操作魔法・3
団長の秘蔵っ子、特務隊のシド対イケメン団長補佐ゲイル、世紀の一戦、本日正午より開戦。
そんな歌い文句に誘われてやってきた市民と騎士団の兵士達で闘技場の観客席は埋め尽くされている。
僕が闘技場へと足を踏み入れた瞬間、大音量の拍手が鳴り響き、人の多さを実感する。
さらに拍手の音は闘技場の外からも聞こえてくる。
闘技場に入れなかった市民が闘技場の周りで、音だけでも聞こうと周囲を囲っているらしい。
右手に持つ銀色の剣と、左手に持つ僕の体を全部隠せるサイズの大盾をしっかりと構え直し、闘技場の中央までゆっくりと歩いていく。
ここで観客に向かってアピールでもするべきなのだろうか。
目の前を見ると三つ叉の槍を持つゲイルさんが観客に向けて両手を振っていた。
僕もそれにならって両手を振る。
拍手と歓声が一際大きくなり、僕とゲイルさんが中央へたどり着くと一斉に静かになる。
闘技場のオーナーが僕とゲイルさんの間に立つ。
オーナーの横には檻に入れられた小鬼が置かれ、拍手と歓声の大きさに恐怖したのか、その身を震えさせている。
オーナーは拍手が鳴りやむのを待って宣誓を行うようだ。
普段は、専属の司会進行人が居るらしいんだけど、このイベントに立ち会いたくてオーナー自らでてきたらしい。
なんというか……ミーハーな人だ。
拍手が小さくなり、オーナーが宣誓を開始する。
「えー……これより、臨時のイベントマッチを開催します!」
観客の歓声が再び響き、オーナーが笑顔になる。
「本日、我々を楽しませてくれるのは、我らの町を守る騎士団の団長、その秘蔵っ子、シドォォォオオオオ!」
僕は観客に向け、雄叫びをあげる。
キャラじゃないし、ちょっと恥ずかしいけどこの空気感は嫌いじゃない。
僕の雄叫びに答えてくれるかのように歓声が響く。
その歓声が消えない内にオーナーが続ける。
「そしてぇぇええ、騎士団が誇るイケメン! 団長補佐のぉぉぉぉおおおおおお、ゲェエエイルゥゥウウウ!!!」
ゲイルさんが観客に向けて、優しい微笑みで手を振る。
僕の時とは違う黄色い歓声が響く。
黄色い歓声に混じって、「そのイケメンをぶっ殺せ!」とか聞こえてくるのは気のせいだろう。
「これより、《致死防御》の結界起動確認を行います。両者、武器をお願いします」
オーナーはそう言って、手を出してくる。
僕はオーナーの言葉に従い、剣を差し出す。
ゲイルさんも同じように三叉槍を差し出している。
僕らから武器を受け取ったオーナーが、檻の中にいる小鬼に向かい、僕の剣を振るう。
小鬼の前に魔法陣が現れ、僕の剣の一撃を防ぐ。
同じ事がゲイルさんの三叉槍でも行われ、僕の剣の時と同様に魔法陣が現れ小鬼への攻撃を防ぐ。
「結界の起動を確認しました」
僕とゲイルさんにそれぞれ武器が返却され、オーナーがルールの確認をしてくれる。
「えー……禁止事項はありません。お互いに、攻撃を行い相手に致死防御陣を出現させれば勝利となります」
「時間は?」
ゲイルさんが訊く。
制限時間は大事なルールだ。
ゲイルさんは、闘技場の盛り上げかたを熟知している。
恐らく、終了時間十分前ぐらいに一番の大技を放ってくるはずだ。
……それまでに決めるしかない。
オーナーが若干焦ったように、説明してくれる。
「制限時間は午後の部の開始までの一時間となっております。なお、今回の戦闘で負った傷、怪我等は当闘技場では保証できませんのでご了承ください」
「よし、了解した」
「僕も大丈夫です」
僕とゲイルさんの返事を受け、オーナーが頷く。
「では、これより戦闘開始!」
オーナーが叫ぶように開始を宣言した。
僕とゲイルさんの戦いが始まる。




