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短編(洋もの)

権力格差に愛は勝てるのか

作者: 月鳴

すごく自由に書いてます。あとタイトルそんなに言及できてないです。でもとても楽しく書きました。


 それは突然のことだった。

 私がこの国の王子様と婚約すると決まったのは。


 小さな地方領主の父は男爵で母はその隣の領地の子爵家令嬢だった。王都からはさほど離れていないけれど貧富の差ははっきりしていて、 ああしかし決して我が領地が食うにも困るほど逼迫しているわけじゃない。

 相手は国の顔というべき王都なのだから、差があって当然なのだ。

 ともかく話を戻すと、その小さな田舎町を治める地方領主で最も爵位の低い男爵家の娘である私が、何故か王子直々のご指名で婚約者になったのだった。

 正直言って意味がわからない。

 釣り合っているのは年齢差くらいのものじゃないか。向こうは御年十八歳の青年で、私は今年十六になる。

 身分は元より、かの王子様は大層な美貌の持ち主で花も恥じらうだとか美姫にも勝るだとかそういう華々しい噂をよく耳にした。

 会ったことがないので、本当かどうかは知らない。市中を巡る絵姿には確かに花や美姫にも劣らない美しい青年が描かれていたけれど。


 一方私はといえば、趣味は領民とともに行う農耕作業(収穫期がもっとも楽しみ)や遠駆けなんかが好きないわゆるお転婆娘で、白ければ白いほど良いとされる肌はこんがり小麦色。

 とてもじゃないが七難は隠してくれそうにない。

 髪も珍しくもなんともない茶色だし、唯一美点を上げるとすれば母譲りのマリンブルーの瞳だろう。

 これは昔、もう顔も覚えていない誰かに「宝石みたいに綺麗な瞳だね」と褒められてから私のセールスポイントであり、自慢のチャームポイントだ。

 貴族は位が高いほど見目麗しいとされている。その証拠に王族の皆様や公爵家各位は匂い立つような美形揃い。まあ私が実際に見たことがあるのはうちの領内を視察された先代の公爵様くらいのもので、それももう随分昔のことなんだけれど。

 我が家も一応爵位を持つ貴族だから、平民と比べれば多少はその法則に従っているけれど平民にだって美しい人はたくさんいる。そんな人と比べられたら私なんてひとたまりもない。

 向こうが宝石ならば、私は路傍の石同然だ。


 さて長々と語ってきたが要するに私は王子様と婚約、ひいては結婚など畏れ多くて、……いやはっきり言おう。


 ───無理だ、耐えられないそんな異常事態。




 ここで一つクイズをしましょう。

 私は今、どこにいて、誰と何をしているでしょーか!

 全部がわからなくても構いませんよ、答えは一つから承ります。


 チ、チ、チ、チ、チ、チ、


 ターイムアーップ!! 時間切れです。


 正解は…………『王宮で、噂の王子様と優雅なお茶会(ティータイム)』でした!



 でしたじゃねーわ! あ、いやだわおほほほ。貴族令嬢ともあろう私が汚い言葉を使ってしまうなんて。うん、元からそういう性格じゃないけれども。

 そうです。私はただいま伝家の宝刀「現実逃避」を使用している最中でして。

 私の目の前にはきんきらりんという音が聞こえそうなくらい眩しくて神々しい王子殿下その人がにこにこと楽しそうにこちらへ話しかけてきているのです。

 あーあー何も聞こえない。


「ねえ、聞いてる?」


 アッハイ。聞いてます。


「ふふっ声に出てないけど、なんとなくわかったよ」


 コエェー…! 口に出てないのにわかるとか王子は人の心が読めるのか?


「君はなんでも顔に出るから」


 納得の理由でした。前から父や母、家族だけじゃなく非常にフレンドリーな領民からも「お嬢に貴族の腹芸なんかできねえな! ガハハハ!」と言われるくらい隠し事とか向いてないタイプなのだ。

 魑魅魍魎が跋扈するという王宮で生きている王子殿下からすれば私みたいな小娘のことなど手に取るようにわかって当然なんだろう。


「………あの、」


 しかし私はそうじゃないわけで。


「何かな?」


 相変わらずにこにこと笑顔を絶やすことのない王子。


「どうして…………」


 聞きたいことはたくさんあった。どうして私はここにいるのかとか、どうしてそんなに楽しそうなのかとか、どうして私なのか。とか。

 でもどれ一つとして口から先に出てこない。緊張しているのもある、畏れ多いせいもある、それだけじゃなくて単純に怖いのだ。

 理由がわからないから。答えを聞いたとしても理解できる気がしないから。未知のものへの恐怖というのが一番近いだろうか。

 初めて馬の背に一人で乗った時、想像以上の高さが怖かった。それに似ている気がする。

 馬は慣れてしまえばなんてことはなくなった。しかし、こっちはそう上手くいくだろうか。

 相変わらず、微笑んだまま表情を変えない王子殿下がとてつもなく恐ろしいものに見えるのは、気のせいだと思いたい。


「良いよ、ゆっくりで。君が慣れるまで時間はたっぷりある」


 ふんわりと笑みを深くする王子様はそれはそれは美しいもので。庭園(※現在地、王宮の中庭)に咲く見事な花々たちも一瞬で枯れてしまいそうな(王子が美しすぎて花が絶望するレベル)見事なお顔だった。

 その様をまざまざと見せつけられた私は。


 ────なんていうか、恐怖しか感じなかったよね。底知れない何かを見てしまった気分。深淵を覗き込んだような、いやこれ以上考えるのは精神衛生上良くない。本能がそう訴えている。





 結局なんの抵抗もできないまま、私が王子様と結婚するのは遠い未来のことではなかった。


 私の瞳を褒めてくれた思い出の人が王子様だと知るのはそれよりももっと先のことである。





 愛は権力格差に勝てるのか。 終幕。


■蛇足という名の後書き


個人的には「望んだもの」のセルフオマージュ作品です。なので似てるような似てないような設定になってます。こっちは完全にギャグですが。


タイトルは王子視点の、文末は主人公視点の思いみたいなものです。

王子の場合は、己の気持ちが天と地の差ほどある身分差に勝てるのかという意味合いで。

主人公の場合は、権力差を気にすることなく、もしくは気にならなくなるほど王子へ思いを抱けるか。

そんな感じになってます。こういう意味不明な言葉遊びが好きな人間なんですすみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです!(*´ω`*)出来れば別視点や続き、内容が込み合った連載が見てみたいです! 王子「権力?問題ないよね」(ニコリ)
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