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復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~  作者: 西尾 彩子
復讐の剣 ~僕はくそったれな竜を殺す~
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プロローグ

 酸っぱい臭いを放つ吐瀉物で汚れた細い路地を通り、一軒のボロ家の中へ入る。

 乱雑に家具が配置された部屋の中を手早く進み、情報通りに本棚の裏にあった隠し階段から地下室へと身を踊らせるようにして進入していく。

 右手に騎士団支給の剣を、左手には特注の僕の全身を隠すことが出来る大盾を持っている所為で階段を下りる作業は苦手だ。


 少し苦労しながら階段を下りきると小さな木製の扉が一枚、この世とあの世を遮る様に立っていた。

 僕は躊躇うことなくその扉を開け放つ。同時に僕の鼻を肉の腐るような異様な悪臭が突き、思わず蛆虫に集られた死体の山の隣に立っている錯覚を起こして足下をふらつかせてしまう。

 

 僕は顔の周りを覆う悪臭を僕の能力である<斥力>によって弾き飛ばす。

 と、同時に目の前に悪臭の原因と思われるゴミ屑――通称『死体喰らい(デッドミートイット)』――の一団が居るのを見つけた。

 部屋の中で新鮮な――先ほどまで生きていたと思われる――人肉を貪るゴミ屑どもが侵入者である僕を見つけ、その目に喜びの色を浮かべる。

 新しい死体を見つけた様な気にでもなっているのだろうか。

 ゴミ屑どもの思考は分からない。恐らく言葉も通じない可能性が高い。

 僕は交渉を早々に諦める。というか、コイツ等と交渉する気なんて元から無かった。

 ここが“アタリ”なら奪って始末するし、外れなら始末する。

 ただそれだけだ。


 僕の殺意に反応したのか、ゴミ屑どもがそれぞれの手に形や大きさの異なる刃物――剣やナイフ、刀だ――を握り、僕の元へと雄叫びをあげながら突進してくる。

 僕はその全ての刃物を眺めた後、溜め息を吐き出す。

 どうやら、ここも外れの様だ。父さんの黒刀はここにもない。

 外れと分かればここに用はない。さくっと終わらせよう。



 一番最初に僕の元へと飛び込んできた哀れなゴミ屑の一つが、手に握るナイフを突きだす。

 その動きは速く的確で、大盾での防御は間に合わない。

 僕は<斥力>を発動させてナイフを上方へと弾き、その軌道を逸らす。

 そしてゴミ屑の首に僕の剣を突き立てて、その命を絶つ。


 その一連の動作の間に剣を持つゴミ屑が左側から突っ込んできていた。

 僕へと向けられた剣の切っ先に焦ることなく、二つ目の能力である<引力>を発動させて勢いよく、ゴミ屑の握る剣を引っ張る。

 これで剣使いはバランスを崩し、僕の目の前へと倒れるはずだ。

 だけど急な引力の発生によって焦ったのか、ゴミ屑の手から剣が抜け、僕の方へと飛んでくる。

 僕の予測と違う現実に起こった現象に、僕は焦ってしまい右手から迫ってくる敵を放置してその剣へと対応する。


 剣に働きかける力を<引力>から<斥力>に切り替えて剣を元の持ち主へと返す。

 ただし、返却先はその胸だ。返却された剣がゴミ屑の胸を貫通し、その後ろに控えるように迫ってきていたゴミ屑の命をも同時に散らせる。

 そして僕の右側に迫ってきている刀を持つゴミ屑の方へと意識を戻す。

 刀が僕へと迫ってくる。

 僕は騎士団支給の剣でその攻撃を受け止め、打ち合う。

 金属と金属がぶつかり合い、火花が散る。

 他のゴミ屑は巻き添えで死んだり怪我をしたりするのが嫌なのか、後ろで見守っているだけで戦闘に参加してこない。

 僕には理解不能だけど、コイツ等にはコイツ等のルールがあったりするのかもしれない。


 そして僕は何度も打ち合いながらじりじりと後退していく。

 後ろに下がる足が階段に当たり、僕は笑う。

 僕の笑いを何と勘違いしたのか、刀を持つゴミ屑が唸り声と共に上段高く構えた刀を振り下ろしてくる。

 僕へと迫るその刀をもつゴミ屑に<斥力>を放ち、強制的に僕との距離を作りだす。

 刀が僕の鼻先を掠め、地面へと当たって硬質な音を響かせる。

 その音を聞きながら僕は大盾を正面に構えてその後ろに身を隠す。

 頭の中に残りの敵の位置を思い浮かべる。全員分思い出せることを確認し、僕は再び笑う。

 よし、準備は終わりだ。


 僕は大盾から手を放す。

 そして大盾に<斥力>を発動する。

 発動された<斥力>によって大盾が壁へと向かって飛んでいく。

 飛んでいった大盾が壁とぶつかって、湿った音(・・・・)を立てた。

 そして僕は大盾に<引力>を発動し手元に引き寄せ、方向を変えて再び<斥力>で壁にぶつけ<引力>で回収する。

 その作業を何度も繰り返していく。



 全てが終わり、僕以外に立つ者の居なくなった部屋でこのゴミ屑共の飯にされた無惨な肉を見て思う。

 もし、僕があと一時間早くここに着いていたら助けられたかもしれない。

 僕の胸中を“あの時”と似た後悔が満たしていく。その後悔に飲まれる前に僕は頭を振って、その可能性を否定する。

 助けられた可能性は確かにあるし、僕にはそれを実行出来るだけの力が“今は”ある。

 でもこの目の前にある肉へと変わった人物を僕は助けなかったわけではないのだ。

 そう、“あの時”とは違う。

 あの時の“何もしなかった”とは違うのだ。

 僕は自分に言い聞かせるようにして、その部屋を後にする事にした。

 下りと違って苦労する事なく階段を上り、ボロい家を抜けて薄暗い路地に出る。

 僕は悪臭から解き放たれた快感を全身で表すように深呼吸を繰り返す。

 肺を薄暗い路地の空気が満たし、また吐き出されていく。


 僕は足を踏み出す。

 まだ目的は達していない。

 父さんの黒刀を取り戻す事、そしてあのクソッタレな竜を殺す事。

 その二つの目的が今の僕を動かしている。僕はまだどちらの目的も達成していない。

 その事実は僕を無性にイラつかせた。

 今し方出てきたボロ家の壁を、力の限り、感情の赴くまま蹴り飛ばす。

 壁の一部がぶち抜かれて、穴があく。

 だけどそんな事で僕のイラつきが解消されることはない。

 僕の頭と感情の熱が高まっていく。


 僕が次の破壊行動を起こそうとするのを見透かし、僕の熱を冷ますかのように路地裏に冷たい風が吹き込んでくる。

 そして僕の前へとちぎれた一枚の紙が飛んできた。


 どうやらボロボロになった新聞の一部らしい。

 僕はその紙切れに描かれた文字を見てしまう。

 そしてあの日々の記憶がフラッシュバックする。


 僕にとって思い出したくない過去。

 思い出さなければいけない過去。

 その二つが混ざり合う日々へと僕の意識は流れていく。

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