ハーミッシュ村
オレの魔法に包まれた馬車は淡い光を放つ。
光を纏った馬車が柵にぶつかり、派手な音が鳴る。
オレとアリサは、馬車と柵がぶつかった衝撃で馬車から放り出されてしまう。
地面に転がりながら、馬車の行方を目で追いかける。
オレの予想では、馬車は柵とぶつかって止まるはずだったがその予想は外れ、馬車は止まらずに村の中へと突き進んでいく。
馬車は村へと進入後、煉瓦でできている建物の一部を破壊、その破壊した部分に突き刺さるようにしてその動きを止める。
破壊された建物から多数の羊が大騒ぎしながら飛び出してきて、オレとアリサの横を通り過ぎていく。
オレは目の前に広がるその光景に言葉を失ってしまう。
なんだ、これ。
呆然とするオレの隣で、立ち上がったアリサが逃げていく羊を一匹捕まえて言う。
「ねぇ、コレ大丈夫なの?」
「いや、大丈夫じゃないでしょ」
オレは立ち上がって体についた土を払う。
アリサが捕まえた羊を手放し、オレに訊いてくる。
「どうする?」
どうするって言われても困る。
こんな時にオレに思いつくのは、真摯に謝るか、この場から逃げるかの二択だけだ。
「逃げるとしても、馬車がさぁ……」
オレは馬車の方を指さす。
馬車は崩れ始めた建物に半分ほど埋まってしまっていて、簡単には動かせそうにない。
オレは謝ることに決め、言葉と行動を考え始める。
オレが考えていると、馬車の埋まっている建物の向こうから鎧を身につけた人達が走ってくるのが見えた。
近づいてくるまでにオレは相手の人数を確認する。
全部で十五人。村の規模から考えて即出動できる人数が多いことにオレは驚く。
程なくしてその人々にオレとアリサは囲まれる。
オレはその人々を相手にばれないように、一人ずつ確認していく。
どうやらこの中にオレより強い人は居なさそうだ。
鎧姿の人々は装備している武器をオレたちに向けて構える。
オレたちを囲む鎧人間の一人が叫ぶ。
「手を上げろ! 目的を話せ!」
オレは言われた通りに両手をあげ、攻撃する意志が無いことを表現する。
そしてさっき考えた言葉を放つ。
「あの、すいませんでした! 事故です。攻撃じゃありません。柵も建物もすぐに直します」
オレの、攻撃じゃないという言葉に鎧人間達に安堵の空気が広がっていくのを感じる。
手を上げろと命じてきた鎧人間が再び口を開く。
「できるのか?」
オレはニヤつきそうになる口元を必死で抑え、答えてやる。
「はい。オレ、大魔導師ですから、すぐですよ」
「そうか、魔導師様か……」
鎧人間が近づいてきて、手を差し出してくる。
握手だと思い、オレも手を出す。
もちろん最高の営業スマイルを浮かべることも忘れない。
だが、オレの手は握られることなく、相手の拳はオレの鳩尾へとめり込む。
予想外の攻撃に、オレの頭は停止してしまう。
オレは意識を失い、倒れる。
目を覚ますと、薄暗い部屋に寝ころんでいた。
もちろん知らない場所だ。
オレは部屋の中を見回す。
薄暗い部屋だ。
それにすごく狭い。
両手を広げれば両側の壁を触れそうだ。
そして窓は無く、扉は一つしかない。
オレはここがどこか理解する。
……ここは、牢屋だ。




