表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
10/48

第九話 懺悔

 「死んでもか?」


 夕焼けに染まる団長室の中にミラの声が響く。

 兵舎に戻り、強くなりたいと頭を下げた僕に、ミラは訊いてきた。

 ミラの真剣な声に僕とメグに緊張が走る。

 死ぬというのは比喩ではないのだろう。

 それでも僕はメグを守る為に力が欲しい。

 僕は、ミラを睨む様に視線を合わせ、答える。


 「それでも、です」


 ミラは僕の答えを聞き、フッと息を漏らす。


 「……いいだろう。左手を出せ」


 僕は言われるがまま、左手を出す。

 ミラにその左手を握られる。

 握手……?

 そう思ったのは一瞬で、ミラの左手から僕の左手に何かが流れ込んでくる感覚に襲われる。

 魔力……だろうか?

 魔法を使えない僕にはわからないがそういう系統のものだろう事は想像ができる。

 これで魔法を使えるようになったりするのだろうか。

 そんな魔法の修得方法は聞いたことがないが、騎士団ともなればそういう方法も知っていたりするのだろうか。

 と、他愛もない事を考えていた僕の思考は左手から全身に流れる激痛で中断される。

 流れ込んできた何かが体の中で暴れ狂っている感覚。


 「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 思わず声が出る。

 ミラの手は既に離されている。

 床にうずくまり、声にならない声を発し続ける。

 全身を駆け巡る激痛に視界が歪む。

 耳鳴り。寒気。吐き気。頭痛。

 体の至る所が不調を知らせる。

 自分自身を抱きしめるかのように両腕を体に回す。

 歯を噛みしめて耐えようとするが、顎に力が入らない。

 歯は小刻みにぶつかり合い、音を鳴らすだけだ。

 喉からは絞り出すような声にもならない音が漏れる。

 息ができない。

 視界が暗くなり、狭まっていく。

 僕は、死ぬのだろうか。


 漆黒の闇に塗りつぶされていく世界の中でメグが不安そうな顔をしているのだけがわかった。




 目を開ける。

 視界に広がるのは全てを覆う暗闇。

 その中に一台だけ置かれているモニター。

 僕はそのモニターを見ている。

 そして僕は気づく。

 これはこの世界に来てから幾度となく繰り返し見てきた夢だ。

 僕が夢だと認識すると同時にモニターに映像が表示される。

 モニターに映し出されるのは前世での記憶。

 幼少期から始まり、僕が死ぬ高校生までの後悔の記憶。

 あの時こうしていれば、ああしていれば、あれをしなければ……そんな後悔の出来事が目の前で繰り返されていく。

 もうやめてくれ……。

 僕の思いなんて関係なく映像は進み、僕はそれから目を背けられないまま映像は終わる。

 僕は現実での覚醒に備えるが、僕は目覚めない。

 この夢で、初めてのパターンだ。

 いつもなら高校生の僕が死に、目覚めるはずなのだが……。

 僕の目はモニターを凝視している。

 なにが起きるんだろう。

 僕は不安と期待でモニターを見続ける。

 モニターに映像が映る。

 僕は目を反らそうとするが、体は動いてくれない。

 モニターに映るのは残酷な現実だ。


 ダンおじさんの死。

 アロンおじさんの死。

 ビビおばさんの死。

 父さんの死。

 母さんの死。

 メナおばさんの死。


 アレンの死。


 アレンがいつの間にか僕の隣に立っている。

 血塗れのアレンが言う。


 「お前のせいだ」


 「違う!」


 僕は叫び、アレンを振り払う。



 目を覚ます。

 息が荒い。

 悪い夢でも見ていたのだろうか。

 枕元に置いておいた携帯を手に取り時刻を確認する。

 午前八時五分。

 頭の中で今日の時間割を確認する。

 一限目は数学だったはずだ。

 今から用意してたら遅刻は確実だ。

 でも|佐々木(数学の先生)ならごまかせるはず。

 僕はベッドから抜け出し、部屋の扉に手をかけ、開ける。

 血塗れのアレンが立っている。


 「逃げんなよ。お前のせいだぜ」


 「うわ、うわあああああ」


 情けない悲鳴をあげ、僕は逃げまどう。



 世界が暗転する。

 口から出るのは力無い鳴き声。

 僕は赤ちゃんになっている。

 自分の姿は見えないが、僕にはそれがわかる。

 自由には動かない体を動かし、周囲を確認する。

 懐かしい部屋だ。

 扉が開き、母さんと父さんが入ってくる。

 二人とも若い。

 母さんが僕に何かを話しながら、僕を抱き上げてくれる。

 あったかい。

 すごく安心する感じ。

 近くなった母さんの顔を見る。


 アレンだ。

 母さんじゃない。

 僕はアレンに抱かれている。

 アレンが口を開く。


 「逃げるなって言ってるだろ?」



 目を閉じ、開ける。

 僕は暗い森の中に立っている。

 息が荒い。

 周りの木々が燃えている。

 早く逃げないと。

 そう思うが足は動かない。


 僕は考える。

 逃げる? なにから?

 僕はなにから逃げてるんだ?


 燃える木々に囲まれ、立ち尽くす僕の前にアレンが現れる。

 僕とは反対を向いていて表情はわからない。


 火球が飛来し、アレンに当たり、爆散する。

 頭が、手が、足が、バラバラになり、飛んでいく。

 僕の右頬にアレンだった肉片が、湿った音とともに張り付く。

 肉片が蠢き、僕に語りかけてくる。


 「……熱い。……痛い」


 僕はパニックを起こし、肉片を払い落とそうとして気付く。

 僕は誰かと手を繋いでいる。

 誰だ。

 顔を見る。

 メグ。メグだ。メグがいる。

 メグは不安そうな表情を浮かべながらも僕の手を強く握り、震える声で「大丈夫」と言ってくれる。

 僕はその声で少し落ち着きを取り戻す。


 なにをやってるんだ僕は。

 僕はメグを守らなければいけない。

 覚悟を決め、僕はアレンに告げる。


 「もう逃げない」


 景色が変わる。

 森の広場に僕は立っている。

 目の前で向かい合うアレン。

 アレンが木剣を僕に向け、口を開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ