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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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試合の終り、戦いの始まり

 目の前に浮かぶ魔法陣がゲイルの拳を止めていた。

 つまり、僕の負け。

 目の前で止まっているこの拳、その一撃を受けていれば僕は死んでいた、と言う事だ。

 でも……そんなの、頭では解っていても納得できない。

 ゲイルが拳を下げ、笑顔を浮かべ僕に告げる。


 「ま、俺の勝ち、だな」


 その声を聞いて、心の叫びが口からそのまま溢れていく。


 「ああああぁぁぁぁぁくっそおおおおおおお!」


 膝から地面に崩れ落ちる。

 体に力が入らない。

 そんな僕とゲイルの間に、闘技場のオーナーが割り込むようにして入り、ゲイルの手を取って大声で叫ぶ。


 「勝者、ゲイル!」


 一瞬の間を置いて、観客の割れんばかりの拍手と歓声が響く。

 あんなただの殴りあいでも、楽しかったようだ。

 負けた僕にも「よくやったぞ」とか「いい勝負だった」とかの声がかけられる。

 けれど、そんなのどうでもいい。


 僕は負けたし、負けた奴の主張することはやっぱり間違ってるってことだ。

 だから僕の考えてること、思ってることは間違いで、ゲイルさんの言うことが正しいって事なんだ。

 でもそうしたら世界で一番強い人の言うことが正しくて、それ以外は全部間違いって事か?

 いや、それは違う……と思う。

 だって世の中にはいろんな事を考える人がいるし、その人々の中には矛盾すること立ってあるはずだ。

 その矛盾する人たちの両方が間違いなら、何が正解だ?

 まぁ世の中にはどっちも間違いって事がよくあるし、どっちも正解ってこともある。

 だからきっと僕の強い方が正しいって考えは間違いなんだ。


 僕がそんな事を考えて自己正当化をしながら、闘技場のスタッフに案内されて歩き、闘技場の中と外を結ぶ通路の途中にある選手控え室に入ると中にはメグが居る。

 え、メグも試合? などと一瞬思うけれど、そんなことは無い。

 メグは僕に手を当て、回復魔法を使ってくれる。


 「大丈夫?」

 「うん。メグも試合?」


 僕はそうじゃないと、わかっていながらそう聞いてしまう。

 そんな僕にメグは笑いながら答えてくれる。


 「え、違うよー」

 「じゃあどうしてここに? 学校は?」

 「生徒のほとんどがこの試合見に行くとかで、学校は急遽休みになりました」


 おぉ……それは、なんというか……。

 あれ、じゃあメグの学校の生徒達にも、僕の無様な負けっぷりを見られてしまったのだろうか。

 なんか、ごめん。

 と、思ってから僕は気づく。

 メグは試合見たのかな?

 控え室に居るってことは、見てない? 僕の負けっぷりも見られてない?

 気になる。


 「メグはどうして控え室(ここ)に?」

 「あー……私が来たときにはもう人がいっぱいで、入れなくてね」

 「選手の知り合いだからって入れて貰った?」

 「ううん、そんなことしないよ」


 メグが笑う。

 その笑顔を見ているだけで心が癒されていく。

 会話しながらも回復魔法をかけ続けてくれているおかげで、僕の体の傷や怪我はもうほとんどない。

 メグが笑って話を続ける。


 「でね、外から音だけでも聞こうかなって思ってたんだけど、どうにも居るのは熱心な龍神教の人ばっかりっぽくて」


 龍神教……少し気になる。

 最近ではかなり過激に活動しているらしいが、そんな奴らもこのイベントを見に来たのだろうか?

 僕が考える間にもメグの話は続いていく。


 「ちょっと怖いし、仕方ないから帰ろうとしたらミラが出てきて“何をしている”って聞いてきたの」


 あぁ……なるほど。

 後は想像できる。

 関係者なんだから特等席で見ていろとか言って、無理矢理にここに連れてきたんだ。

 でもこの部屋に居たんじゃ、試合は見れない。

 そしてメグの話は、僕の想像と一緒だった。


 ミラはあれで、最後の詰めが甘いんだよなぁ……。

 だから団長補佐なんて役職まであるし、しかも一人じゃなくて二人……。

 あの三年前の事件でジェミールさんが死んでからは、団長補佐はゲイルさんだけだけど、僕もサポートできるところはしているし、各団員もそれぞれ各自で色々なことをやっている。

 などと思っていると、メグの話はまだ続きがあった。


 「でね、私がここで待ってると、スタッフの人が“あそこから見れますよ”って教えてくれたの!」


 メグの言うあそことは、通路の事だろう。

 つまり、僕はメグに負けるところを見られていたって事か……。

 その現実に少し落胆する僕にメグは言う。


 「でも、ごめんね。ぜんぜん見れなかったの」

 「なんで?」

 「見に行ったらいきなり砂埃がモワモワ~! って来たから、急いでここに戻ってきたの!」


 ……なるほど。

 土煙起こしておいて良かった。

 あんな……あんな無様な負け方見られたくない。

 僕が安心すると同時にメグからの回復魔法が終わる。

 回復が終わった様だ。

 小首をかしげながらメグが聞いてくる。


 「どう?」


 僕は腕を回したり、飛び跳ねたりして体の調子を確かめる。

 めちゃくちゃ調子が良い。


 「ありがとう。メグのおかげで最高だよ」


 僕のありがとうの一言でメグの顔が赤くなる。

 めちゃくちゃ可愛い。

 ここが家ならこのまま押し倒していた。

 間違いない。

 というか、ここでもキスぐらいなら許されるんじゃないだろうか。

 うん、僕らのほかには誰もいないし、これはメグへの労いだ。

 だから大丈夫のはずだ。

 僕の顔がメグに近づき、二人の唇が触れる。

 甘い空気が流れ、僕は幸福感に包まれていく。

 あぁ、このまましばらくこうしていたい。


 部屋の外から凄まじい爆発音が聞こえ、メグが弾かれたように僕と離れる。

 午後のイベントが始まったのだろうか。

 それにしてもすごい音だ。

 文句の一つでも言ってやろうと思い、ドアを開けると音はさらに大きくなった。

 身が焼けるような熱風が吹き、それに乗って人々の悲鳴、逃げまどう足音が聞こえてくる。

 外からは龍神教の教徒達による歓声が響く。

 ……なんだ?

 なにが起きている?

 僕はメグに待っているように言い、通路から中と外を確認する。


 闘技場の中ではミラが観客席に向かって指示を出しているし、外では逃げだそうとしている観客と中へ入ろうとしている教徒達でぐちゃぐちゃになっている。

 ……わけがわからない。

 なんだよ、なにが起きてるんだよ。

 でも僕がすることは決まりだ。

 教徒が中に入ってきた場合、メグをこのまま部屋に残すのは危険だ。

 僕はメグを連れて、ミラと合流するために闘技場の中へと走る。

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