兵士達が動き、報告があちこちから届く。


 「四班、展開完了! ゴブリンの群が向かってきます!」

 「――六班援護開始します!」

 「三班、オークと戦闘中、敵の数が多すぎて――」

 「七班援護に向かい――」

 「――八班援護開始!」

 「――班、制圧完了で――」

 「――敵、多数確――」


 おぉ、報告が多すぎて何が何だかわからなくなってきた。

 赤髪の男が指示を出す。


 「ヤバい奴だけ報告しろ! それ以外は各自の班で対処!」


 辺りから届く報告の波が止まる。

 静かになったのを確認して赤髪の男がさらに指示を出していく。


 「よし、ピンチな奴はいないな?

 全班に通達! 

 いまから十二班が魔石灰で魔法陣を構築する!

 魔物モンスターどもの動きの活性化が予想されるが一匹たりとも通すな!

 この魔法に団長の命がかかってる! 各員気合い入れていけ!」

 『おぉぉぉ!』


 周りの兵士達から一斉に声があがり、空気が振動した。

 すごい迫力だ。

 その声を聞いて満足そうに頷いた赤髪の男は、ミラを地面に寝かせるように置き、離れる。

 そのまま各班の援護へと向かっていく。


 十二班の人たちがミラの周りの地面に白い粉で紋様を描き、直径十メートルはある魔法陣が見る見るうちに完成していく。

 兵士から報告が飛んでくる。


 「空から敵、来ます!」

 「飛竜ワイバーン確認! 数不明です!」

 「九班及び十班で対空防御!」

 「了解!」


 空へと向け、無数の弓と魔法による攻撃が飛んで行き、飛竜を次々と撃ち落としていく。

 しかし報告は続く。


 「ゴブリンの群れとオークの群れが合流!」

 「――破られます!」

 「十一班!」


 十一班と呼ばれた瞬間、騎馬兵が駆けていく。

 騎馬の嘶く音、蹄の音、剣や槍の音、そして魔物共の断末魔が聞こえてくる。


 「十二班、完成しました!」

 「すぐに詠唱開始しろ!」


 十二班の兵士達による大合唱。

 その声音は荘厳で優しい響きを持って歌のように辺りに広がっていく。

 声が響いていくのと同時にミラの周りに描かれた魔法陣が白く輝き、その光は詠唱が進むに連れ、増していくようだ。

 詠唱が終わり、十二班の兵士達による合同魔法が発動する。


 『――《絶対再生》』


 ミラを囲む魔法陣から天まで貫く光の柱が現れる。

 眩しい光が溢れ、ミラの姿を確認することはできない。

 光の柱が森の中を昼間の様に照らす。

 兵士達は光の柱に対し背を向けているが、魔物共は光の柱を直視したのだろう、一瞬動きが止まる。

 その一瞬の隙で次々と兵士達によって魔物の命が刈り取られていく。

 光の柱が消え、ミラと魔法陣だけが残される。

 周りで鳴っていた戦闘の音はもうしない。

 十二班の兵士達は相当に魔力を消費したのだろう。

 全員が膝をついて、肩を上下させている。


 魔法陣の中央でミラがゆっくりと起きあがる。

 右腕は無いままだ。

 ミラは立ち上がったものの、ふらついている。

 その様子に僕はたまらず駆けだしてしまう。


 「ミラ……ミラぁ!」

 「む……? なんだシドか」


 ミラに駆け寄り、思わず抱きついた。

 ミラは僕を抱え、そのままもう一度座る。

 僕の目から涙が溢れだし、口からは言葉にならない嗚咽だけが出てきてしまう。

 言いたいこと、言わなきゃいけないこと、聞いてほしいことがいっぱいある。

 でも、そのどれもが言葉になって出てきてくれはしない。

 僕の後ろから赤髪男の声がする。

 さっきまでの雰囲気と変わり、すこし砕けた印象を受ける声だ。


 「おいおい、なんだぁ? どうやってここに来たんだ? 魔物かと思って切り捨てる所だったぜ?」


 ミラがふふっと笑って赤髪男に声をかける。


 「こいつは私の師の息子だ」

 「そうか、なら切らなくていいか」

 「あぁそうだな。ここでの事は他言しないようにちゃんんと指導しておく。

 ところで、現状はどうなっているのだ?

 報告しろ、ゲイル」


 ゲイルと呼ばれた赤髪男は再び雰囲気を変え、報告を開始する。


 「はっ!

 十名一班で全十二班、百二十名にてミラ団長の捜索、保護の作戦行動中であります!

 別動隊として残りの兵、百八十名をジェミールに任せ、紅竜の落ちた地点へと向かわせております!」

 「よし、じゃあこちらの作戦はここで終わりだ。

 今からこの隊は私が指揮する、全員に指示をだせ!」


 ミラに命令され、ゲイルが指示を飛ばして各班をまとめ、隊列を新たに組み直していく。



 一度森を抜け、そこからもう一つの隊の所へ向かうらしい。

 森を抜けるまでの道中では、民間人の捜索も行われる事になった。

 僕は歩きながら、ミラに村で起こったこと等を訊かれ、別に隠すようなこともなかったので素直に全てを話した。

 黙って聞いてたミラは僕が話し終わると「そうか」と言っただけでそれ以外には何も言わなかった。

 僕はそれで言いたかった事や聞いてほしかった事を言うタイミングを失ってしまう。

 そのまま無言で――ミラの元へは色々な報告が来ていたが――歩き続け森を抜ける。

 森の出口にはメグ達が居た。

 シャロンとユキも目を覚ましたようだ。

 メグは僕達の姿を見つけると大きな声で泣いたが、ロビンは泣かずに僕を睨んでいる。


 「お前が兄ちゃんの代わりに死ねばよかったんだ!」


 ロビンはまっすぐに僕を指さして、さらに続ける。


 「お前が死ねば、兄ちゃんは生きてたんだ!」


 僕はなにも言い返せない。

 なんて言えばいいんだ?

 「そうだね」とでも言うのか?

 それとも「僕が死んだってアレンが生きていた保証なんてない」か?

 それでどうなる?

 ロビンが落ち着くか?

 落ち着くわけないだろう。

 僕にこの状況で答えを出せるような経験は無い。

 でも僕は、僕の“しなかった事”による罪悪感のせいで心のそこからロビンの発言を否定できない。

 結果、僕はただ無言でロビンから浴びせられる暴言を浴び続ける事になる。

 ロビンの語彙が尽きたのか発言が「死ね」しか無くなった頃、ミラが助け船をようやく出してくれる。


 「その辺にしておいてやれ、アレンが死んだのはシドのせいだけじゃない。 私にもあるし、ロビン、お前にもある」

 「そ、そんなことない! こいつだ、こいつのせいだ! 全部こいつのせいだ! お前らみんな死ね! 死んでしまえ!」


 そういうとロビンは一人、闇に包まれた方へ走っていく。

 近くにいたゲイルが両手をあげ、ため息を漏らす。


 「やれやれ、あの坊主も団長のお知り合いですか?」

 「あぁそうだ。私の思い人の弟だ」

 「なるほど。じゃ、俺が迷える少年に道を示してあげなきゃいけないですね」

 「あぁ、すまないがよろしく頼む」


 ゲイルはロビンを追って行く。 

 心配そうに見ていたメグに、ミラが言う。


 「あの男に任せておけば大丈夫だ。少々、暑苦しいが信頼できる男だ」

 「そっか……、じゃあ大丈夫かな……? シドは大丈夫? 私はシドのせいなんかじゃないと思ってるよ。 悪いのはあの竜神様だよ」


 僕を庇ってくれるような発言をするメグになにも言えない。

 僕は僕がアレンを死なせたことをわかっている。

 確かにどうしようもなかったし、死んだのは僕のせいではない。

 殺したのはあの紅竜だし、僕はなにも“できなかった”だけだ。

 だけど、本当にそうなんだろうか。

 それは僕の責任を全て消してくれるのだろうか。

 僕は――

 ミラの声が僕の思考を中断する。


 「いや、そうでも無い。責任はシドにもある。何故なら――」

 「団長! 捜索に出ていた隊が全て帰還しました! 民間人の発見はありません!」


 ミラが話そうとしたとき、兵士から報告が来た。

 ミラが兵士に指示を出し、兵士が去っていく。


 「よし、後はジェミールの隊と合流するだけだな」


 ミラはなにか考えるように少し黙り、再び口を開く。


 「お前達町まで歩けるか?」


 僕達は口々に大丈夫だと答える。

 シャロンもユキも大丈夫そうだ。よかった。

 でも町まで行ってどうしよう。

 行く当てもなければ、頼れる人もいない。

 宿に一晩泊まるお金すら持っていない。

 ただあの紅竜から逃げるために町まで向かっていただけだ。

 町まで行った所でどうしようもないが、かといってこの夜の森を抜けて村まで戻る勇気もない。

 僕が困っているとミラから声がかけられる。


 「私は今からジェミールの隊と合流する。お前達はゲイルの隊と共に町へ行け」

 「そんな体でいくの?」


 メグが心配そうに言うがミラは失った右腕を左手で示しながら笑う。


 「これでも団長だからな」


 その発言、僕達はだれも笑えないが……。

 ミラがその空気を無視して続ける。


 「町に着いた後の事はゲイルに任せておく。今日は兵舎に泊まるといい」


 それじゃあしっかり歩けよと言い残しミラは兵士達の前へと進んでいった。

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