ロビン・2
ぬかるむ地面を踏みしめ、落ちている小枝を踏み割り、目の前に垂れ下がる枝葉を払って歩く森の中。
湿度は高く、気持ちの悪い汗で体がべたつく。
そろそろ一度目の休憩をとろうかと思ったとき、アリサの大きな悲鳴が森に木霊した。
「いやあああああああ」
アリサの方を見ると芋虫がアリサの顔の前にぶら下がっていた。
顔面蒼白で固まるアリサ。
もう……メンドクサいなぁ……。
芋虫を手で払い、アリサに声をかける。
「虫居なくなったよ、早く行こう」
「もうイヤ! 虫いっぱいじゃん! 帰りたい!」
半泣きの顔でそう主張するアリサ。
仕方ない……。
「そっか、わかった。ありがとう。これ、報酬ね」
アリサの手を取り、今払ったばかりの芋虫を乗せてやる。
一瞬で全身に鳥肌をたてたアリサが目を大きく見開いて後ろに倒れた。
くくく、さっきの仕返しだ。
しばらくして意識を取り戻したアリサの攻撃を躱しながら森の中を進んでいく。
もう! ここは魔物の住む森なのに、アリサったら~。
森の中をわいわい騒ぎながら歩くオレたちの前に小鬼の群れが現れる。
数は五体。
そのうちの一体は、隊長なのか少し後方で短い咆哮を上げている。
それぞれが手に棍棒のような物を持ち、オレ達の前方を塞ぐように立ちはだかる。
真剣な顔に戻ったオレは奴らを観察する。
薄い布切れを身に纏っただけの粗末な装備。
武器は木の塊、棍棒。
……そんな物で勝てるとでも思っているのだろうか。
醜悪な生き物の癖に……目障りだ。
オレが考えている間にも小鬼達がじりじりと距離を詰めてくる。
オレは判断しなければいけない。
魔法で一気に殺すべきか、それとも無視して逃げるか。
目障りな奴は殺すべきだ。
よし、殺す。
一気にいく。
炎だ。
よし、いくぞ。
決意するオレの横から、なにかが飛び出していく。
オレが魔法で殺そうと決めて詠唱を開始するよりも数瞬早く、アリサが一人で距離を詰めてくる群れに突撃し、踊るように次々と小鬼を殴り倒していく。
殴られた小鬼に魔法陣が浮かび、発光して爆発を起こす。
瞬く間に四つの爆発が起き、胸から上が存在しない四つの死体ができあがる。
爆発の隙間を縫うようにして隊長の前に到達したアリサの手甲から刃が伸び、隊長の小鬼が驚き目を大きく見開いた瞬間、その頭が胴体から切り離され、血飛沫をあげる。
アリサが返り血を浴びながら、笑顔で振り向く。
「これスゴいよ! ねぇ見た!? どーんずばばばだよ!? これスゴい!」
スゴいスゴいとぴょんぴょん跳ねながら喜ぶアリサを見てるとなんだかオレも楽しい気分になってくるから不思議だ。
小鬼達の死体を炎魔法で焼き捨てて洞窟を目指し歩き出す。
上機嫌のアリサは大きな声で歌いながら歩いている。
そんな大声で歌ったら魔物が寄ってくるじゃないか……。
「あのさ、アリサ? そんな大声だしたら魔物が寄ってくると思うんだけど」
「なんで?」
「大声、魔物、くる」
オレの説明がわかりにくかったのかと思ったから、簡単に説明してやったのにそれでも「なにか問題でも?」みたいな顔をしてやがる。
……あぁ、クソ。違うな。アリサは魔物を集めたいんだ。で、手甲を試したいと……。
オレがその答えにたどり着くとほぼ同時に小鬼の群れが木々の間から出てくる。
既に囲まれているようだ。
なんてこった。
でも、そうか。大声で居場所を知らせていたんだ。
待ち伏せするなんて造作もなくできることだろう……。
でも、そうするならオレたちの実力を計ってからやるべきだったな。
ニヤケる口元を押さえられない。
目の前の小鬼に向かって飛びかかろうとしていたアリサを制止し、炎の魔法を詠唱して周囲一帯を一気に焼き払う。
火達磨になり、転げ回って死んでいく小鬼ども。
踊り狂うように死んでいく小鬼を見て思う。
オレの前にでてこなければ死なないのに、何故でてくるのだろうか。
さらに何度か小鬼達と戦闘を繰り返して森を抜け、目的の洞窟へと到達する。




