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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
17/40

16

 ロンヌシェルト・ホテルがケーナバルトでも一、二を争う高級ホテルだということは、神殿のような外観(がいかん)を見ただけでわかった。

 各国の王族や大臣たちが宿泊するホテルらしく、カウンター(わき)の壁面に記念プレートがいくつも(かざ)られていた。もちろん、ケーナバルト二世の名前もある。

 ロビーの天井は神秘的な天空世界が描かれていて、壁面には歴史上の偉人たちの絵画が飾られていた。大理石の女神像はいまにも動きそうな姿でたたずみ、こちらに微笑みかけてくる。ロビーでくつろいでいると、まるで天界の一員にでもなったかのような錯覚に陥ってしまう。

 ふだん泊まっている安宿とは、それこそ天と地ほどの違いだった。

 ヴィスは女神像に見とれ、ふかふかの絨毯(じゅうたん)にはしゃぎながら、さきほどフロントで受け取ったルームキーを()り回しながらいった。

「あの秘書官は気が()くな。部屋を別々に取ってくれるなんて」

「同じ部屋にしてもらったほうが、目が届いてよかったのですが……」

「なんかいったか?」

「いえ、べつに」

 トリアは視線をそらした。

「それより、飯を食いに行こう。腹ペコだ」

 食事に誘われたトリアは立ち止まり、ゆっくりと首をかしげた。

「あの、ヴィス」

「なんだ?」

「私はエレクトオートなので、食事はしないと説明したはずですが?」

「聞いたよ。それがどうした?」

 逆に不思議そうな顔で聞き返すヴィスに、トリアは困惑した。

「どうして、食事に誘うのですか?」

「決まってるじゃないか? 食事の“見学”をさせてやるためだよ」

「それはありがとうございます。でも、一度きりという約束ではありませんでしたか?」

「そんな細かいことはどうでもいいじゃないか!」

 ヴィスはトリアの背中をテレ隠しに、バンバンと力づよく叩いた。

「さっきフロントで聞いたら、毒茄子を食わせるうまい店があるそうなんだ。いまから、そこに行こう」

「毒茄子? 毒を食べるのですか?」

 食事に関しての知識が乏しいトリアが、怪訝そうに訊ねた。彼は単純に毒という言葉を頭の中で検索してしまった。ヴィスが、にんまり得意げな顔つきになった。

「な、不思議だろう? ポイントは割り豆なんだ。これがまた、うまいんだ。どうだオレの毒茄子の講義を聞きたいだろう?」

「まあ、興味深い話ではありますが……」

 トリアは、なにか釈然(しゃくぜん)としないものを感じたが、ヴィスの勢いに押し切られた。

「じゃあ、決まりだ。一時間後、フロントの前に集合だ」

「……わかりました」

 トリアはうなずき、そこでヴィスからアタッシュケースを受け取ると、自分の部屋に入っていった。

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