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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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第二話 日常の終り、逃走の始まり

 僕たちが穴を抜けて村に戻ってきたとき、もう既に村の中は大興奮のお祭り騒ぎだった。

 通りには人が溢れ、露天まで出ている。

 村人達の声が聞こえてくる。


 「竜神様が降臨なさった!」

 「竜神祭りだー!」


 どうやらさっき見たのはやっぱり竜神様らしい。

 僕らは人混みに飲まれながら、このまま一旦家に帰るか竜神様を見に行ってみるか大きな声で相談しながら歩く。


 「ねぇアレン! 僕は一旦帰った方がいいかと思うんだけど!」

 「竜神様ってのはすぐ帰っちゃうらしい! だから先にちょっとだけ見に行って見ようぜ!」


 「えっそうなの!? なら僕も見たことないから見たい!」


 メグは人混みの中、姉弟二人と手を繋いでいるだけで精一杯の様で会話に参加してこない。

 見かねた僕はメグの弟、ユキを抱っこしてあげる。

 が、三歳だと聞いて油断していた。結構、重たい。

 でも抱っこしていきなり下ろすのは格好悪い気がしたので頑張って抱っこして歩く。

 人混みの中をアレンの誘導に着いていき、僕らはなんとか竜神様の居る場所までたどり着いた。

 村の中心にあるすり鉢状の広場の中心に、竜神様は居た。


 大きな体から生える空を駆ける為の翼。

 細くても強そうな首と尻尾。

 鋭い歯の並んだ大きな口。

 太く力強そうな二本の腕。

 そこから伸びる三本の漆黒の鉤爪。

 全身を覆う赤い竜燐が美しく煌めき、日光を反射している。

 僕は腕に抱いているユキの重さも忘れ、ただただ見入ってしまう。


 竜神様の周りを白装束の集団が取り囲んで、歌や舞を披露している。

 アレンがアレンの弟にしてあげた説明によるとあれは竜神教という宗教集団らしい。

 僕は前世の感覚で宗教とは疎遠なのでアレンに聞くまで全くわからなかったが、ユキに聞かれたのでアレンの説明をそのまましておいた。

 ユキが僕の事を物知りなんだねーと褒めてくれる。嬉しいなぁもう。

 露天で売ってる串焼きでも買ってやろうかと僕はユキと共に広場から少し離れる。

 たれの焼けるいい匂いを放つ露天を探索していると広場の方から突然、悲鳴と爆発音が聞こえてきた。

 僕は広場の方へ振り返る。

 辺りを熱風が吹き抜けた。

 何かが燃える嫌な臭いが鼻を突く。


 広場に居た竜神教の人々が真っ赤に燃えているようだ。

 燃えながらも踊り狂っているように見える。

 竜神様は、その竜神教の人を突然喰った。

 広場の周りを囲む人々から再び悲鳴があがる。

 え、これって竜神教のショー的な物なの?

 生け贄的な?

 これやばくないか?

 離れた方がいいんじゃないの?

 やっぱり宗教ってちょっと怖い。

 僕がそう思った時、竜神様は燃え盛る竜神教の人々を次々と喰らい始めた。

 竜神様の口からは血が溢れ、肉片となった者たちがこぼれ落ちる。

 竜神様が歩きだし、竜神教以外の人をも喰らい始めたとき人々はやっと自分達のおかれている現状に気づいたようだ。

 これは竜神教の儀式ではない。

 人々はパニック状態になり、一斉に広場から逃げ始めた。

 僕らは逃げまどう人々に押され、流されバラバラにはぐれてしまう。

 僕はユキをしっかりと抱きしめたままアレンとメグに僕の家に一旦集合しようと叫んだ。

 伝わったかどうかは確認できなかった。


 後ろから時折聞こえる悲鳴と爆発音にビビりながら逃げ続ける。

 家までの距離がすごく長く感じられる。

 通りが人で溢れているせいなのか歩みの速度は決して早くはない。

 再び悲鳴が聞こえる。

 さっきからだんだん悲鳴が近づいてきている気がする。

 僕はもう何度目かわからないが、後ろを振り返り竜が来ていないか確認する。

 よかった。まだ来ていないようだ。

 腕にユキを抱えっぱなしのせいで腕がだんだん痺れてきた。

 だけどこの人混みの中で下ろすわけにもいかず、僕は抱っこし続ける。

 ユキは怖がって僕に強く抱きついたまま離れない。

 僕は安心させるための話題を探す。

 えーっとどんな話しがいいかな……。

 僕が考えているとユキから僕に話しかけてきてくれた。

 嬉しい。


 「あ、あのね、シド兄ちゃん」

 「ん? なんだい?」

 「竜ね、来たよ」


 ユキの口から発せられた言葉は嬉しい知らせではなかった。

 ユキの声が聞こえた範囲の人々と共に振り返ると通りの角を竜が曲がってくる様子が見えた。

 竜に気づいた人々が我先にと走り出し、パニックが起きる。

 後方では逃げ遅れた人が竜に食べられているようだ。

 僕はユキをしっかりと抱きしめ、逃げ出す人に倒されないように気をつけながら走る。


 足を何かに払われる。

 僕はなんとかユキを下敷きにしないように体をひねり、地面に倒れ込む。

 倒れた衝撃でユキが僕の腕の中から投げ出されてしまう。

 まずい。ユキが踏まれてしまう。

 僕は地面を必死に素早く這ってユキの上に覆い被さる。


 地面に倒れた僕の目の前を意地悪そうな人が走っていく。

 去り際に「ククク、芋虫が喰われている隙に我は逃げるぞ、ひょほほ」と聞こえた。

 最悪だ。僕はあいつに足をかけられたのだろう。

 僕はユキに覆い被さったまま、動けない。

 人々の怒号と足音の中、僕はユキを守るだけで精一杯だ。

 早く立って走り出さないと……。

 気持ちばかり焦るが、人々の関心は足下に向けられていないようで、僕らの上を踏み、膝や足先を僕らにぶつけて、去っていくばかりだ。

 こんな状態ではユキの上から一瞬でも離れるわけにはいかない。

 僕は痛みに耐えながら人の切れ間を待つ。


 風が吹いた。


 僕の背中の上をすさまじく熱い風が通りすぎていく。

 熱風が去った後、僕が顔を上げると前を逃げていく人々、後ろに居る人々、通りに立つ建物、目に映る全てが燃えていた。

 後ろから竜の足音が聞こえる。


 僕は恐怖と熱さでパニックを起こしながらもユキを抱き、走り出す。


 辛うじて、燃えるのを避けれた少数の人たちが燃えている人の炎を懸命に消火しようとしているのを横目で見ながら僕は止まる事無く走る。

 途中、さっきの意地悪そうな奴が芋虫のように地面に這い蹲って死んでいるのを見かけた。

 ざまーみろなんて思う余裕は無かった。

 彼が僕らを転かしてくれなかったら僕らもこの集団と同じように、燃えて苦しみながら死んでいたはずだ。

 彼には感謝するべきなのかもしれない。しないけど。


 いくつかの角を越え、やっと家が見えた。

 ユキを抱えっぱなしの腕が悲鳴をあげている。

 早くメグのお母さんに返したい。

 でも、僕は今まで敢えて気にしようとはしていなかったことに気が行ってしまう。

 ここにくるまでに倒れていた人々の中に僕の知り合いや家族は居なかっただろうか。

 アレンは? メグは? 父さんや母さんは?

 そんな考えが僕の足を鈍らせる。

 腕の中のユキが不安そうに僕を見ている。


 「シド兄ちゃんどうしたの?」

 「ん? なんでもないよ」

 「お姉ちゃんやアレン兄ちゃんなら居なかったよ」

 「見てたの?」

 「見てたよ」

 「そっか」

 「うん、だからだいじょーぶだよ」


 三歳児に励まされてしまった。

 僕はそんなに不安気な顔をしていただろうか。

 頑張って笑顔を作り、家へと急ぐ。

 

 家にたどり着くとアレンとロビン、メグとシャロンがいた。

 よかった、みんな無事だったようだ。

 僕の腕からユキが降り、解放された腕に血液が巡っていく。

 安心する僕にアレンが深刻な顔で近づいてくる。


 「だれも居ないんだ」


 意味がわからない。

 なんの話なんだろう。


 「この家には俺達以外だれもいない」


 なんで当たり前の事を言っているんだろう。

 ここは僕の家で、他人が居るはず無いじゃないか。


 「俺や、お前、メグの両親が居なくなっている」


 僕は理解しないでおこうと思っていたのを辞める。

 あぁそうだ。

 この家に帰って来たときからみんなの顔が暗かったから何となくわかったさ。

 だからなんだ、僕やお前の家族は死んだっていいたいのか?

 僕は心の整理ができずにアレンに八つ当たりしてしまう。


 「じゃあどうするんだよ! 探しに戻るのか? 焼死体を一つずつ見て歩くのか?」

 「村の門で、兵たちが避難民の誘導と竜への攻撃を準備しているらしい。とりあえず門へと向かうべきだと思う」


 アレンは僕の八つ当たりをスルーしてこの先のプランを提示してくれた。

 僕はアレンに向けてしまった怒りが恥ずかしくて素直に謝れない。

 苦し紛れにアレンに意地悪な質問をしてしまう。


 「そこにみんながいると思うのか?」

 「わからない。だが、ここで戻ってくるのを待つよりは全員の生存率が上がるはずだ」


 僕はアレンに向かって小さく「ごめん悪かった」と呟く。

 アレンは気にするなと笑っていた。


 「門へ向かう」と書き置きを残し家を出発した僕らは竜と遭遇する事もなく、スムーズに門へと到着した。

 門の前には百人ほどの兵が隊列を組んで赤い竜を待ちかまえている。

 兵士達の装備はバラバラで、中には明らかに一般人にしか見えない者やまだまだ幼い子供達も混ざっている。

 その異様な光景を前に、門の手前で立ち止まっていると、一人の兵士がやってくる。

 入隊希望か探し人かと訊かれ、僕らは探し人だと答える。

 門から見て、隊列を組んでいる兵のかなり向こう、村の外側に設けられた、ただの広場に案内される。

 そこは泣いてる人や、抱き合って再会の喜びを分かち会っている人で溢れていた。

 僕らはその中を探してみたがここに両親達の姿は無かった。

 両親達が僕らを置いたまま村から出ていく可能性は低いと思う。

 僕らだけならまだしも年少組もいるし、なおさらだ。

 だけど、ここに居ないということはまだ村の中にいるか、もしくはもう……。

 メグが隣で泣きそうなのを我慢しているのか、唇を思いっきり噛みしめていた。

 僕はかける言葉を見つけられない。

 それでも必死で言葉を探していると、僕らを案内してくれた兵士が優しい笑みを浮かべ近づいてくるのが見えた。


 「君たち、愛しい人をあの竜に殺されたのかい?

 そうなら一時的に入隊して共にあの忌々しい赤竜を討伐しないか?

 武器は支給されるし、前線は正規兵で固めてあるから後方から弓で撃つだけだけどね。

 言葉通り、一矢報いるチャンスだよ!」


 こんな時になんなんだろうコイツ。

 メグの顔みて空気読めよ。

 あぁでもそうか、さっきみた一般人や子供達はこうやって誘われて入隊したんだろう。

 悪いけど僕はゴメンだ。

 まだ家族が死んだと決まったわけでもないし、あの竜の暴れっぷりをみたら戦いたいなんて全く思わない。

 横目でアレンを見るとやる気に満ちた顔をしていた。


 「俺は志願しよう」


 アレンはそう答え、僕の方を期待の眼差しで見つめてくる。

 いや、僕は行きたくないです。

 え、でもこれ断ったらメグに臆病者と思われちゃうかな……。

 どうしよう。

 僕が悩んでいると、ロビンがアレンの服の裾を掴みながら小さく消えそうな声を出す。


 「兄ちゃん……行かないで……」

 「俺は母さんや父さんの敵をこの手で討ちたい」

 「僕、ママもパパも兄ちゃんも居なくなったら……」


 ロビンは泣き出してしまう。

 さすがにアレンもロビンの訴えを無視できなくなったのか、兵士に「やっぱり行けない」と告げた。

 兵士はそれをあっさり了承し、今度は僕の方を見て訊いてくる。


 「君は入隊するかい?」


 やばい。この流れで兵士が去っていってくれると思って油断した。

 断る為の言い訳がまだ浮かんでない。

 竜が怖いのでなんて言えないし、どうしよう。

 兵士を見る、目に力が入る。

 僕の沈黙と態度を、覚悟を決めていると受け取ったのか兵士が「ではこちらへ」なんて言って僕を入隊させようとしている。

 まずい。まじでやばい。やだやだ戦いたくない。どうしよう。どうする。

 僕は考えながらも仕方なく兵士について行こうと歩き出す。

 大丈夫、向こうに着いてからやっぱ辞めますとか言えばいけそうだ。いけるかな……。


 数メートル進んだ所で後ろから悲壮感たっぷりの絶叫が聞こえる。

 ユキの声だ。


 「シド兄ちゃん! 行っちゃダメ! 行かっないっで……」


 振り返ると大泣きし、顔中を涙と鼻水まみれにしながらユキが僕の元へ駆けてくる所だった。

 僕にはユキが救いの神に見える。

 兵士に「すいません。やっぱり僕も無理です」と伝えると兵士は少し残念そうな顔をして去っていった。

 僕はユキを抱き上げ、服の袖で顔をきれいに拭いてやる。

 僕らがみんなの所に戻るのと同じタイミングで前方の兵士達の方からざわめきが聞こえてくる。

 待合い所に案内役の兵士がやってきて、全員にすぐさま逃げろと告げ、去っていった。


 竜がきたのだろう。

 僕らは逃げずに森の中に隠れて両親がやってくるのを待つことにした。


 僕らの目の前で戦いが始まる。

 竜の唸り声が上がり、兵士達の怒号が飛ぶ。

 竜の口が大きく開かれ、炎が飛んでくる。

 最前衛の兵士達が下がり、盾を持つ兵達が前へでる。

 村人の命を燃やした炎が凄まじい熱量で、今度は兵士の命を燃やそうと迫る。

 しかし炎は、数十人の盾兵に当たり、兵達の命を燃やすことなく消滅する。

 兵達の士気が上がっているのが僕らまで伝わってくる。


 あの盾は魔法道具マジックアイテムなのだろうか。

 かっこいい! 欲しい!

 僕と同じ事を思ったであろうロビンがアレンにわくわくしながら強請っている。

 「あれいくらぐらいするんだろうな」なんて言ってるアレンも欲しそうだ。


 後方の即席の兵士達から赤い竜へと無数の矢が放たれる。

 しかし燃えるような赤い竜鱗に弾かれたのか一本たりとも竜へと刺さってはいない。

 竜は再び前に出てきている槍を持つ兵士達に向かって炎を放つ。

 轟音とともに迫る炎は再び盾兵により防ぎ、消滅させられる。

 赤い竜はこの世の全ての生き物が怯えるような唸り声をあげ、三度目の炎を放つ。

 今度の炎は大きい。

 視界いっぱいに吐き出された炎が、全ての物を焼き尽くすような威圧感を伴って迫ってくる。

 その炎に対処するために陣形が動く。

 盾兵が前方で横に広がり、槍兵がその後ろへ身を隠す。

 盾兵へと炎が迫り、消滅する。

 もう何度も目にした光景だった。

 そう、今回もそのはずだった。

 僕もアレンも、メグさえもが盾の性能に惹かれていた。

 でも今回は消滅した炎のすぐ後ろに赤い竜の顎が続いていた。

 炎で視界を塞がれていたせいで、誰一人として竜の接近に気づいていなかった。

 盾兵の一人が赤き竜の口の中へと消え、空いた陣形の隙間から四度目の竜の炎が放たれる。

 炎が後ろに詰めていた兵達を焼き尽くす。

 たったその一撃で勝敗は決した。

 兵達の列の中央へ突撃した竜は、手当たり次第に兵の虐殺を始めた。

 竜の足に踏まれた兵は一瞬でただの肉塊へと変わり、暴風のように振り回される尻尾に触れた者は肉片を飛び散らせ絶命していく。

 哀れにも鉤爪に捕まった兵は大きな声で命を乞い、泣き叫んでいたがそれが聞き入れられることは無かった。

 後方に居た即席の兵達は武器を捨て、一目散に逃げ出したが連続して放たれる炎にその身を焼かれ、物言わぬ炭と化した。


 僕らはその光景に魅入られていた。

 目の前で起こっていることに現実味を感じられない。

 僕は悪夢でも見ているんじゃないかと思った。

 熱風が僕らを通り過ぎ、生物の焼ける臭いで我へと帰る。

 少しずつ小さくなる悲鳴が、目の前で起きてるのは悪夢なんかじゃない現実だと叫んでいるように聞こえた。


 幸いにも、僕らは隠れていたおかげで未だ竜に存在を感知されていないようだ。

 このまま竜をやり過ごして、近くの町まで逃げよう。

 町まで行けばなんとかなるはずだ。

 僕がそんな風に思ったとき、竜と目が合う。

 全身を恐怖に支配される。

 指先一つ動かせない。


 だめだ。竜がこっちへ向かって歩き出す。

 だめだ。僕は動けない。

 だめだ。頭の中を、僕らが竜に喰い殺されるイメージで塗りつぶされる。

 竜が一瞬だけ門の方を向き、僕の視線が外れる。

 僕の体からは汗が止めどなく流れている。

 だめだ。だめだ。だめだ。考えろ。考えろ、考えろ。


 目の前でメグが死ぬのは見たくない。

 責めて、メグと子供達だけでも逃がすべきだ。

 できることなら全員で逃げたいけれど、僕の頭の中ではそれができるイメージがわかない。

 メグと子供だけならなんとかなるかもしれない。

 僕とアレンが囮になればその隙に……。


 アレンとメグに、メグと子供達を逃がすための作戦を短く伝え、アレンと二人で竜の目の前に飛び出す。


 竜はもうすでに近くまで来ている。

 近くで見るとやはりでかい。

 でも今更ビビったりはしない。

 震える膝を押さえつけ、しっかりと竜を見据える。

 ビビってる訳じゃない、武者震いだ。

 そう自分に言い聞かせる。


 後ろでメグと子供達が移動を開始する音が聞こえる。

 竜にその音や気配を悟られないように、僕は大きな声を出して、アレンと共に走り出す。

 竜を中心に円を描くように、メグ達からできるだけ竜を引き離せるように、声を張り上げながら必死に走る。

 竜は僕とアレンを追いかけてくる。

 よし、成功だ。


 僕とアレンはそのまま門の方へとひた走る。

 もしかしたらこのまま村の中へと戻れれば、僕とアレンも逃げきれるかもしれない。

 門まであと少し……。

 振り返ると竜が唸り、火球を放つのが見えた。

 火球が僕とアレンへと飛来する。

 僕らは走りながら全力で横に飛び、地面を転がりながらそれを回避する。

 火球が門の少し手前、何もない地面に着弾し爆発を起こす。

 土と熱を飛び散らせた後、炎が消える。

 着弾地点には深く抉られ焼け焦げた地面だけが残る。


 僕は擦り切れた腕と足の痛みを耐え、思う。

 なんだこれ。

 遠くから見ていた時は、回避する事に専念すれば何とか逃げ切れそうなどと思っていたが近くで見て、認識を改める。

 逃げる? 絶対無理。

 僕の心はたったの火球一発で折られてしまった。

 地面に転がったままの僕の頬を涙が伝う。

 隣でアレンが立ち上がる。


 「ここは俺に任せて逃げろ」


 顔だけ動かしてアレンを見る。

 アレンは剣を構え、まっすぐに竜を見据えている。

 僕の頭の中に炎に包まれるアレンのイメージが流れる。

 このままじゃアレンが死ぬ。

 そんなのはダメだ。

 僕の足に力が入る。

 立ち上がり、剣を構えアレンの隣に並ぶ。

 深く息を吸い、吐き出す。


 「アレン一人に格好つけさせるわけにはいかないかな」

 「死ぬぜ。シド」

 「アレンと一緒に死ぬならしょうがないよ」


 僕の言葉をアレンは鼻で笑う。


 「ま、俺とお前であのクソったれな竜神を倒せば一気に英雄だな」

 「いけそう?」

 「無理だろうな」


 僕とアレンは共に笑い、同時に覚悟を決める。

 無駄死にじゃない、アレンが小さくそう呟いたのが聞こえた。

 あぁそうだ。僕らが竜の気を惹いている時間だけメグ達の逃げる時間が稼げるんだ。

 僕は精一杯の勇気を振り絞り、剣を構える僕らを興味深く見ている竜を睨みつける。

 せめて眼力ぐらいは勝ちたいところだ。

 しかし竜と視線が合わない。

 僕らじゃなくて、後ろを見ている……?


 「いや~、いいね~青春だね~」


 僕らの後ろ、門の方から聞きなれた声が聞こえた。


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