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届けられた真実

 部屋に戻ると、私はバスルームのバスタブにお湯をはり体を沈めた。

 それぞれの部屋にバスルームやラバトリーは付いていて、ちゃんと洗濯乾燥機もあり、各自の部屋はワンフロアの広いマンションのようなのだ。

 温かいお湯の中、体はゆっくりほぐれ、頭がスッキリしていく。

 朝から耳にした新たな名前を順に思い出していた。

 ペテロ、シモン、マタル・・いやいや、マルタ、それからアンドレ、えっと・・違うな、アン・・アンデレ! 最後にミイだ。

(ミイって、猫みたい・・。)

 7人がそれぞれの部屋で吹きだしていたことなど、バスタブの中の私が知る由もない。

 翌日は、予約はきっちり入っているとはいえ、さすがにゆっくりしていた。

 ただ、朝からみんなが私の顔を見ると、クスッと笑うのが気になったが、私はチーに新調してもらったエンジのリボンで髪をまとめフロアを動き、カウンターで紅茶の用意をする。

 ランチが終わりディナーまでの隙間の時間に、キッチン横やパントリーでそれぞれタイミングをはかり食事をとる。

 サンとピラフを食べているとイーがやって来て、

「サン、今ドゥエから連絡があり、やはりミイはアルビトロの監視下で光縛されているようです。」

「本当なの。」

「マルタから聞いたと言っていますから間違いありません。」

「くそぉ、なんとか会えないかな、でも、なんで戻ってなんかきたんだ。あのバカ!」

「それは分かりません。しかしドゥエが、マルタに、君に伝えたことを話したらしく、数日内になんとかこちらに来ると言ってくれたようです。彼を信じて待ちましょう、それからです。」

 サンの顔が少し落ち着き、

「信じて待つよ。イーの親友だ。嘘やごまかしは決して言わない。」

「マルタが来るの! きゃ、どうしましょ。今夜はパックして寝なきゃだめね、髪も綺麗にしなくちゃ。」

 チーがキッチンの中で跳ねている。イーは大きな咳払いをした。私は、

「あの、私どこかで待ちますので、お見えになる日が分かりましたら教えて下さい。」

 イーにそう言うと、

「その必要はありません、今、サンが言ったでしょう。彼は私達に嘘やごまかしを決してしません。だから私も彼に嘘やごまかしは決してしない。」

「大丈夫なのか、イーが信じる相手でも所詮神の子、立場が上がればいつまでも昔のままとは限らない。」

 入ってきたスウが言った、

「君がかつて人を信じたように、私が神の子を信じることはおかしいですか。」

 怖いくらい真剣なイーの顔に、さすがのスウも、

「分かった、俺も他の奴らと同じとは思っちゃいない。ただ、俺はイー、おまえを信じる。」

 イーの顔が急に緩み、

「マルタの立場を案じてくれているのですね、君は本当に優しいですから。」

「優しかない! かいかぶるな!」

 私には照れ隠しに思え、微笑むと、

「石頭女は、さっさと飯を食ってフロアに戻り、紅茶を淹れろ!」

 怒鳴って出ていった。

「分かり易いくらい、不器用な方ですなぁ。」

 サンは笑い、その後、私の方を向き、

「で、レイ、彼が来られたら、決してマタルさんとは呼ばないように。マルタさんですから。」

 私は口に頬張っていたピラフを吹きだしてしまった。

「汚ねぇな、レイ、慌てないで食えよ。チー、レイが俺の服にピラフ飛ばした、クリーニング出して。」

「自分で洗いなさい! みんな黙ってるのに。レディを傷付けるようなこと平気で言うからよ!」

「ええ、みんなって、全員にあれ見えてたの!」

 私は叫んでいた。

 イーもチーもサンも、キッチン奥のリュウまで大きく頷き、かなり落ち込む。

(だから、朝からみんな笑いをかみ殺していたんだ。私だって名前を間違わないように復習していたんだ。ああ、段々腹が立ってきた。)

「腹なんて立てないの、あなた初めて会った時より、男っぽくなってない?」

 チーに言われて驚いた、自分では自覚はないし努力しているわけでもない。

 しかし、この7人、要注意だ!

 前にイーが言ったように、考えたり思うことを止めることなど出来ない、だからもう、開き直るしかない。

 私はあらためてマルタさんのことを考えた。

 イーがあれほどまでに信頼し、スウでさえ他の人とは違うと言う神の子、そして面食いのチーがメロメロになる人物。

「チーは面食いじゃないよ、わりとオッサン好きだし。」

「誰がオッサン好きですって! 私は逞しくて男らしい方が好きなだけ。」

 チーはトングを振りながらサンに言い返す。

(どちらにしても、好きなのは男性なのね。)

 私が思っていると、サンが口を拭いフロアへ飛び出した、私も急いで続く。

「マルタはレイのことを、どう思うかしら・・」

 チーはトングを下ろすと小さな声で呟いた。

 

 翌日は、なんの動きも知らせもなく、いつもより明るく見えるサンの姿が、かえって心の焦りを感じさせた。

 次の日、ランチの忙しい時間に、イーがサンの傍にいき耳打ちをした、たちまちサンの表情が明るくなり他のみんなの顔も変わり、その様子をカウンターから見た私は、マルタさんが来られたんだと確信した。

 会いたい気持ち半分と、不安な気持ち半分が入り混じり、私ひとりが暗い顔をしていたかもしれない。

「う〜ん、いい香りですね。セイロン・ウバ、食後にぴったりの、爽やかな香りです。」

「はい、ウバ・ハイランズです。ミントのような香りが食後に合うかと・・」

(って! 誰! いつの間に私の隣りに! いつからカウンターの中にいるの!)

 横を見て叫びそうになった。

 その男性は私の口を押さえると、もう片方の手で、しぃ〜と自分の口に人差し指を立てた。

 精悍で端整な顔、短髪だが短すぎない鳶色の髪は、柔らかくウェーブがかかっていて、そう、神話の神アポロンのようだ。

「私は神ではなく神の子ですよ、初めまして、レイ。ああ、今、私の姿や声は、君達にしか見えていないし聞こえていないから安心して。ほら、スウが飛んできた。」

「マルタ! いきなり何してる!」

 カウンター越しに掴みかからんばかりの勢いだが、さすがに声はフロアに聞こえないよう抑えていた。

「挨拶ですよ、君達の仕事ぶりも拝見したかったしね。」

「実際に見なくても、おまえには見えているだろう! レイの口から手を離せ!」

「あっ、失礼。レイの叫び声は聞こえてしまいますからね。」

 イーが中から飛び出してきた。

「何をしているのです! 奥で待っていて下さいと言ったでしょう。」

 スウは、カウンターの中にきて私の腕を掴むと、

「こいつは仕事中だ。」

 フロアへ引っ張っていく。

「あの、紅茶・・」

「あとで淹れ直せ、時間が経ち過ぎている。」

 テーブルに座り食事をされているお嬢様方には、何も聞こえてはいない、焦ったのは私だけだ。

「マルタ、無理をしてここまで来てもらい申し訳なく思っていますが、皆、君だから安心しているとはいえ、神の子には神経が過敏になるのです。」

「分かっているよ、イー、特にスウは過敏ではなく嫌っている。しかし、あんなスウを見るのは初めてだ。彼の棘を抜いたのは彼女かな?」

「さぁ、私には分かりません。」

 イーは微笑んだ。

 

 ふたりは、奥の部屋で久しぶりの会話をゆっくり交わし、目的の大事な話は、みんなが揃ってからとなる。

 年末ということもあってか今夜は早めに閉めることができ、それでも普通よりは遅めの夕食に、皆がダイニングに揃う、イーの斜め横、テーブルの先に、まるで議長席につくようにマルタさんは座っていた。

「なんだか、私だけが仲間外れみたいな席ですね。」

 チーが切り分けたメインの皿を持ってきて、マルタさんの席に運ぶと、

「仲間外れだなんて嫌だわ、マルタ、私は愛情込めて作ったのよ。」

(確かに込もっている、込め過ぎです! チー。この時間に、若鶏の丸焼きは如何なものか・・。)

 サン以外はすでに、スープとシーフードサラダを見ただけでお腹が膨れていた。

(ドルチェまで、もつだろうか?)

 私はチラッとリュウを見た。

「ごめん、今日はレモンソルベしかない、レイにはディナーで残ったクリームブリュレがあるよ。」

(うんうん、ありがとう、リュウ。)

「おまえ、まさか食べるのか? 太るぞ。」

 横でスウが言ったが、私の頭の中にはブリュレの姿が浮かぶ。

 私達の様子にマルタさんは苦笑し、しかしすぐに真剣な顔になると、

「食事をしながら話す話題ではありませんが、私もゆっくりはできません。サン、今から私が知りえること、全て話しますがいいですか。」

「はい、覚悟はできています。」

 サンが答え、静かに食事が始まり、静かにマルタさんの話しも始まった。

「十日程前でしょうか、シロアムとして降りた神の子が、地上で、ボロボロのミイをみつけ、すぐにアンデレさんに報告したそうです。」

「よく、ミイと分かりましたね。」

 アールが聞くと、

「あの出来事は、天で知らぬ者はいません。神の子ならなおさらのこと。アンデレさんはすぐさまご自身がミイのもとへ降り、天に連れ帰られたそうです。」

 7人が驚いている。

「本当に、アンデレさんが自ら降りられたんですか?」

 サンは信じられないという顔で尋ね、

「間違いありません。私がアンデレさんに、直接お伺い致しました。」

 さらにみんなは驚き、

「マルタ、そこまで確認してくれたのですね。」

 イーがすまなそうに言うと、

「ここに来るなら、より正確な情報を伝えたいと思い、それには、アンデレさんに直接お伺いするのが一番でしょ。」

 優しく笑う、チーは食事もせずに涙目だ。

「実はまだ、ミイ自身の口からは何も事情は聞けていないそうです。アンデレさんがミイに触れ、ご覧になったのは、相手のギルが消え、周りから酷い仕打ちを受けているミイの姿、それだけだったそうです。」

「どういう事なんだ! ギルが消えるって? ミイはギルとしあわせになったんじゃないのか!」

 サンは立ち上がり大きな声を出した。

「落ち着け、サン、多分ギルは死んだんだろう。鬼の種族は、人よりも遥かに寿命は長いといっても、神の種族に比べれば短い。その寿命を延ばす為には、それなりの手段が必要だ。その犠牲になるのが、多くは弱い人、昔からな。ギルはそれをしなかった、だからミイは愛したんだろ。」

 スウがじっと見つめ言うと、サンは静かに腰を下ろした。

「では、なぜ光縛をしているのですか?」

 ウーが聞くと、

「ひとつは浄化させるため、そして、これは私の想像ですが、アンデレさんは、神のご指示を仰ぐことなくミイを連れ帰られた、しかも、ご自身でね。神の逆鱗がミイに落ちぬよう、先に光縛されたのではないかと思うのです。」

 話しは続き、今夜は長い夜になりそうだ。

 私はここにいなければ、おそらく死ぬまで知ることのなかった真実を、わずかの間で知った。それは知る必要のない真実なのかもしれない。しかし、とても切なく、儚く、優しい真実。

 私は、知ることができてしあわせなんだと思う。

 そしてまた、新たな真実が私の前で語られている。

 神の種族であろうミイ、鬼の種族のギル、ふたりをよく知る7人と、きっと守ろうとして下さっているマルタさん、今まさに、私にはよく分からないが、光縛と言われている手段で守って下さっているアンデレさん、どれほどの心が、寄り添い交わり今があるのだろう。

 涙目だったチーがまた私の心を見た。

「マルタ、全てを詳しくレイに話してあげてもいいかしら。」

 マルタさんは頷き、

「チー、俺が話すよ。」

 サンが言った。

「俺の話しが分かりにくかったら言って、何度でも話すから。」

 私は頷いた。

「ミイは、俺の幼なじみで同じ死神、この7人がまだバラバラで仕事をしてた昔のことだけど、俺達は仕事のない時は、時々会って一緒に遊んでた。まっ、ホントは地上で死神同士が会って遊ぶなんてのは許されていないんだけど・・ある日、ミイが怪我をして俺のところに来たんだ、事情を聞いたら悪魔狩りに巻き込まれたって・・」

「悪魔狩りって、そんなの本当にあったんですか?」

 私が尋ねると、

「あったよ、昔々ね。日本にも鬼退治ってあったんだから。」

(そうなんだ、架空の昔話じゃなかったんだ。)

「それで、俺が傷の手当をし終えるとミイは戻るって言うんだ。自分を庇って大怪我をした悪魔がいるって言って。俺は呆れて放っておけと言ったけど聞かなかった。仕方ないから一緒に行ったんだ。」

 ミイも優しい死神なんだと思った。

「酷かったよ、あれは、狩られた悪魔はズタズタにされて焼かれていた。」

 私はおもわず口を押さえていた。

「大丈夫?」

「大丈夫です。」

 チーが聞いてくれたが、続けて下さいとサンに言い、

「ミイが言ってた奴も炎の中だと俺は言ったけど、あいつまだ近くにいるって・・言い出したら聞かないから辺りを捜した。驚いた、いたんだよ木の陰に。ただ、酷い怪我で、おまけに銀の弾丸が左目にくい込んでて、それが幸いしたのも確かだけど・・もし銀の弾丸が体の中に撃ち込まれてたら命はなかった。左目は犠牲になったが、なんとか命は助かったんだ。」

「本当に銀の弾丸は、悪魔に有効なんですね。」

 私は、昔観た映画を思い出し言った。

「全ての鬼の種族に効くわけじゃないよ。それからその悪魔を連れ帰り手当てをした、今思えば、あの時連れ帰らなければ良かった。ミイは付きっきりで看病して・・心を通わせちまったんだよ。」

 サンは辛い顔をした。

「その時に、私達も悪魔であるギルと会っているんです。彼は左目を奪った人のことを恨むどころか、自分達が悪いと言っていました。そういえばあの時も、イーが幕を張っていましたね。」

 ウーが優しく話す。

 死神だけじゃない、悪魔の中にも優しい人がいるんだと思った。するとマルタさんが、

「どんなに優しい悪魔でも、彼らは鬼の種族。心をいくら通わせても、私達神の種族と交わることはない。そんなことを神がお許しになるはずもない。ふたりに残された道は逃亡しかなかった。あの時、私にもっと力があれば、イーがこんなことにならず、サンも・・」

「違うよ、マルタとイーのおかげで、俺はブラックがグレーですんだんだ。ただ、イーには迷惑をかけてしまったと今でも思っている。」

「怒りますよ、サン、今でも思っているのなら。私はあの時も今も、そんなことは一度も思ってはいません。」

 素っ気なく言っても、イーの優しさが伝わる。そしてチーが続けてくれた。

「神は、サンがふたりの逃亡を知っていて手助けをしたって、悪魔に関わったことはもちろん論外だって。いきなりブラックを言い渡されるところを、マルタとイーが神にお願いしてくれたのよ。マルタは神の子、イーは死神、だけどふたりとも神にとても愛されていたの、だからしょっちゅう神は、傍にふたりをお呼びになった。それだけに、可愛さ余って憎さ百倍、マルタにはシロアムとして過酷な仕事ばかり命ぜられ、イーにはグレーカードと、私達とともに共同生活をして、何かあれば連帯責任なんて、結局、イーが一番苦労するの分かっていて、気の毒すぎる罰をお与えになったのよ。」

 その言葉にイーは、

「私がいつ気の毒だと? 共同生活を私なりに楽しんでいるつもりです。」

「あら、ごめんなさい。だったらもう少し笑ってちょうだいよ、まぁ、レイが来てから、みんなよく笑うようにはなったと思うけど。」

「あまり笑わないのは私のキャラです。」

「キャラァ!」

 イーの言った言葉に、全員が声を合わせて驚いてしまった。

「イー、変わりましたね、良い意味ですよ。礼を言うべきかな? 私の大切な友を明るく変えてくれたことを。」

 マルタさんが私を見て笑って言った。

 みんなが笑っているのがよく分からない、確かに、イーの口からキャラなんて言葉が聞けるとは思わなかったが、するとサンが、

「ミイは今、大丈夫なの? 光縛されているのが、負担になったりはしていないの?」

 不安そうな顔でマルタさんに聞くと、

「安心して、アンデレさんが、ずっと付いて下さっています。肉体的ダメージはほぼ完治し、あとは精神的ダメージの問題です、おそらくこちらの方が深いでしょう。」

「でも、なぜギルの仲間は、ギルが愛したミイに酷い仕打ちを?」

 アールが言うと、ずっと黙っていたリュウが、

「仲間だから、違う種族と心通わせ愛し合うことが許せないんだよ。そして、仲間を奪った相手を憎む。鬼の種族だけじゃない、神の種族だって同じさ!」

「リュウ、やめろ!」

 スウが止めた。

 リュウにはどれ程の、深い傷があるのだろう。

 ウーが険しい顔でマルタさんに聞いた。

「もう、神は気づかれていますよね、きっと。光縛が解かれミイはどうなるのでしょう?神からどのような裁断がくだされると、マルタはお考えですか?」

「正直、私には分かりません。実は同じ質問をアンデレさんにいたしました。アンデレさんは、神のみぞ知ると言われた後、ご自分に任せて下さいと仰られ、私はお願い致しますとしか言えませんでした。」

(そう、光縛が解かれて・・光縛ってなんだっけ?)

 私が思うとサンが、

「また、えらく前の単語に引っかかっていたんだね、光縛は一言で言うと、光に包み込んでその光で縛ること。鎖やロープで縛るのとは違う、だから、痛かったり痕が残ったりはしない。それから、包まれているもの全てを浄化する作用があるんだ。」

 だとしたら、やはり、アンデレさんとみんなが呼んでいる人は凄い人、いや神の子なんだと思った。

 瞬時の判断で自分自身が即座に動き、先を見据えたうえで最も優しい方法で守って下さっている。

 しばらく考えていたサンが、決意した真っ直ぐな瞳でマルタさんを見た。

「マルタ、俺を光縛されているミイの所へ、連れて行ってくれないか。」

「馬鹿な! そんなことはいくらマルタでも無理に決まっているでしょう。だいいち神に見つかれば、君のブラックは確実、マルタにもなんらかの罰がくだされます!」

 イーは叱ったが、

「分かっている! 俺の我がままだ。おそらく、みんなにも迷惑かけることになる。それでも俺は・・」

「俺は前にも言ったな、グレーでもブラックでも全部引き受けてやると。マルタ、頼む、サンをミイに会わせてやってくれ。」

 スウが頭を下げ、驚くマルタさんは考えていた。

 長い沈黙に感じられたが、一瞬だったのかもしれない。

「スウ、頭を上げなさい。何が待ち受けているかは分かりませんよ。それでも、君達皆が願うなら・・サン、準備をしなさい。私が責任をもってミイに会わせます。」

「いいのですか、マルタ。」

 イーがマルタさんをじっと見つめて聞いた。

「神は命をおとりになることはない、大丈夫ですよ。私にだって浅はかながらも考えはあります。」

 マルタさんは笑った。

 

 サンは、部屋に戻り着替えると、みんなが待つリビングへ急いだ、廊下でコーヒーを運ぶチーを見ると駆け寄り、

「チー、頼みがある。俺、バタバタで出て行くから部屋がグチャグチャで・・ちゃんと片付け出来てないから・・」

「ご自分で戻って来て片付けなさい。そのままにしたら許さないんだから! 必ず、ちゃんと戻りなさい! いいわね。」

 優しく笑う。

「厳しいなぁ、チーは。」

 心を見透かされたサンは苦笑した。

 レイ以外には、きっちりふたりのやりとりは見えていた。

 リビングに入ってきたサンは、執事の服装だった、

「ほぉ〜、その格好で行くの。」

 アールが言うとサンは頷き、

「行ってきます。みんなありがとう。」

「礼は、帰って来てから言え。」

 スウが素っ気なく言ったが、心の中はみんな同じだった。

 マルタと並ぶサン、ふたりを柔らかい光が包む、サンの瞳が緋色に変わり頭からは小さな二本の角が、これが赤目族、レイはようやく知る。

 光がさらに眩しさを増した瞬間、ふたりの姿は消えた。

(どうか神様、ふたりをお守りください。いや、違う! 祈る相手を間違った! 神様には見つかってはいけないのだ。いかん、失敗。)

 レイの心の祈りに、みんなが笑っている。

(あぁ、また見られた。)

「レイには、毎度癒されますなぁ、って、サンなら言うね。」

 アールが笑う。

「明日も忙しいですよ。サンが留守の分、他のみなさんにしっかり働いて頂きます。レイ、寝坊はしないよう。」

 イーが眼鏡の奥の目を光らせ言う。

(名指ししなくても・・。)

 レイが思っていると、

「ほら、もう寝るぞ。」

 スウがレイに言い、リビングを出た。

「はい。」

 と、答え、レイが後ろに続き、その答えに皆が、ええぇ! と驚いている。

 先に扉を出たスウが、その声に慌てて戻ると皆に向かって言った。

「ば、馬鹿かおまえら! なに勘違いしてる!」

 レイには、なんのことやら、慌てたスウが不思議だった。







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