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「いでで、いででで」
馬車に乗るなり、ヴィスは頬をつねられた。
「あに、ふんはほ!」
「いったでしょう、仕事中は勝手にしゃべらないでくださいと」
「仕事の話は終わってたじゃないか!」
トリアの手を払いのけ、ヴィスが反論した。
「そういう問題じゃないでしょう。なんの考えもなしにケーナバルト王と会って、どうするつもりなんですか? ヘタをすると私まで、牢に入れられる可能性があるんですよ!」
「な、なんだよ、ただ、会うだけじゃないか」
「いえ、あなたは絶対に、なにかしでかします」
断言するトリアに、ヴィスは舌を出した。また、頬をつねられた。
「いでで、いひゃい、いひゃい! わかっひゃ、わかっひゃから、手を放してふへ!」
トリアは手を緩め、頬を放すと、大きなため息をひとつした。
「とりあえず、謁見が終わるまでは従者でいてもらいますが、勝手な行動は、くれぐれも慎んでくださいよ」
「わかってるよ」
念を押されたヴィスは、つまらなさそうに口を尖らせた。