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来訪者との一日

 なんだか頭が重くて痛い。

(ええぇ! 私いつベッドに入ったの!)

 飛び起きておもわず自分の体を確認した、

「痛っ、たたた・・やっぱり頭、痛い。」

 でも服は着ている、ただし執事服のままだからヤバい、イーに見られたら叱られる。

(・・って、今何時?)

 枕元の目覚ましを見たら、9時33分。

(うわぁー! ランチの準備、完全寝坊だ!)

 慌ててそのまま部屋を飛び出すと、目の前にこめかみを押さえたサンが立っていた。

「頼むから、朝から激しく心ん中飛ばすのやめてくんない。こっちも二日酔いで頭ガンガンなんだから。」

「サン、そんな格好でまだ大丈夫なの? もう9時半過ぎてるよ。」

「レイ、昨日、イーが言ってたことちゃんと聞いてた? 今日は月曜で定休日、それに昨日はみんなかなり夜更かししてたから、朝食は各自ご自由に、だからね。俺は要らないけど。」

(そうだった、今日は定休日なんだ、どうりで静かなはずだ。でも二日酔いって死神でもなるんだ。)

「なるよ、あれだけ飲めばね。ただしここで二日酔いになるのは俺だけ、他はみんなケロッとしてるよ。イーとウーなんかいつも通り起きて自分達でコーヒー淹れてトースト食ってたよ。・・痛てて・・・」

 サンはそれだけ言うと、頭を押さえながら部屋へ戻っていった。

(サンも昨日のウーのように仕事をするのかしら? 彼だけはなんか想像できない。)

 そう思っていたら、アールの部屋の扉が開きドゥエが出てきた、

「おはよーレイ、あれ? 昨日と同じ格好じゃん、スウ、着替えさせてあげなかったんだ。僕ならちゃんと脱がせてあげたのに。」

「えっ! どういうことですか?」

(なんのこと? スウが着替えさせるって・・)

 動揺していると、昨夜のリビングの扉が開き、イーがコーヒーカップを片手に出てきた。慌てて出てきたばかりの自分の部屋の扉の陰に入りかけたら、

「慌てなくても叱りません。それから、ドゥエ、朝から誤解を招くような言葉はやめなさい、こちらは叱ります。」

 ドゥエは小さく舌を出し、

「だって、レイの反応可愛いんだもん、ごめん。イー、下のマシン使っていい? カプチーノ淹れたいから。レイも飲むでしょ。」

「かまいませんよ。ただし、レイにはちゃんとカプチーノを淹れてあげて下さい。」

 イーの言葉に私が疑問顔をしたら、

「覚えてないのですね。昨日ドゥエはレイに、アルコール入りのエスプレッソを淹れ、飲んだ君は疲れも手伝い暖炉の前で熟睡してしまい、スウがベッドまで運んでくれたのです。」

 やっと理解できた。

(眠気覚ましのコーヒーとか言って手渡したくせに、許せん!)

 ドゥエを睨んでからスウの部屋の扉を見つめ、ありがとう、スウ、と、心で思った。

「じゃ、僕は先にマシン立ち上げて、グラインダーの調整するから、レイはゆっくり着替えてから来てね、待ってるよ。」

 ウインクして降りていった、全く反省の色はない。イーは呆れてそのまま部屋に入った。

 私は急いで着替えた、ジーンズに長袖Tシャツ、フリースの前ジッパーのベストを羽織ると下へ降りカウンター前へ、やはりいたか、チーにリュウにアール、もう並んで座っている。

(あなた達聞いていましたね。)

「おはようございます。」

 挨拶すると3人は揃っておはよーと返してくれ、チーが、

「はい、ここ座って。」

 と、隣りの席をポンポンとする。

「みんなカプチーノでいい?」

「僕はカフェ・マッキアートね。」

 アールが言う、

(何それ?)

「エスプレッソに少量のミルクをいれたのよ。」

 チーが教えてくれた。

 ピッチャーにミルクを入れてからマシンのバスケットを外しチャンパーにセット、レバーを引き挽いた豆を入れる。豆の表面をドゥエは綺麗な指先で軽くならし水平にした。

 タンピングして表面を磨くと、さっと返して余分な豆を捨てマシンに正確にセットすると同時、もう、片方の手は抽出ボタンを押している。

 次の瞬間、両手はウォーマーから二つのカップをスマートにセットし、抽出状態を瞬時見ると、マシン端のスチームノズルでミルクをフォーミング、チュルチュルと音がし泡立つミルク、膨れたミルクを上下対流させバルブを閉めた。

 ドゥエはミルクピッチャーを持ちカウンターにトントンと底をあて、優しく大きく回しミルクを混ぜ泡を一体化させてから、片手にさっき淹れたエスプレッソのカップを持ち、ミルクを少し高い位置からストンとクレマの下に潜らせ、ピッチャーをカップに近づけ傾けると、表面に綺麗な白い部分が作られた。

「わぁ〜。」

 そこまでの無駄のない一連の動作に私は魅せられていた。昨日チーが言っていたことが納得できる。

 最後にシュッと表面を切るようにピッチャーを動かし、チーの前にコトリと置いた。

「どうぞ、チー、昨日は美味しいパスタをありがとう。」

 カップには白いハートが浮かんでいた、チーが喜ばないはずがない。

 続いてリュウには、ピッチャーを左右に小刻みに振り、差し出されたカップには今度は白いリーフが浮かぶ。

「はい、リュウ。リュウが作ってくれるティラミスは世界一だよ。」

「あ、ありがとう。」

(リュウ、まさか照れてる?)

 思ったとたん睨まれた・・ごめんなさい。

 私はいつの間にか頭が痛かったことも忘れ、カプチーノをワクワクして待っていた。

「レイは心を見るまでもなく、分かりやすいよね。」

 アールがリュウに言っているが、私の耳には聞こえていない。

 同じ手順で今度は大小のカップにエスプレッソを淹れると、小さいカップにまた小さいハートが浮かぶ、染みのような・・

「そっ、マッキアートは染みって意味なのよ。」

 チーが言った。

 いよいよ私のカプチーノ、同じようにハートが浮かんだ、ドゥエは小さいピックで表面に何かしている。

「はい、お待たせ、レイ。僕の心を込めたカプチーノをどうぞ。」

 白いハートにコーヒー色の矢が刺さっている。

(これを描いていたんだ。生粋のイタリア男め。)

 照れることもなく目の前で微笑んでいる。

 一応お礼を言ってからカプチーノを口にした。

(美味しい!)

 今まで飲んでいたコーヒーはなんだったんだ! とにかく美味しいのだ。

「でしょ、だって体中の愛を込めたもの。僕と一緒にいてくれたら、毎朝でも真夜中でも、いつでもレイにカプチーノ淹れてあげる。イタリアに来ない?」

「ドゥエ、ここは日本だからイタリア仕込みの口説き文句はダメよ。私のカプチのハートにも10本くらい矢を刺してよ。」

 チーがすねて言った。

(ハハハ・・やっぱりイタリア男の言葉だったか。)

 ちょっとドキリとした自分が恥ずかしい。

「僕はイタリア男なんかじゃない! みんなと同じ死神だ! だからみんなと同じ・・」

 ドゥエが悲しげに下を向いた。

「やはり何かあったんだな。」

 アールが飲み干したカップをカウンターに静かに置いて、ドゥエに尋ねた。

「誰がシロアムで来たんだ?」

 質問の意味が分からなかったが、他のふたりは理解できているみたいだ、

「ペテロ・・」

「あいつか・・シモンの腰巾着め! 何を言われたか知らないが気にするな。あいつらは元々僕達を見下し好き勝手なことを言い、相手が傷付く事などかまっていない。たいした神の子だよ!」

 アールは苦々しく言い放った。

 私は新しく出てきた名前や、何やら色々あるいきさつに、この7人、いや、今はドゥエをいれて8人の膨大な繋がりを思う。

「しかしシモンは優秀な神の子です、多分ペテロの勝手な言動でしょう。」

 いつ降りてきたのか、イーが私の隣りに腰掛けながら静かに言った。

「私にもエスプレッソを淹れてくれるかな。」

 そう言ってドゥエの淹れたエスプレッソをさっと飲み干すと、

「私達は神から命ぜられ7人共同生活をして、何かあれば連帯責任を負わされます。しかし逆に、7人が共にいることで助け合うことも出来ます、何より心強い。この7人をまとめるのは苦労も多いですが。」

 イーは苦笑いしてから、

「ただ、それ以上に、私はみんなに助けられています。」

「やだ助けるなんて、いつもイーにはしんどい事ばかりさせちゃってるわ、ごめんね。」

 チーは言った。

「君はひとりで死神としての仕事をしっかり努めています。自信を持ちなさい。誰がなんと言おうと君が言う通り、私達は同じですよ。」

 イーは、ドゥエの顔をまっすぐ見て、

「ごちそうさま、美味しかったです。」

 微笑み席を立った。

「そうそう、君は帰りに仕事があるようですね。宝箱の受け取りには、そのリストを届けた方とは違う方が来られるそうです。」

「えっ、誰が来るの?」

 ドゥエが心配そうに聞くと、イーは口の端を少しほころばせ、

「シロアムはマルタだそうです。」

 それだけ言って二階へ戻った。

「きゃ、マルタなの、良かったわね、ドゥエ、あの人はイーの親友だもの、まさかイー・・あぁ、私もマルタに会いたい。」

 チーが言い、私は、また新たな名前が出て、もうメモしても覚えられない。

 ただ、私にも分かったことは、ひとりで頑張るドゥエが何か辛くて寂しくなり、アールや温かいみんなに会いたくなりここに来て、その原因を知ったイーがきっと、親友と言われてる人をシロアムとして来てもらうようにしたんだと思った。

 もちろんどうやってとか、詳しい事なんて私には分からない。ただやっぱりみんなは温かく優しい、それだけは分かる。

「帰りに仕事って、単にここに来ただけじゃなかったのね。」

 チーが言うと、さっきと表情がすっかり変わったドゥエが、

「日本からイタリアへ向かう飛行機で亡くなる人の回収、ローマに着いてからでも可能だったけど、いっそ日本から同じ飛行機に乗っちゃえって、やっぱり来て良かった!」

 ほんとに嬉しそうだ。

(マルタさんってどんな人、いや、シロアムなら神の子なんだろう?)

「マルタは神の子だけどちっとも偉ぶらないし優しいし、もちろんとっても優秀で神からも愛されている。やがてはアンデレさんのようにアルビトロの頂点に立つわ。それに超イケメン!」

 チーは恋する乙女顔で話してくれる。

(いやいや、ここの皆様も十分イケメンですよ。って、また新しい名前・・。)

 そんなことを考えていたら背後に人の気配が、アールが後ろに立ち私の髪を両手ですくい上げながら、

「僕のこともイケメンって思ってくれてる? だったら行動で示して欲しいなぁ、レ・イ。」

 頭の痛みがぶり返してきた。

「ダメダメ、レイは僕と一緒にイタリアへ行くの。」

(いやいや、私、行くとは言っておりません。)

「おまえは仕事があるんだろ、さっさとイタリアへ帰れ! レイは僕とここで愛を育む。」

(いえいえ、育みません。あなた達、同じ顔、同じ髪、しかも今日は同じ服で人をからかうのはやめて!)

 チーとリュウが揃って大笑いしだした。

「ふたりの気持ちはレイには届きませんね、チー。」

「仕方ないわよ、レイには心は見えないもの、リュウ。」

 顔を見合わせ笑っている。

 するとチーがドゥエに、

「ところでドゥエ、時間はまだいいの?」

「うん、午後の便だから。」

「だったらランチならぬブランチにする? ミラノ風仔牛のカツレツなんていかが? 実はフォカッチャも、あとは焼くだけのとこまで出来てるの。」

「食べる! やったぁ。やっぱりチーの所に来て良かった。」

「遅いわよ、私には矢は刺さってなかったけどね。」

 まだ根に持っている。リュウも、

「ザバイオーネも少し前に冷やしているから、食後にマルサラ酒のソースを注いで食べられるよ。」

 と、笑顔で言った。

「リュウ、ありがとう。あ〜あ、ここから帰りたくない。」

「食べたらさっさと帰って仕事をしろ。」

 そう言ったが、アールの顔は優しかった。

 チーが他のみんなにも声をかけてみてと言ったので、私は先に二階へ行き、まずイーの部屋をノックした。

「どうぞ。」

 イーの静かな声に、失礼しますと扉を開けると、もう近くまで来ていて、

「今、行こうとしていました、ザバイオーネは楽しみですね。」

 私の横を通り抜けて行った。

(もう、知ってるよね。)

 チラッと見えた部屋の中は、ため息がでるほど綺麗だった。

 次は隣りのウーの部屋へ、向かいかけたら扉が開きウーが出てきた、と同時、その部屋の向かいの扉が勢いよく開きサンが飛び出してきた、

「カツレツ! カツレツ!」

(もう頭、痛くないの?)

 私が思うと、

「復活! に決まってんだろ!」

(あっ、そう、どうぞダイニングへ。)

「レイは大丈夫?」

 優しいウーが聞いてくれる、

「カプチーノ飲んで治りました。」

「ドゥエのカプチーノは凄いね。」

 笑いながらダイニングへ向かった。

 最後はスウの部屋だ、扉の前に立ち、なぜか深呼吸をしたら、バン! と、その扉がいきなり開き額をこっぴどくぶつけた。

「おい、大丈夫か?」

(大丈夫じゃない!)

 声がすぐ出ず、額を押さえながら思うと、

「見せてみろ。」

 と、スウは私の前髪をあげ額を覗き込んだ、すぐ目の前にスウの端整な顔が近づき心臓が早回りする。

「顔が赤いな、風邪でもひいたのか? 昨日ちゃんと布団は掛けたんだが。」

(やめてぇ! ますます赤面する。)

 ニヤリとスウが笑った。

(分かっていて言ったんだ!)

「これに懲りたら、これからはどこででも無防備に眠るな。この次は・・襲うぞ。」

(な、なに、その顔で言わないで!)

 笑いながらダイニングへ歩いていった。

(みんな食事のこと知ってたじゃない、もお!)

 ダイニングではサラダとスープが運ばれ、焼きたてのパンの匂いがほのかに漂う。

 昨夜同様の楽しげな喋り声、アールがイーに、

「ありがとう、イー、大きな借りができたね。」

「なんの事です。私は、貸し借りは決してしません。」

 普通に答えた。

 楽しく美味しい食事の最後、リュウのドルチェが運ばれてきた、確かザバイオーネ。シャンパングラスの中、琥珀色のソースが注がれている。

(美味しそう!)

「待て。おまえは食べるな。」

 スウが私のザバイオーネを取り上げた、

「なんでよ。」

「おまえ、俺に襲われたいわけ?」

 みんなが驚いている。

「大丈夫だよ、スウ、これくらいで酔わないよ。」

 リュウが言ってくれ、渋々スウは返してくれた。

(やったぁ!)

 しかし食後、リビングのソファーに座るスウの肩に私は頭を預け眠っていた、呆れて諦め顔のスウが、

「こいつ無防備に眠りやがって、・・本気で襲うぞ。」

 小さな声で囁いたが、私はすでに夢の中・・・。


 定休日は、みんなそれぞれ自由に過ごすが、基本的には外出しない。店以外での人との接触をできるだけ避けるためだろう。

 だいいちこの7人が連れだって街を歩いたら目立ってしょうがない。アールひとりでも十分に目立つだろう。

 私は夢の中で、みんなと旅行していた、次々現れる名所旧跡、万里の長城、オペラハウス、ベルサイユ宮殿に、イタリアではドゥエがカプチーノを淹れてくれて、またハートに矢が刺さっている。チーが文句を言って・・・


「君が絶対に襲わないと信じきっていますね、だからこんなに無防備に眠れるのでしょう。」

 突然ソファーの後ろからイーが声をかけ、驚いたスウが振り返ったので私は肩から頭が滑り、スウの膝の上に落ちた。

「君まで無防備だったのですか、珍しい。」

 イーが笑う。

 私は枕を引き寄せようとした、やけに硬い枕だ。なに? と、目を開けると誰かの膝の上、

「嘘っ!」

 飛び起きた。

「痛っ!」

 起きた勢いのまま、後頭部をおもいっきりスウの顎にぶつけた。

「痛! おまえ、肩貸した礼がこれか!」

(貸してくれたんだ。)

「ごめんなさい!」

 謝りながら硬い顎とぶつかった頭を摩っていると、

「絶対に! 次は襲う!」

(怒っている? よね?)

 私達にイーが笑いながら、

「ドゥエが帰ります、送りますか?」

「もちろんです。」

 私は答え、スウは黙って立ち上がった。

「石頭、行くぞ。」

(だから、ごめんなさい。)

 心の中でも謝った。

 下に行くと、もうみんなは揃っていて、

「どうしたの? スウ、顎赤いよ。」

 サンが笑いながら言う。

(そこに触れないで!)

 また心の中で思うと、みんなはクスクスと笑っていた。

(分かっていて聞いたんだ、サンの奴。)

「ライバルが多いね、アール。じゃ、みなさんお騒がせしました。今度は僕のとこへ遊びに来てよ、と言っても無理だよね。でもレイは大丈夫だから、来てくれると嬉しいなぁ。」

「さっさと帰れ! 飛行機に乗り遅れるぞ。」

 アールが言うと、ドゥエは抱きつき、

「最後までつれないなぁ、アール兄さん。」

 ふたりがくっつくと本当に鏡のようだ、アールはドゥエの背中をそっとさすり、耳元で、

「がんばれ。」

 小さく言った、急にドゥエが、

「そうだ! 忘れてた。」

 少し間をおき心痛な面持ちで、

「ミイが戻ってきてるらしいよ、サン。詳しくは、誰か神の子に聞かないと分からないけど、今は神のそば、アルビトロの監視下で・・」

 次の言葉に詰まった。

「光縛されているのですね。」

 イーが続け、ドゥエが頷き、一瞬にしてその場の空気が凍りついた。

「なんでそんな大事な事を忘れているかな。バカ弟!」

 アールが叱るとイーが、

「仕方ありません、ドゥエにも色々あったのですから、ミイの事はなんとか調べてみましょう。」

「ごめん、また迷惑かけちまう。」

 サンがすまなそうに言った。

「迷惑なんて思っていません。そんな顔をしない、サンらしくありません。」

「そうよ、サン、元気出して。とりあえずイーに任せましょう。」

 チーが言ったが、私は初めて見るサンの暗い顔に驚いた、ミイという名も初めて聞く。

「おまえは早く帰って確実に仕事をしろ。マルタには決して迷惑をかけるんじゃないぞ。」

「ああ、分かってるよアール。もし僕の方で何か分かったら必ず知らせるから、いつもの明るいサンでいてよ。」

「大丈夫、暗くなっても仕方ないからな。ドゥエも元気で。あんま女性を口説くなよ。」

 やっといつものサンに戻った。

「僕が女性を口説くんじゃなくて、女性が僕を口説くんだよ。最近は男性にも口説かれるけどね。」

「もお早く帰れ!」

 みんなの声が重なった。

「チャオ〜。」

 台風は過ぎ去る、新たな種をひとつ落として。

 サンは大丈夫なんだろうか? 凄く辛そうな顔に見えた。

 私が訳も分からず心配な気持ちでいたら、ウーが肩に触れ、

「大丈夫ですよ、サンは強いです。今はイーに任せましょう。今日はゆっくり休んで、明日から年内、また忙しくなりますよ。」







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