操作魔法・4
――速攻だ!
僕の右手に握られている剣が至近距離にいるゲイルさんへ向かっていく。
ゲイルさんはそれを易々と避け、後方へと跳び下がる。
跳び下がった距離は、槍の攻撃圏内。
僕の首へ三叉槍が向かってくる。
左手で《引力》を発動させ、槍と大盾を繋ぐ。
僕の首を狙っていた槍は軌道を変え、僕の大盾へと当たる。
ゲイルさんは三叉槍で大盾を何度も突きながら、僕へと喋りかけてくる。
「朝の話だけどよぉ!」
「はい!」
「お前なぁ、強敵を前にしたとき戦えっていったか? 言ってないよな?」
「でも、僕は戦えると思ったんですよ!」
言いながら、《引力》を解除して大盾でゲイルさんを払うように振るう。
この大盾には【重量軽減】が付与されているため、見た目の割に重さを感じず、振るうことができる。
同時に《斥力》を発動、ゲイルさんを弾く。
これで観客には僕が大盾でゲイルさんを押しただけに見えるはずだ。
こんな不特定多数に僕の能力を公開するつもりはない。
ゲイルさんは僕の《斥力》によって、数メートル下がる。
そしてそれは槍の攻撃距離では無くなった事を意味する。
僕は大盾を地面に突き刺し、体を隠す。
やることは一つだ。
地面に手を当て、最大のパワーで《斥力》を発動する。
《斥力》によって僕と反発する地面が逃げ場を求め、空気中へと一気に舞い上がる。
舞い上がった土は土煙となり、観客からの視線を遮る。
――ここで決める。
僕に、観客の盛り上がりを気にしてどうこうするつもりはない。
まぁ戦闘開始前にいろいろやったけど、アレはアレ、コレはコレだ。
視界ゼロの土煙の中、《引力》の紐を飛ばしてゲイルさんの位置を探る。
……居た。さっきの位置から動いていないようだ。
僕の出方を窺っているのだろうか。
好機だ。
なにもせずに《引力》を解除し、僕とゲイルさんの間の土煙を、すごく弱い力の《斥力》で、ほんのりと薄くする。
これでゲイルさんから僕の大盾を視認できるはずだ。
僕からもぼんやりとゲイルさんの姿が見える。
大盾に身を隠し、大盾から手を離す。
《引力》と《斥力》を使い、大盾を立てたままゲイルさんの方へ進ませる。
それと同時に僕は大盾の陰をそっと抜けだし、左からゲイルさんの後方へと回り込む。
ゲイルさんが大盾へ向けて吠える。
「最後の魔法が失敗してたら全員死んでたんじゃねーのか? あ?」
大盾と槍がぶつかる音が前方から聞こえてくる。
《引力》と《斥力》を巧みに操作し、大盾を少し下がらせる。
ゲイルさんは下がる大盾へと、体を伸ばし、槍で追撃する。
その動きにあわせ、大盾を操作し、横に回転させる。
大盾の後ろが露わになり、なにもなく、そして誰も居ない空間が披露され、大盾の裏に誰も居ない事に驚いたゲイルさんの動きが止まる。
それは僕の狙い通りで、その姿は……。
――隙だらけだ!
僕は地を蹴り、後方から間合いを一気に詰めて斬りかかる。
「でも……できたでしょ?」
言葉とともに剣を全力で振るう。
狙うのは首だ。
首なら一撃で障壁が出現するはずだし、そうなれば……僕の勝ちだ。
だけど、僕の剣は空を斬り、僕はつんのめってタタラを踏んでしまう。
――まずい。
そう思うと同時に、僕は反射的にその身を前方へ投げ出して地面を転がる。
間一髪、さっきまで僕の頭があった位置を三つ叉の槍が通り抜けていく。
――あっぶねぇ!
地面に転がったままの僕へ、槍の追撃が来る。
起きあがる時間は無い。
僕は無様にも地面を芋虫のように転がり続け、振り下ろされる槍の雨を躱していく。
苦し紛れに剣を投げるけれど、たやすく躱されてしまう。
避け続けること数回、僕は悟る。
このままじゃ、次の一撃は避けられない。
なら、どうするか。
簡単だ。避けかたを変えればいい。
僕は上半身を起こす。
僕の胸のあった位置に槍が突き刺さる。
よほど力を込めたのか、槍の先がほとんど地面に埋まっている。
やばい。マジやばい。
あんなの食らったら一撃で負ける。
ゲイルさんが槍を引き抜くのに手間取っている隙に、僕は起きあがる。
だけど、どうする?
僕は武器を持っていない。
素手で槍と戦う? そんなのはごめんだ。
悩んだのは一瞬、だけどそれは明確な隙になってしまう。
ゲイルさんは槍を放棄し、僕に蹴りを放ってきた。
悩んでいた僕はそれを避けられず、もろに食らって吹っ飛ばされてしまう。
吹っ飛ばされ、地面に倒れ込む僕に、少し離れた位置からゲイルさんが語りかけてくる。
「おまえなぁ……、できなかった時は死んだ時だぜ?」
僕は起き上がり、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
口の中が切れたようだ。
血と同じように、吐き捨てるように反論する。
「その時は、まぁしょうがないですね」
「なら、今すぐ死ね」
ゲイルさんが殺気を放ち、槍から電撃を撃ってくる。
全力の《斥力》を前面に展開して、電撃を逸らす。
観客席へと飛んでいった電撃が観客を襲い、観客席で致死防御の魔法陣がいくつも出現する。
やばい、まじでやばい。
土煙はいつの間にか晴れてしまっているし、そんな状況で能力を使いたくないけれど、出し惜しみしていたら負ける。
僕は《引力》で、大盾と剣を引き寄せて、構え直す。
ゲイルさんは槍に魔力を充填しているのか、動かない。
僕は思う。
負けても死ぬわけじゃないし、たかだか三年の修行で勝てるほど甘いとも思ってない。
それでも……それでも、僕は負けたくないと思ったし、負けるわけにはいかない。
負けたら僕の主張はただのガキの遠吠えだ。
ここで勝利して、初めて主張できる物だ。
だから絶対に僕は勝たないといけない。
僕は今から本気で、目の前のゲイルさん、否、ゲイルを倒す。




