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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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ロビン・6

 そこかしこで燃え続けている有角蠅の死骸のおかげで洞窟の中は明るく、角蠅王の姿を確認するのは簡単だ。


 黒く大きい体、凶悪に伸びた角、堅そうな外殻。 

 その見た目は先人達が角蠅王と形容したのも頷ける出来だ。


 倒せるだろうか?

 というか本当に炎系魔法に耐性があるのか?


 とりあえず、火槍を撃ってみる。

 最短詠唱で放った火槍が吸い込まれるように角蠅王に当たる。

 だが、当たっただけだ。

 燃えあがりもしなければ、その体に傷一つさえ、つけた形跡はない。

 ……まじで?

 オレに残っている魔力は少ない。

 ぶっ倒れるの覚悟で放ったとして、攻撃系魔法を撃てるのは残り三発と言ったところだろう。


 角蠅王が大きな羽音を響かせる。

 衝撃波を起こそうとしている……のか?


 「しゃがめロビン!」


 シドの声で、しゃがむオレの頭上をアリサが飛び越えていく。

 アリサの手甲から伸ばされた刃と角蠅王の角がぶつかり合う。


 「こっちに来い。僕に考えがある」


 シドの側に近づくと、作戦を聞かされる。


 「あいつは虫だ。そして虫なら恐らくあれが苦手なはずだ」


 ……なるほど、それならいけそうだ。



 角蠅王の意識がアリサに引きつけられているうちに、作戦の第一段階、氷雪世界アイスワールドの詠唱を開始する。

 詠唱が進み、オレたちの周りの温度がぐんぐんと下がっていく。

 寒い。

 洞窟の中の至る所が凍っていく。


 寒さに耐え、なんとか詠唱しきる。

 吐き出す息が白い。

 アリサと角蠅王を見ると両者共に動きが鈍くなっている。

 どうやら角蠅王も寒さが苦手なようだ。

 シドはなぜそれを知っていたんだろう。

 疑問が浮かぶが、オレは作戦の第二段階へと進む。

 アリサに向かって補助魔法、燃焼体質化ヒートボディを詠唱する。

 寒さに震えながら戦っていたアリサがその額から汗を流す。

 どうやら成功のようだ。

 あとはアリサに任せるしかない。

 オレは魔力枯渇寸前で痛む頭を押さえ、少し離れた位置から戦いを見守る。


 寒さで動きの鈍くなった角蠅王に対し、汗を流すほど体の温まったアリサ。

 その動きの差は歴然だ。

 アリサの刃が角蠅王の角を躱し、その体を斬りつけていく。

 だが、角蠅王の体に少し傷が付く程度で、刺さることは無く、致命傷になりそうな気配もない。

 それならと角蠅王の動きを躱し、後ろに回りこんだアリサが狙うのは唯一柔らかそうな羽の付け根だ。


 「でやあああ!」


 叫びと共に刃が角蠅王に迫る。

 羽の付け根に刃が刺さる寸前、角蠅王は羽ばたくのを止め、地面に落下することでその一撃を回避した。

 躱されたことによってバランスを崩したアリサ。

 たたらを踏みながらも、致命的な隙をつくってしまうのだけは何とかこらえたが、再び飛び始めた角蠅王の角によって逆にアリサの刃が折られてしまう。


 金属音を響かせながらアリサの刃が地面に落ちる。

 アリサの顔が般若に変わる。


 「こぉんの、クソ虫があああああ」


 あぁ……あれ高かったって言ってたもんね……。

 切れたアリサの猛攻が始まる。

 やばい気配を感じ取ったのか角蠅王が天井近くまで飛び上がる。

 その程度でアリサが逃がすわけない。

 同じ高度までジャンプしたアリサが角蠅王を殴りつける。

 角蠅王の体に魔法陣が浮かび、爆発が起きる。

 爆発の衝撃が収まる前にさらに殴る。

 地面に降りながらも空中でさらに殴り続ける。

 その拳は止まることなく、振るわれ続ける。

 技術も何もなくただ殴る。


 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。


 爆風で両者の姿が見えなくなり、爆発の衝撃音だけが聞こえる。

 しばらくして手甲に内蔵されていた魔力が切れたのか、爆発音が止まる。

 爆風が晴れ、姿を現す角蠅王とアリサ。

 肩で息をしているアリサ。

 さっきまでと変わらぬ姿形の角蠅王。

 効いてない……?

 絶望感が溢れ出す。

 そんな……。

 もう撤退だ。

 撤退しかない。


 角蠅王が地面から浮かび上がる。

 シドが叫ぶ。


 「僕が抑える! その間に逃げ――」


 シドの叫びを遮るように角蠅王が大きな羽音を響かせ、衝撃波を放つ。

 すぐ近くでもろに衝撃波を浴びたアリサが吹っ飛ぶのが見える。

 洞窟の壁に打ち付けられ、アリサが頭を垂れ動かなくなる。

 角蠅王が羽音と共に飛び上がり、アリサへと向かっていく。

 とどめを刺すつもりだ。

 思うと同時にオレの足は駆けだしている。

 そんなことさせない。

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