17
ヴィスは上機嫌だった。
ふかふかのベッドで二度、トランポリン遊びをし、リビングのテーブルに置かれていたドリンクを呑み干し、風呂場でクロールの練習をしていたら、あっというまに一時間が過ぎた。
ヴィスはあわてて着替えをすませ、コートを着てフロントにむかった。
トリアは、まだ来ていなかった。
ヴィスは安心し、フロントの前にあるロビーのソファーに腰かけた。ソファーも申し分なく、ふかふかだった。
ここでも、トランポリンができるな。
さっきのベッドを思い出しながら、顔をにやにやさせた。だが、ここでそんなはしたないことをするわけにはいかない。仮にもオレはエレクトリア・アンペールの従者なのだから、トリアの迷惑になるようなことをするわけにはいかない。
ヴィスはトリアに感謝している。トリアがいなければここまで、順調に話は進まなかっただろう。妙に協力的な気もするが、エレクトオートってのはそういう民族なのだろう。最初は少し機械的で不気味な感じもしたが、慣れてみると人間くさいところもあって、親しみやすい。これだったら、トンク村の鍛冶職人、オーク老のほうがよっぽど、付き合いづらい。顔もオークそのものだし。
それにしても――、
「遅いな」
ヴィスは懐中時計を取り出し、つぶやいた。
機械仕掛けってのは、時間に正確じゃないのか? そんなところは人間くさくなくて、いいんだけどなぁ。
ヴィスは懐中時計をしまい、腕を組みながら考えた。
もしかして、怒ったのかな。
晩飯まで付き合えってのは、まずかったかなぁ。奢ってもらうのも、見え見えだったしなぁ。
ヴィスは自分の図々しさに、すこし反省した。
謝ったほうがいいだろうか。こうして泊まることができるだけでも、ありがたいし……。
だが、もう少し待っていたら来るような気もする。
ヴィスはフロントを見た。トリアの姿は――なかった。まあ、どちらにしても、様子ぐらいは見に行くか。
最悪の場合、晩飯はあきらめよう。