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ヴィスはウェイターに教えてもらった出口にでた。馬車乗り場の横を通り抜け、広くまっすぐ伸びる石畳の道にでると、足早に歩き始めた。夜風が冷たい。ヴィスはコートのボタンをしめ、白い息を吐き出した。
あれに乗れば早いんだろうな。
道のはしを歩きながら、猛烈な勢いで走る自動馬車(なんと馬が引っ張らない車!)をうらやましそうに眺めた。うわさには聞いていたが、まさか本当にこんなものがあるとは思いもしなかったので、ヴィスは乗っている人たちがうらやましくてしかたがなかった。
だが、乗るには金がいる。
もちろん、コーヒー代とはくらべものにならないほどの金額だ。
ヴィスは深いため息をついた。
駅から遠ざかるにつれ、人気がなくなり、自動馬車の行き来ばかりが目立つようになると、ヴィスは余計に落ちこんだ。これなら、うっそうとしたクラウスの森を一晩かけて歩くほうがまだマシだ。
少なくとも、そこでなら軽快に走る自動馬車を見ることはない。そもそも、クラウスの森には、まず道がないのだから……。
「もっと、値下げするべきだ」
通り過ぎた自動馬車をにらみつけ、ヴィスはひとり呟いた。無一文だから、いくら値下げしても乗れなかったが、言わずにはいられなかった。
ヴィスは石畳の道を一時間ほど歩いた。