ロビンを探して
濃紺の外套を纏い、綺麗な毛並みの馬に乗りながら入場門へと進む。
手続きのために、駐留している横柄な態度の兵士に馬上から身分証を手渡す。
兵士は僕の身分証を確認すると、急に背筋を伸ばして真面目くさった声で言う。
「シロッド・クローウェル様ですね。確認して参りますので、少々お待ちください」
そう言って、入場門から兵士は走り去っていく。
僕はその後ろ姿を見送りながら、兵士の態度と言葉に不安を覚える。
確認? いったい何を? もしかしていきなり偽物だとバレたのか?
僕は思わず自分の身なりを確認してしまう。
服装は旅人にとって不自然ではない物を着用しているし、馬にだってクローウェル家の紋が刺繍された布を付けている。
どこにも偽物の要素はないはずだ。
次に僕は僕の言葉遣いを思い出す。なにかおかしな話し方をしてしまったり、情報と違う事を口走ったりしてしまっていなかったか?
僕はシロッド・クローウェルに関する情報を覚え込み、今はシロッド・クローウェルになりきっている。
実在の本人よりも本人の情報に詳しい自信すらある。
それでも不安は拭いきれず、兵士も戻ってこないので僕は頭の中でシロッド・クローウェルの情報を再確認しておく。
クローウェル辺境伯の第五子にして、三男。旅好きで権力に関することを嫌い、貴族っぽくない貴族として有名だ。
それがシロッド・クローウェルという男であり、今の僕はその男になりきっている。
容姿、情報に間違いがなければ残るのは、ミラとゲイルさんの用意してくれた身分証だ。
ただ、それに関してはバレる心配など欠片ほどもない。
僕はあの二人や騎士団の面々を信用しているし、あれが偽物とバレてしまうなら強行突破してロビンとアリサを連れ戻すしかとれる手段はない。
僕が頭の中で、偽物とバレた場合の行動をシミュレートしていると先ほどの兵士が一人で戻ってくる。
「お待たせして申し訳ありません! 確認させていただきました所、貴族としての歓迎はご希望ではないとの事ですが、この町でもそれは同様でございますでしょうか!」
「あぁ、はい。それでお願いします。それじゃ、通ってもいいですか?」
「はっ! どうぞお通りください!」
よかった。偽物とバレていなかったらしい。
僕は返却された身分証を受け取って、代わりにその兵士にそこそこの金を渡して馬を任せる。馬を預けるには多い金だが、これが貴族の作法らしく今の僕は貴族になりきっているため、その作法に従うしかない。
兵士の見送ってくれる視線を背中に感じながら町の中へと進む。
町の中に入ってすぐ、僕は驚く。
全然活気が無いのだ。路上には浮浪者の様な者共が寝転がって居るだけで、露店なども一切見あたらない。
道を行き交う人々の表情は暗く、僕にとってその光景は異常だった。
領主が違うからこんなに雰囲気が違うのだろうか。
僕は思わずどうでも良いことを考えてしまう。
とにかく情報だ。人を捜すには情報が必要だ。情報を集めるには酒場に行くべきだろう。
僕は宿すら取らず、酒場を探して町の中をうろつき始める。
町の中心部に近づいても雰囲気が変わることは無く、活気の無い人々の姿は僕を不安にさせていく。
町を歩けば歩くほど、こんな町に本当に敵組織の本部があるのか、ロビンとアリサちゃんがいるのか、疑いの気持ちが沸いてくる。
そんな不安と疑問を抱きながらも酒場を見つけ、僕はその酒場への扉を開く。
 




