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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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ロビン・3

 洞窟の前に立ち、目的の場所であることを確認する。

 岩壁にぽっかりと開いた穴からは独特の腐敗臭と共に微かに蠅の羽音が聞こえてくる。

 中はかなり深い様で外からそのすべてを見ることは不可能だ。

 ここが、有角蠅の巣で間違いないだろう。


 洞窟に入る前に魔物図鑑を開いて情報を頭に叩き込み、アリサとともに装備を整えていく。

 いつもと変わらない行為。

 大丈夫、オレはやれる。


 「注意点は?」


 装備品の最終確認をしながら聞いてくるアリサに、魔物図鑑を読んで返事をする。


 「頭の角、速度、硬さ」


 簡潔に答え、漆黒のローブを身に纏い、魔石のついた杖を握る。

 アリサの「了解」の声と共に洞窟へと足を踏み入れていく。


 洞窟の中の空気は少しひんやりとしていて心地いい。

 独特の臭いが鼻につく。


 「臭い」


 アリサの気持ちに素直な発言を無視して進む。

 そんな事オレに言われたってどうしようもないだろ。


 曲がりくねった道を少し進んだだけで洞窟の外、森の音が聞こえなくなった。

 代わりに聞こえるのは蠅の羽音。

 この先にかなりの数の有角蠅が居るようだ。


 洞窟内部の道の左右に無数の穴が開いている。

 そっと覗いてみると壁面がテカっている。

 なんだ……?

 目を凝らしてよく見てみる。

 テカリの正体に気がつくと同時にオレの全身に鳥肌が立つ。

 テカリの正体は、壁に張り付く無数の蠅だ。

 気持ち悪い……。

 それぞれの個体はさほど大きくないが、この数がすべての穴の中に居ると思うとぞっとする。


 僕を押し退けて小部屋を覗いたアリサが小さな悲鳴をあげる。

 虫嫌いなのに、大声で叫ばなかっただけ、スゴいのだろうか……?


 アリサのおかげで冷静になったオレは頭の中で魔物図鑑の情報を思い浮かべる。

 弱点は何だったっけ。


 有角蠅ブブブ・ブブ・ブブブ――頭の頂点に一本の角を持つ体長三十~五十センチの大型の蠅。

 弱点は炎。

 

 そう、炎だ。

 小さな声で詠唱し、小部屋の中に炎の渦を発生させる。

 炎の発生と共に小部屋の中の有角蠅が一気に飛び立つ。

 凄まじい羽音で空気が振動する。

 だがそれも一瞬で、羽を焼かれた有角蠅がボトボトと小部屋の中に落ちていく。


 細胞の焼ける臭いがたちこめ、オレの幼き頃のトラウマが鎌首をもたげる。

 兄の死、お父さんお母さんの死。

 目の前の景色が歪みかける。

 アリサに肩を掴まれ、意識が覚醒する。

 危ない。

 今は戦闘中だ。

 トラウマなんて後だ。

 アリサに「大丈夫だ」と伝えると優しい微笑みで返してくれるアリサ。

 あれ、こいつこんなに優しかったっけ?

 そんなオレの思考は、一気に膨らんだアリサの頬によって中断させられる。

 すいよせられていくオレの視線。

 アリサの口からあふれる液体が、オレの胸から下に一気にぶちまけられる。

 途端に立ちこめるゲロの臭いにオレの胃袋が反応し、オレの口からも同じ様な液体が溢れる。

 ……最悪だ。


 炎の気配とゲロの臭いに反応したのか、道の両側に並ぶ無数の穴からカサカサと虫達が蠢く音と気配が感じられる。


 口の周りに付いたゲロを手で拭う。

 どうする。

 ここで戦う?


 アリサを見ると同じようにゲロを手で拭っている。

 その目にもはや生気は感じられない。

 そんなに虫が無理なら何でついてきたんだよと思うけれど、今さらそんなことを言ってもしょうがない。


 穴から飛び出し、這い出てくる有角蠅が見える。

 撤退だ。

 それしかない。

 アリサを洞窟の外に置いて、オレ一人でやるべきだ。

 目の前に土の壁を出現させ、道を塞ぐ。

 出現させた壁の向こう側に有角蠅がぶつかる音が聞こえてくる。


 アリサの腕を取り、担ぐようにして歩きだす。

 クッソ……なんでこんな事に……。

 魔物の攻撃を受けたわけでは無いというのに……。

 どうしてオレが……。

 下を向く様な体制になったことで、服についたゲロの臭いをかがされてしまう。

 臭い……。

 臭さに耐えながら歩いていくとアリサが泣き出す。


 「ごめんね……」

 「ほんとに」

 「虫ムリだった……」

 「ほんとに」

 「……ごめんなさい」

 「いいよ別に」


 不機嫌さを堪えきれないオレはやっぱり子供だな……。

 反省しよう。


 「ううん、オレもゲロ吐いたから一緒だよ」


 アリサがオレの発言で笑う。

 そうだ、オレたちはパートナーだ。

 オレが失敗したとき、アリサは責めなかった。

 オレも許すべきなんだ。

 それに、群れは壁で閉じこめた。

 後は炎魔法で殺すだけだ。

 大丈夫。


 他愛のない話をしながら歩き、洞窟の出口に近づいた時、オレの右側の壁がいきなり崩れて部屋が現れる。

 驚き固まるオレに、その部屋の中に居た一人の男が声をかけてくる。

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