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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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第十一話 目覚めと朝食

 ベッドの感触を体で感じ、ゆっくりと目を開ける。

 ぼやける視界に、見慣れない天井が映る。

 少し気だるさの残る頭を起こし、周りを見回す。

 ここは……貸してもらってる兵舎の部屋の様だ。

 窓から見える空は明るく、青空が広がっている。

 僕は理解する。あぁ……現実だ。

 夢ではない。

 僕は現実に帰ってきた。

 昨日までの記憶が一気に甦る。

 父さんの、母さんの、アレンの、皆の死が思い出され涙が溢れてくる。

 声を出さずに静かに泣く。

 僕以外には誰もいない部屋に静かな泣き声が木霊する。

 ベッドのシーツに小さな染みが出来ていく。


 しばらくして部屋の外から賑やかな声が聞こえてくる。


 「だーかーらー、私のせいではないと言っているだろう!」

 「そんなのおかしいよ! だってミラが何かしたからシドが倒れたんでしょ!?」

 「だから違うって! 何回も言ってるけど、私が君たちに害を加えるわけないだろ?」

 「それはそうだけど……だって、シドに“死んでもか”って言ってたじゃない!」


 声から想像するにおそらくミラとメグだ。

 僕の事で言い合いをしているのだろう。

 メグが心配してくれていて嬉しいが、ミラが責められていてちょっとかわいそうだ。

 これは出ていって大丈夫と伝えるべきだろう。

 体を起こし、涙をシーツで拭う。

 扉が開き、二人が入ってくる。

 メグと目が合う。

 時が止まったかのように二人の動きが止まる。


 涙拭いてたの見られた……?

 やばい、泣き虫と思われるのは避けたい。

 無理矢理に笑顔を浮かべるが頬が突っ張り、ぎこちない笑顔になってしまう。

 メグが僕に向けて走って飛び込んでくる。

 ベッドに座った姿勢のまま受け止めるが、メグの勢いに負け、押し倒されてしまう。

 僕の上にのしかかるように抱きついてきたメグからいい匂いがする。

 メグの匂いを堪能する僕に、メグが早口で一気に色々聞いてくる。


 「良かった~! 超心配したんだからね! 痛いところ無い? 大丈夫? お腹空いてない?」

 「あ、えっと、うん。大丈夫」


 メグの顔が近い。

 目が合う。

 顔が、唇が、ゆっくりと近づいてくる。

 息がかかる。

 え、えっと目って閉じるんだっけ?

 わからない。

 見つめ合ったまま僕とメグの距離が――。


 「あ、あー……」


 距離がゼロになる寸前の所で、ミラの声がする。

 メグの動きが止まり、その顔が急速に離れていく。

 僕の上に跨ったまま、メグが振り返り、ミラを見る。

 表情に若干の気まずさを滲ませたミラが横を見ながら言う。


 「その、なんだ。あー……えっと……。そう言うのは少し早いんじゃないかな?」


 ミラの顔が赤い。

 メグの顔も赤い。

 なんだか恥ずかしくなってきた僕は夢の中でアレンに会ったこと、言われたことをミラに伝える。

 ミラの顔が真剣な物に変わり、僕に問う。


 「それでシド、お前はその力で何がしたい」


 僕は……。僕がしたいことは決まっている。


 「僕はメグを守りたい」


 ミラが僕の言葉に微笑み満足気に頷く。


 「使い方を教えてやる。今から修練場へ行く――」

 「ダメ!」


 メグがミラの言葉を遮り、抗議する。


 「ダメだよ! シドはまずご飯食べなきゃ!」


 ミラが笑い、食ってから来いと言い残し、部屋を出ていく。

 出ていったのを見届け、足音が聞こえなくなるとメグが僕に覆い被さってくる。

 甘い匂い。

 優しい感触。

 僕はメグが好きだ。



 食堂に移動してご飯を食べながらメグと話をする。

 これからのこと、僕が倒れてから何があったのか、兄弟達のこと、ロビンのこと。

 メグはそれぞれの話で表情をころころ変える。

 笑顔、泣くのを我慢してる顔、真剣に考える顔。

 そのどれもが僕には眩しく映る。


 食堂を出る。

 兄弟の所へ戻ると言うメグと別れ、修練場へと向かう。

 修練場は広い体育館の様な場所だ。

 地面は舗装されておらず、土の上を屋根と壁で囲いました! みたいな出来の建物だ。

 その中では、あちこちに人の形をした木のマネキンがおかれており、兵士達がそれぞれ訓練している。

 近くにいた休憩中の兵士に、ミラの場所を訪ねると、隅の方の小さな一角に居るという。


 言われた場所に近づくと、高さ三メートルぐらいありそうな土の壁に囲まれた一角が目に入る。

 土魔法で作ったのだろうか。

 入り口っぽい切れ目から中を覗く。

 ミラが仁王立ちで待っている。

 僕を見つけたミラが怒る。


 「遅い!」


 あ、あぁ……うん、ごめん。

 なんて言えばいいのか困る僕にミラが続ける。


 「フン、まぁいい。早速始めるぞ。まずはこれを動かせ」


 ミラが剣で指したのは、手のひらに収まるサイズの小石だ。

 これを動かす? 手を使わずに、力で動かせって事だよな?

 僕は左手をその小石に向け、小さく声も出しながら「来い、来い」と思う。

 ついつい目を閉じてしまうが、目を開けても閉じても小石はピクリとも動かない。

 ミラが小さくないため息をつき、言う。


 「まったく……アレンを思い出すよ。いいか? イメージだ。その石にどうなってほしいかイメージしろ」


 どうなって欲しいって?

 うーん……動いて欲しい?

 空中に浮かんで、僕の手のひらにスポッって感じに出来たらカッコいいかな。

 頭の中にその光景が浮かぶ。


 大きく息を吸い、少し溜めてから吐き出す。

 左手を突き出し、右手で左腕の肘を掴んで支える。

 足を肩幅に開き、腰を少し落とす。

 手のひらを小石に向け、頭に浮かんだ映像を現実に投影する。

 小石を見つめる目に力が入っていく。


 左の手と小石の間に透明のもやもやが見えてくる。

 なんだこれ。

 邪魔だなと思い、左手でそのもやもやを掴み、引っ張る。

 もやもやに引っ張られるように小石が勢いよく回転しながら僕に向かって飛んでくる。


 「痛っ!」


 小石は僕の額にぶつかり地面へと落ちていく。

 あまりの痛さに思わず声がでた。

 恥ずかしい。

 血が出ているような気がして思わず額を触るが、血なんて出ていない様だ。

 恥ずかしい。

 というか、勢いよく飛んで来すぎだ。

 急になんなんだよ。

 あの、もやもやが力なのか?

 もう一度、足下に落ちた小石をじっと見つめる。

 再びもやもやが見え、それを真っ直ぐ上に引っ張ってやると、小石は僕の目の前まで飛びあがってくる。

 今度は僕にぶつかることなく、落下を始める小石。

 それを空中でキャッチし、ミラに見せる。


 ミラは驚いた顔で僕を見ている。

 僕の内心に「お前まさかこんな早くに使える様になるなんて!」と言われる未来が見える。

 ニヤニヤが漏れない様に気をつけながらミラの言葉を待つ。



 「おい……お前……。額から血でてるぞ」


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