第四話 ミラ
僕ら八人は夕暮れに染まる森の中を走り続ける。
高く伸びた木々が空を覆っているため、既に足下は暗い。
でもこの森の中なら上空を飛ぶ紅竜からは見えないはずだし、空から急襲される心配もなさそうだ。
僕がそんな事を考えて走っているとアロンおじさんが笑顔で走りながら近づいてくる。
「火球で焼き殺されるかもしれないけどな」
なんて事を言うんだろう。顔がひきつる。
僕のひきつった顔に満足したのか、笑顔でアロンおじさんが離れていく。
ひきつった顔を戻しながら横目に見ていると、アロンおじさんがビビおばさんに頭を叩かれていた。
アレンは呆れた様にそれを見てため息をついている。
しばらくして前方を走る複数の人影を発見した。
その人影に近づき、走りながら話を聞く。
どうやら先に村から逃げた人達の様だ。
周りを見渡せば村から逃げ出した人々が他にも走っている。
耳を澄ませば森の中をたくさんの人が走る様な音がうるさく鳴っていた。
どうして気づかなかったんだろう。
僕達は走る人の中からメグ達を探す。
幸いすぐに見つける事ができた。
子供達はそれぞれの両親を見るなり、泣き出してしまう。
僕らは立ち止まり、メグに何が合ったかを説明する。
説明し終わると、僕はメグに抱きつかれた。
「心配、した、んだから、ね」
メグは嗚咽まじりに喋る。
僕に対して怒っている様だ。
心配させたのなら、悪かったと思う。
「ごめん」と謝りながらも、僕は周りで見ている僕の両親とメグの両親の視線が気になって仕方ない。
なんていうか、うん。これはまずい。
完全に友情だけで説明ができないレベルだ。
アレンが声をださずに口だけ動かして、僕になにか言っている。
なんだろう。
メグに抱きつかれたままアレンの口に注目する。
こ・く・は・く・し・ろ
あいつ後で絶対殴る。
僕はそう心に決め、泣き続けているメグの背中をさする。
もちろん告白はしない。
少ししてメグの嗚咽が止まり、あたりに静寂が戻る。
僕とメグは抱き合ったままだ。
幸い、まだ紅竜の咆哮も羽ばたきの音も聞こえない。
聞こえるのはたくさんの人が草を踏むような音だけだ。
アロンおじさんが辺りを見渡して言う。
「とにかく、町まで逃げるしかねーな」
皆が頷く中、ダンおじさんだけが僕を険しい顔で睨んでいる。
え、恐い。
やっぱりまだ付き合ってもないのに抱き合ったりしたらまずかっただろうか。
僕は慌ててメグの背中に回していた手を離すがメグが僕から離れてくれない。
ちょ、待って、ねぇ、いま、今だけ離れてよ。僕の心の声は全く伝わらない。
僕はそのままの体勢で、走って近づいてくるダンおじさんに謝る。
「あ、あの、えっとごごめんなさい! あの、娘さんとは誠実なお付――」
メグごと思いっきり突き飛ばされた。
メグを庇いながら地面に転がる。痛い。
いくら怒ったからって自分の娘ごと突き飛ばさなくてもいいんじゃないか?
僕はすこし怒りながら、体を起こし、ダンおじさんを見る。
目の前には胸に大きな穴を三つ開け、そこから血を吹き出すダンおじさんが居た。
え?
周りには何もない。
なんだ? なにが起きた?
ダンおじさんが倒れる。
父さんが叫ぶ。
「《姿消し》だ!」
その声に反応し、アロンおじさんが鞄から魔道具を取りだそうと動く。
アロンおじさんが鞄に突っ込んだ右手を出すのと同時に首が落ちた。
胴体から行き場を失った血が噴水のように吹き上げる。
子供たちの悲鳴が響く。
ビビおばさんが泣き叫びながらアロンおじさんに駆け寄ろうと走りだす。
しかしビビおばさんはアロンおじさんの元にたどり着く前に空中へと消えてしまう。
頭上の木々が激しい音を立て、血塗れのビビおばさんの右手、左手、右足、左足が降ってくる。
胴体と頭は無い。
周りに居た人々が騒ぎに気づいた様で、パニックが広がる。
人々の叫びと走る音が森に充満していく。
嗚咽混じりのメナおばさんの詠唱が聞こえてくる。
「私が、望む、今、ここに、水の、力と、風の、力をもって、姿を、隠す、悪しき、者の、姿を、晒させよ《探査霧》」
メナおばさんを中心に薄い霧が発生し、森の中を覆い尽くしていく。
辺りがうっすらと白い霧に覆われるが、視界は通る。
紅竜の形が白い霧の中にうっすらと浮かびあがる。
その紅竜の影が母さんへと迫り、命を刈り取る鉤爪が振るわれてしまう。
僕の目に映る光景がスローモーションとなり、世界の時間がゆっくりと、しかし残酷に、確実に流れていく。
父さんが母さんを庇い、その身で鉤爪を受ける。
血しぶきが舞い、父さんの体から力が抜けていく。
地面に崩れ落ちる父さんをさらに鉤爪が切り裂く。
父さんの腕が、足が、肉が飛び散る。
地面に崩れ落ちる“父さん”だった物。
母さんがそれに向け連続して白い光を放出する。
しかしその肉塊が再生し、父さんに戻る気配は無い。
紅竜の影が大きく口を開き、火球が放たれ、二人が燃える。
父さんの……母さんの……命が燃えていく。
僕はその光景を見ながらも、指一本たりとも動かせなかった。
なにかを叫ぶ声すらもでない。
ただ呆然と両親の死を見ていただけだ。
「逃げなさい!」
メナおばさんの声で我に返る。
既にスローモーションの世界は終わっている。
目の前で巨大な炎が燃えている。
燃え上がる炎が熱い。
ユキとシャロンを抱えたメグが僕を呼ぶ声が聞こえる。
アレンがロビンを抱き、僕に怒鳴っている。
皆どうしたんだ?
なんで? 僕の家族はあの炎の中に居るんだよ?
どこにいくの? どうして僕の手を引っ張るんだ?
やめてよ。
アレンが僕の手を掴み、僕の体を引きずる。
でも僕はそれに抵抗する力が出せない。
父さんと母さんがどんどん遠ざかっていく。
僕らと炎の間に土の壁が現れ、向こうが見えなくなる。
メナおばさんがなにかの魔法を使ったのだろう。
唐突に頬に衝撃が走る。
メグにビンタされたようだ。
目の前でメグが泣いている。
地面に立つユキとシャロンが僕とメグを見て不安そうな顔を浮かべている。
正気に戻るには十分な光景だ。
「一緒に……来てよ……」
僕はメグのその言葉に頷き、ユキを抱える。
よし、もう大丈夫だ。
ちゃんとメグに伝える。
「ごめん、もう大丈夫。ありがとう、ごめん」
僕がユキを、メグがシャロンを、アレンがロビンをそれぞれ抱え走る。
土の壁の向こうから爆発音が連続して響く。
音がする度にユキの手に力が籠もる。
おそらくメナおばさんは死ぬつもりだ。
死ぬのを覚悟で時間を稼いでくれている。
僕達はそれに答えなきゃいけない。
絶対に逃げ延びて生き残る。
心の中で誓う。
僕はユキの頭を優しく撫でてやりながら涙を堪え、走りつづける。
ついに森の出口が見える。
森の出口の向こう、一面に広がる平原にかなりたくさんの人が集まっている様だ。
集まっている人々は兵士の様で、お揃いの銀の鎧が月の光を反射し、幻想的な空気を作り出している。
とにかくあそこまでいけば、助かるかもしれない。
森の終わりまであと百メートル程度。
そこから兵士達の所までも百メートル程度。
全部足しても二百メートルだ。
安心感で足がもつれそうになるが、なんとか堪え走る。
隣を走るメグの泣き声が、アレンの荒い息づかいが、聞こえる。
僕も泣いてるし、息も荒くなっているんだろう。
三人で一緒に走る。
僕らに抱えられてる三人が大きな声を出して泣きはじめた。
あと五十メートルで森から出る。
突然、僕らのすぐ前の木が爆ぜた。
アレンの指示で進行方向を左に変え、走る。
しかし左側の木々も爆ぜ、炎の壁に進路を塞がれてしまう。
今度はさっき燃えた木の右側へと進路を反転し、走り出す。
またも目の前の木が爆ぜる。
連続して周りの木々が次々と燃え上がっていく。
僕らは炎の壁に閉じこめられてしまった。
向こうの兵士の隊列から兵が一人走ってくるのが見える。
救助にきてくれるのだろうか。
後ろから森の木々をなぎ倒しながらゆっくりと何かが迫ってくる気配と音がする。
熱さのせいだけではない汗を流しながら、振り返る。
紅竜が振り返った先に、居た。
燃え盛る炎に照らし出された紅色の鱗が妖しく煌めいている。
人々の血で真っ赤に染まった頭部が、しなやかに、艶めかしく、動く。
紅竜の口から何かが落とされる。
見ちゃ駄目だと思いながらも、僕らの視線がそれに吸い込まれていく。
黒いボロ布に包まれたナニカ。
隣で、メグが膝から崩れ落ちる。
メグの、ユキの、シャロンの、悲鳴とも絶叫ともつかない叫びが辺りを満たす。
僕の腕の中で叫びをあげるユキの身体から突然、力が抜ける。
気を失った様だ。
メグの方を見ると同じようにシャロンも気を失った様で、ぐったりしている。
僕はユキを落とさないようにしっかり抱え直し、紅竜を睨む。
その光景の何が楽しいのか、僕らを見る紅竜の表情は満足気に嗤っている様に見える。
紅竜が口を開き、その中で炎が大きくなっていく。
火球を放とうとしているのだろう。
僕は考える。
どうすればいい。
膝をついて崩れてしまったメグを連れて火球を回避するのは不可能だろう。
おそらく全員が炎に身を焼かれてしまう結果に終わる。
じゃあ騎馬兵がくるのを待つのはどうだろうか。
あそこから来るまでまだあと数十秒はかかるはずだ。
火球の発射の方が早い。
じゃあ、じゃあ、誰かが火球を身体で受け止めたらどうだ?
受け止めた一人は死ぬだろうが、残りは騎馬兵が間に合って助かるかもしれない。
じゃあ、その誰かって誰だ?
僕にはその“誰か”が誰がなるべきなのかもうわかってる。
僕だ。
アレンやメグには兄弟が居る。
僕にはもう身寄りは誰もいない。
だから僕が行くべきなのだ。
この身を盾にし、命を賭け、彼ら彼女らを守るのだ。
だけど、僕の足は動かないし、そんな勇気はでない。
そして、残念なことに僕の頭の中の、狡い部分が別の答えを知っていて、僕はそれを待っている。
「ロビンを頼む」
アレンがそう言い、ロビンを僕へと渡してくる。
気を失ったままのユキを左手で抱え、泣き叫んで暴れるロビンを右手で掴む。
火球が放たれ、僕らへと迫る。
アレンが火球へ向けて走りだす。
火球がアレンの身体にぶつかった瞬間、アレンの身体は爆散した。
アレンだった物が、小さな肉片が、僕らに飛んでくる。
血の生臭さと肉の焼ける臭いに刺激され吐き気がこみ上げてくる。
ロビンの、兄を呼ぶ声が大きく、大きく響く。
僕はロビンの腕を引きながら、メグに叫ぶ。
「紅竜が襲いかかってくる前に、早く!」
僕らは炎の壁に向かって走る。
後ろで紅竜が唸るのが聞こえ、ロビンが体勢を崩してしまう。
唸り声で家族の死を思い出してしまったのだろうか。
次は自分の番だ、などと思っているのかも知れない。
横目にメグが炎の向こうへ走っていくのが見えた。
よかった。
とりあえずメグ達は逃げ切れそうだ。
僅かな安心を胸にまだ崩れた体制のまま立ち上がれないロビンを見る。
ロビンの顔は真っ青だ。
ロビンの顔につられ、僕の頭に死のイメージが浮かんでくる。
炎に包まれた父さんと母さんの姿が脳裏をよぎる。
僕の足からも力が抜けていく。
地面に膝から崩れ落ちてしまう。
もう何度目かわからない涙が頬を伝っていく。
なんで僕らがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
もう無理だよ。
もうどうしたらいいかわからないよ。
なんなんだこれ。
周りで燃え盛っている炎が肌を焼き、身を焦がしていく。
炎の壁のすぐ向こうでメグが立ち止まっているのが見える。
なにしてるんだよ。逃げろよ。逃げてくれよ。
誰か助けてくれ。
そんな事を思う。
大声で叫ぶ。
「誰か、助けてよ!」
「すまない、遅くなったな。
私の思い人――アレンの命を奪ったクソトカゲめ。楽に死ねると思うなよ」
ミラの声がした。
僕は顔を上げる。
そこには緑の剣を手に紅竜と向かい合う女騎士、ミラがいた。
白銀の鎧が炎の灯りを反射して輝き、腰まで伸びたブロンドの髪が炎の熱で揺れている。
簡単に折れてしまいそうなほど細い全身から凄まじいまでの殺気を放ち紅竜を睨んでいる。
その殺気を受けても紅竜は全く怯んでいないようだが……。
紅竜とミラが睨み合ったまま動かない。
炎が燃え、木々を焼いて爆ぜる小さな音だけが辺りを満たしていく。
数秒のような数時間のような時間が流れ――ミラが動いた。
まっすぐ紅竜へと走る。
紅竜の放つ火球を緑の剣で切り捨て、一気にその巨体へと近づく。
そのまま下から上へと紅竜の腹を切り上げる。
紅竜の血がその裂け目から吹き出す。
苦悶の声を上げる紅竜にミラがさらに追撃する。
切り上げた剣の勢いのままに一回転し、初撃と交差するように剣を降り下ろす。
紅竜の腹からさらに血が流れる。
苦悶の声をあげながら、空中にあがろうとする紅竜。
しかしまだミラの攻撃は止まらない、空へ逃げようとする紅竜の翼に手を向け何かを詠唱する。
翼をハタメかせ紅竜の巨体が浮き上がるが、一瞬の間を置いて地面に無様に落ちた。
起きあがろうとする紅竜、そこをミラの剣が襲う。
命を刈るのに充分な威力と迫力を持った上段からの一撃が紅竜の首へと迫る。
しかしそれは素早く体勢を整えた紅竜の鉤爪によって防がれてしまう。
ミラの声が漏れるように響く。
「ちぃっ! お前だけは絶対に殺してやる! 殺してやるぅぅう!」
ミラの剣が緑の線となり紅竜へと走り、深紅の鱗が空へと舞う。
紅竜の血が弾け飛ぶ。
いける。このままいけば勝てる。紅竜が死ぬ。
僕の胸に希望の光が生まれる。
その光は声となって僕の体から出ていく。
「いけ、ミラ! いけぇぇえええ!」
さらに緑の線が何本も走り、紅竜の血が乱れ飛ぶ。
紅竜が凄まじいまでの咆哮をあげ、空気が振動する。
思わず耳を塞ぐ。腕の中のユキが何か喋っているようだが全く聞こえない。
空気の振動のせいか周りの炎が消えていく。
咆哮が終わり、紅竜の纏う空気が明らかに変わる。
今の咆哮の間に紅竜とミラの間に、少し距離が開いたようだ。
今までに何人もの命を奪ってきた紅竜の口が開かれ、漆黒の炎がミラへと放たれる。
ミラが迫り来る炎を切り捨てようと剣を構えながら距離を詰めにいく。
しかし炎と接触する寸前で大きく横に飛び、地面を転がりながらも回避する。
漆黒の炎が着弾した地点の草木は燃え上がらず、みるみる枯れて土が腐臭を放つ。
僕がその光景に目を奪われている間にも地面に転がったミラへと死の爪が迫る。
ミラは頭上より迫る鉤爪の雨を躱しつつ立ち上がる。
紅竜とミラが再び睨み合う。
お互いに隙を窺っているのか両者の動きが止まる。
否、止まってなどいない。
ミラの構える剣先が微妙に揺れているし、相対する紅竜も僅かに頭が動いている。
息苦しいまでの静寂が世界を包む。
先に動いたのは紅竜だ。
首を後ろに引き、赤い炎を放つ。
炎はミラにたやすく切り裂かれ消滅するが、その数瞬で紅竜は上空へと飛び始めている。
ミラが怒号をあげながら紅竜を追う。
ミラの足が地を蹴り、空中へと飛び上がる。
だけど……だめだ。それじゃ届かない。
紅竜はさらに赤い炎を吐きながら上空へとあがっていく。
ミラが剣を右手だけで握り、左手の掌をミラ自身の足に向ける。
ミラの身体が急加速し、炎を切り裂いて紅竜との距離を一気に詰めていく。
操作魔法……なんだろうか。僕にはわからない。
迫るミラに対し、紅竜が驚いたような鳴き声を出した。
ミラの剣が紅竜の命を奪うために振るわれる。
が、紅竜の鉤爪がそれより早く動き、ミラの剣を、右腕を肩ごと切り離す。
激しく血しぶきをあげながら空中をミラの右腕が舞っていく。
切り離されても右拳が未だ剣を握り続けているのは執念のなせる技だろうか。
でも、もう駄目だ。
剣を失ったミラに他の攻撃手段は無い。
ミラが肩から血を流しながら地面へと急降下していく。
落下しているのかと思ったが、そうでは無さそうだ。
操作魔法を駆使していようで、残された左手が忙しく動いている。
紅竜は降下していくミラを見ながらも上空へ上空へとあがっていく。
紅竜とミラの距離が一気に離れていく。
ミラに迫る地面。
地面にぶつかるかと思った瞬間、進行方向を下から真横に変え、空中を進んでいく。
その速度、勢いはどんどん上がり、目で追いきれなくなっていく。
落ちてくる切り離された右腕を残された方の腕で空中で掴む。
そしてそのままの勢いで上昇、わずかに体勢を崩しながらも紅竜へと左手につかんだ右腕を、振りぬく。
恨みの、怒りの、声が大きく響く。
「アレンをかえせえええええぇぇぇぇ!!!!!」
紅竜の首を切り落とすごとく振るわれた一撃。
しかしミラの体勢が崩れていたせいか、紅竜の反応速度のせいか、紅竜の片翼を大きく切り裂くだけに終わってしまう。
紅竜は苦悶の鳴き声を上げ地面へと落ちていく。
それと同時にミラも力無く落下を始める。
気を失ったのだろうか。
ミラと紅竜が別々の方角へと落ちていく。
両者共に攻撃する力は残っていないようだ。
それを見ていた兵士達が二手に別れ、ミラの落下するであろう地点と紅竜の落ちていく場所めがけて走っていく。
僕は……。
僕は自分の“した事”に責任を感じながら――否、“できなかった事”に罪悪感を感じながらも紅竜から生き残り安堵の息を漏らす。
少し先ではメグが泣いているし、シャロンとユキは気を失ったままだ。
ロビンは兄の死を受け入れられないようで、「アレン兄ちゃんは?」などと譫言のように何度も何度も呟き続けている。
その問いに答える者はいない。
僕は涙を拭い、ロビンをメグに押しつけ、駆けていく兵士に混ざりミラの元へと走る。
ミラの元へ行って何をするのか、何ができるのか、そんなことはわからない。
それでも僕は行かなければいけない気がして走った。
もしかしたらロビンやメグ達から逃げたかっただけなのかもしれない。
僕は自分の気持ちがわからない。
アレンが死んで、僕は生き残った。
それは僕の頭が導き出した狡い答えだ。
アレンならあの場面で飛び出してくれると思った。
結果、そうなったし、僕は生き残った。
なのにこの胸に広がる罪悪感はなんなんだろう。
僕の胸中が自己嫌悪で満たされかけたとき、兵士達の目的地、ミラの落下した場所にたどり着いた。